死神少女は防衛戦に参戦する
【ベルセイン帝国 港町セーベグ】
その日は雲一つ無い快晴だった。
太陽が真上に来る昼時に港町の警報の役割である小さな鐘が鳴り響いた。
バイキンゴー海賊団の襲撃だ。
港町は冒険者ギルドから派遣された創造魔導師によってある程度要塞化されていた。
まずは木材を使って高台と弩砲、投石器を組み上げた。
船には効果は薄いが甲板上の海賊に当たれば致命傷を与えられる。
更に石材も使用して物見櫓や防御壁等を組み上げ要塞化を進めた。
しかし海賊の主戦力は海賊船だ。
木製の壁では大砲一発で粉々にされる。
そこで出番となったのが神官の障壁だ。
神官達が張る障壁は魔法や砲弾等の飛び道具を防いでくれる。
障壁も無敵ではない為いつかは破壊されるが、運の良いことに今日の彼等には聖女クリスティアナがいる。
稀少な癒し手でもある彼女はサポートに回れば非常に頼もしい存在となる。
彼女自身も障壁を張ることで更に強固な守りが出来上がる。
エミリアを含む冒険者、そして町の兵士達双眼鏡で海戦の様子を眺めていた。
沖合にはハーベリアに次ぐ巨大な軍船が浮かんでいる。
要塞船ジェストは異形の軍船だった。
世界で最初のマストを必要としない船だ。横から見るとほぼ平面の船体は今までの船の常識を覆した。
動力は大型の風属性と水属性を宿した魔石だ。
船体に触れる海水の流れと風を操って船を動かす仕組みだ。
港町から見える船は巨船と護衛と思われる軍船数隻のみだった。
今、海軍が出せる最大の戦力だ。
海賊船は見えるだけで倍近くの船を浮かべて真っ直ぐ港町へ向かっていた。
先に仕掛けたのは要塞船ジェストだ。
ハーベリア程の規模ではないが砲弾の雨を降らせ海賊船を一掃した。
だがすぐに次の船団がやってくる。
まるで瞬間移動してきたかのように現れた。
そして海賊船の一部が海軍へ、残りは港町へ向かってきた。
「来るぞ!」
誰かの声をきっかけにそれぞれが配置につく。
弩砲と投石器はいつでも射撃可能だ。
港の兵士がいつの間にか用意した大砲も使える。
そして射程に入った海賊船に向かって投石器が作動した。
たかが石と嘗めてはならない、十分な速度があれば城壁に損害を与えられるのだ。
ましてや海賊船は木製、耐久力は段違いだ。
エミリア達は空から襲撃をする事にした。
他にも召喚獣と思われる魔物に乗った冒険者が空と海に別れて行動するようだ。
「エミリア、無理はしないでくださいね。」
障壁を維持する関係でクリスティアナは港町に残ることになった。
「大丈夫、私まぁまぁ強いから。」
いつもの台詞を口にする。
そしてエミリア達は飛び立った。
他の冒険者も続くように港町から離れていった。
「何も無ければ良いのですが…………」
エミリアは上空から襲撃する海賊船を決めていた。
できれば味方の砲撃が当たらないような絶妙な位置の船を見つけたい。
味方の砲撃で死ぬような間抜けな最期は嫌だ。
「レイラ、あれ行こう。」
「ガウッ。」
エミリア達の最初の犠牲者が決まった。
空から突然ドラゴンが降り立つと同時に一つの影が甲板上の海賊達の命を苅り始めた。
小さな死神がその身に合わない大鎌を振るう度に海賊の首が飛んでいく。
それだけではない、フレイムドラゴンのブレスで全てが焼き尽くされていく。
動き回るドラゴンの頭に乗る狩人は器用に、エミリアの視界外の海賊を正確に射抜いていた。
ものの数分で海賊船一隻を制圧したエミリア達は次の獲物に向かおうとした。
その時、港町に大きな人影が見えた。
「ナタリー…………」
港町に突然現れた巨人が障壁に攻撃をしかける。
冒険者と兵士は協力して巨人を追い払おうと、中にはよじ登る勇敢な物も居たが無駄に終わっていた。
既に障壁は何枚か破壊され、残すは高位の神官とクリスティアナが張った物のみだ。
「持ってくださいっ………!」
巨人が魔族とは考えられない。
となると障壁が破られればクリスティアナは巨人に対抗策が失くなってしまう。
残すはクリスティアナが張った障壁となった時にそれは空から現れた。
ナタリーは不機嫌だった。
魔導師団長ヨーゼフの提案を受け入れて以降、巨大魔導人形ギガントの動かし方に慣れる為エミリア達と離れる事になったのだ。
時間単位でどんどん機嫌が悪くなるナタリーを宥められるのは残念ながらこの場には存在しなかった。
彼女はギガント内部にいた。
背中の鋼鉄扉から入ると中は真っ暗だった。しかし魔力を送ると明るくなり座る場所もあった。
正面にはギガントが見てるであろう光景が映し出されている。ギガントが直立状態だとおおよそ180度まで見渡すことができた。
歩く練習をして大体動かすコツを掴んだ時、港町襲撃の報せが届いた。
『目標確認、間も無くギガントを投下します。』
水晶から飛行騎士の声が聞こえる。
ギガントは四頭のグリフォンにロープで吊るされ運ばれていた。
自力で移動すると魔力を余計に消費する上に必要以上の被害が地上に出てしまう。
こんな物を何故昔の人は作ってしまったのか。
「こちらはいつでも良いですわ。お姉様と離れた鬱憤をあれで発散させて貰います。」
『……どうかご武運を。』
やがてギガントも港に張られた障壁に攻撃する巨人を捉えた。
『カウント開始!3、2、1………切り離せ!』
合図と共にギガントを吊るしていたロープが一斉に切られた。
凄まじい轟音と水飛沫と共に巨大な魔導人形が降り立つ。
「覚悟はよろしくて?八つ当たりさせていただきますわ!」




