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死神少女はどこへ行く  作者: ハスク
拾壱 ―巨人と巨船と魔導人形―
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全てを断つ死の一閃

残酷描写にご注意ください

【ナーガ海】

オーレリアが乗り込んだ巨船は武装も内装もハーベリアその物にしか見えない程に作り込まれていた。

一通り船を見終わった時に部下からキャプテン捕縛の報告を受けた。


船長室に入ると女性騎士に槍を突きつけられた小太りの男がいた。


オーレリアの姿を見た男は顔を青くした。


「お、お願いしますどうか命だけはお助けをぉぉぉ………」


その台詞を聞いてオーレリアは一気に冷めた。


「ふん、これだけの一大勢力の頭となった男が命乞いか。死んだ部下が浮かばれんな。帝都に送って獄に入れてやる。」


バイキンゴー海賊団キャプテンが予想外に小物だったことに失望したオーレリアはすぐに出ていった。


その時、船が大きく揺れた。


「なんだ?!」


倒れそうになったオーレリアを護衛が支える。


「何かが揺らしているような………まさか?!」







甲板に出たオーレリアは見覚えのある巨人を見上げた。


「陽動に気づかれたか………!!」


「殿下、ここは危険です!」


護衛がオーレリアを逃がそうとした。


「待て、あの娘達は………!」



オーレリアの視線の先には巨人に襲われる少女三人。

一人は怪我をしているのか動きが鈍かった。


「あの娘達を手伝うぞ。他の騎士や海兵も集めよ。」


「承知。」








「お願い。」


「ギャウ!」


エミリアとハンナを乗せてドラゴンが飛び上がった。

ドラゴンも大きい方だが巨人は更なる巨体を持っていた。

巨人が振り回す腕を避けながら頭部付近へ高度を上げる。


「ハンナ、目やれる?」


「やってみるよ。」


クロスボウを構えて巨人に狙いを付ける。

的は大きい、外す訳にはいかない。


「そこっ!」


必殺の一撃が繰り出された。


いくら巨人でも目は痛かったらしく悶絶していた。

激しく暴れまわる巨人から距離をとらせる。



直後に何かが飛んできた。


「ギャオゥ!?」


船の残骸らしき物を投げ飛ばされドラゴンに命中した。

何とかその場で持ちこたえて体勢を整えた。


だがドラゴンの背中から一人分の重さが無くなっていた。






「いっづ………」


結構な高さから落ちると下が水でも地面に叩きつけられたのと同等の衝撃が来る。

それでもエミリアは動いた。

あのデカいのを殺さなければならないと。


巨人はドラゴン目掛けて色々投げていた。

この様子では迎えには来れなさそうだ。

泳いでいくしかないか。


そんなエミリアを巨大な黒い影が覆った。



「ナタリー。」


ナタリーが乗っているであろう巨大な魔導人形ギガントがようやく追い付いたらしい。

圧倒的な力を持つギガントはナタリーの魔力でも動きは鈍かった。

ギガントがエミリアを片手で掬う。


「一緒にあいつを殺すよ。」


エミリアの瞳が赤く光る。

それに応えるかのようにギガントが移動を開始した。






ギガント越しにエミリアが海に落ちた場面、そして背中の傷を見てナタリーの怒りが頂点に達していた。

この怒りはあの巨人をぶちのめす以外に納まる気はしない。


そんなナタリーの怒りに呼応したのかギガントに変化が現れた。

黒かった身体が少しずつ青く染まり周囲を稲妻が走り出した。

ばちばち音がするという事は本物の稲妻らしい。


エミリアはそんな状態のギガントの登頂部によろめきながら立つとグリムリーパーを大鎌状に変形させる。


また凄い何かが出来そうな気がしたのだ。

思い立ったがすぐに行動に移すのが彼女だ。



大鎌を身体を使って大きく振る。その反動で更に振る。

これを繰り返してエミリアは回転し出す。


すると勢いに乗ってエミリアが回りながら浮き始めた。

回転は空気を巻き込み規模は大きくなっていく。

遂には海水をも吸い上げたそれは竜巻その物となった。


巨人は離れようとしたが追い付いたギガントに殴られ捕まった。


竜巻は巨人とギガントに接近、完全に飲み込んでしまった。


二体の巨人を飲み込んだ竜巻はやがて青白い稲妻を帯び始めた。

竜巻は既に小さな嵐と化していた。







竜巻が晴れると巨人は全身を切り刻まれていた。


これだけされても巨人はまだ生きていた。


宙に浮かぶ………というより落ちていってるエミリアは大鎌状のグリムリーパーを大きく振りかぶった。








「来世で後悔してろ。」





その瞬間、大鎌が凪ぎ払われ巨人は上下に両断された。

巨人は上半身だけになってもがくが次第に力を失い沈んでいった。









「もう………駄目………」


全ての力を使いきったエミリアは真っ逆さまに海へ落ちて行った。




着水寸前でギガントが両手でエミリアをキャッチ。

その状態で静止した。


「お姉様っ………!!」


背中の鋼鉄扉を吹き飛ばしたナタリーはエミリアの元へ向かった。

長時間ギガントに魔力を送っていたナタリーは流石に魔力が枯渇寸前らしくふらつきながら器用に伝っていく。


そして巨人の両手の真ん中で眠るように気を失ったエミリアをそっと抱き寄せた。


同時にハンナを乗せたフレイムドラゴンも到着した。


「お疲れ様ですわ、お姉様。」


「本当に無茶するんだからさ。」


「キュウ~~。」











夜の港町では宴が始まっていた。


戦闘に参加した冒険者や兵士、漁師達は大騒ぎだ。

今まで悩まされた海賊が壊滅したのだから。



この戦いの一番の功労者はこの場には居ない。

宿の部屋で心から信頼する仲間に囲まれ深い眠りについていた。

あれだけ大暴れしたのだ、明日は起きないかもしれない。


それでも少女達は構わなかった。

エミリアの側に居られるのであればどんな困難にも立ち向かうつもりだ。

例え世界を敵に回してもだ。











こうして海賊の驚異は去った。




漁師達は忘れないだろう。

海賊に挑んだ五人の少女達の活躍を。


冒険者達は忘れないだろう。

巨人に立ち向かった少女達の勇気を。


飛行騎士は忘れないだろう。

海賊達を惨殺した少女の狂気を。



印象は違えど彼らの思いは共通した。



彼女達に平穏あれと。

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