死神少女は巨人の対抗策を聞く
【ベルセイン帝国 港町セーベグ】
港町防衛の緊急依頼を受けたエミリア達はいつでも戦えるように港町で待機していた。
一夜開けて早朝、五人は漁師御用達の食堂にきていた。
珍しく早起きしたエミリアは自力で着替えもできたし、ご飯も「あーん」してもらわないで食べていた。
とはいえまだ半分寝ぼけているエミリア。
その視線は向かいに座るハンナとナタリーとクリスティアナ。
の胸に向かっていた。
三人揃ってそれなりの膨らみを感じるそれはテーブルに乗っかっているように見える。
エミリアの薄い胸では到底できない芸当だ。
見たところ三人の中ではクリスティアナが一番大きそうである。
多分ジャンプしたり走ったら揺れるのだろう。もげちまえばいい。
「…………リア。エミリア?」
不意に声をかけられてエミリアは思わず跳ねる。
「ふぇ?」
「もう、話を聞いていましたか?」
どうやら大事な話だったようだが全く聞いてなかった。
なので思わず、
「クリスのおっぱいがどうかしたの?」
さっきから目に入っていた膨らみを口に出していた。
「んぐふっ!!」
ナタリーは頑張った。
正面に座るエミリアの顔面に吹きかける訳にはいかなかった。
結果、紅茶が気管と鼻に侵入した。
「げぇっは!!お゛っほ!!」
噎せ方がオヤジのそれである。
一方クリスティアナは顔を赤くしながら胸を腕で隠した。
「どっ、何処を見てるのです!?」
「三人の中では一番大きそうだよね。」
エミリアの瞳の光がやや消えるが誰も気づかない。
「そんな事ありませんっ、私だって好きでこうなったわけでは。」
「何を食べたらそんな大きくなるの。」
「知りませんっ!」
クリスティアナはそっぽを向いてしまった。
下の話は苦手なのだ。
ちょっと可愛いなと思ってしまう。
何処で差がついたのか、やはり離れている間に膨らんだのか。
「そういえば魔力が多いと大きくなりやすいと話は聞いたことがありますわ。」
復活したナタリーがこんなことを言いだした。
「え?私、魔法とか全然なんだけど。」
確かに胸が中々あるハンナが魔法っぽい事をやってるのを見たことがない。
「魔法というのは幼い頃から使い方を学ぶ事が大事なのですわ。恐らくハンナ様は魔力自体はあるはず、使い方を学んでいないと大人になっても使えないまま。なんて事はよくある話ですの。」
エミリアは自身の薄い胸をぺたぺた触ってみる。
魔力の無いエミリアは温風を出すだけに留まっていた。
やはりまた触って貰わないとならないだろうか。
以前レイラにお願いしてお風呂で揉んでもらったことがあるのだが、エミリアがまぁ良い声で鳴いたのだ。
家のお風呂は露天風呂である。つまり声は外に漏れるわけでエミリアの痴態が広まる可能性があった。その場がよろしく無い雰囲気になりつつもあった為クリスティアナから業務停止命令を受けてしまっていた。
ふと隣でジュースをちゅうちゅう飲むレイラを見る。
見た目は幼いが魔法を扱う彼女はきっと将来有望なのだろう、色々と。
何れにしても少女達が朝から話す内容ではなかった。
話題は皆殺し対象であるバイキンゴー海賊団に変わる。
「レイラに乗って上からドーンで良くないの?」
エミリアの提案は単純だが実は案外有効な戦法だった。
船の真上は死角で大砲も弩砲も撃てない。
故に船乗りは弓かクロスボウを常備している。とはいえフレイムドラゴンを相手にするには不十分だが。
「それも良い考えです。しかし海軍を壊滅させる相手です、そう単純に行くとは思えないのです。」
「むぅ……。」
軍隊を壊滅させるということは、それだけ短時間で被害を与えられるということだ。
エミリアからしたら海賊自体は強くないが如何せん数が多い。
違う船から攻撃されたら何にもできなくなってしまう。投げナイフの距離はたかが知れてる。更に海の風は強い上に船の揺れで狙いがずれてしまう。
船の上はエミリアには相性が悪かった。
大した案も出なかったので五人は外に出る。
こうしている間にも海賊はやってくるかもしれない。
ふと海の方に視線を向けたが、それらしい船はまだ見えない。やっぱりいつも通り自分が前で暴れるしかないか。
ふと前からローブを纏った集団がこちらに向かってくるのに気がつく。
視線は明らかにこちらに向いている。エミリアが少し警戒した時、
「賢者ナタリー殿ですな?」
老けた顔の魔導師が声をかけてきた。
敵意は感じられないがエミリアが四人を庇うように前に出た。
「あら、ヨーゼフ様。外に出るとは珍しいですわね。」
「このおじさん知ってるの?」
「この方は魔導師団長ですわ。」
ナタリーが知ってるのなら大丈夫なのだろうと警戒を解いた。
「ヨーゼフ様、私に何かご用ですの?言っておきますけど魔導師団には入りませんから。」
「あぁ、それはいいのです。貴女を怒らせたくはありませんからな。ただ今回はナタリー殿のお力が必要なのです。」
「私の力…………ですか。」
これから話す事は秘密らしいので、こじんまりした民家に場所を移した。
帝国の偉い人用の隠れ家らしい。
「まず、バイキンゴー海賊団についてです。どうやら既に戦ったようですが。」
「うん。強くはなかった。」
率直な感想を述べる。
エミリアが気絶するハプニングはあったが本人は覚えていない。
「そうでしょうな。奴等一人一人はそこらのゴロツキと変わらない。」
エミリアに同意するように頷くヨーゼフ。
「しかし我が帝国海軍がそんなゴロツキ集団に壊滅させられてしまった。ある存在によって。」
「魔物か何かを飼っていたのですか?」
「半分正解です聖女様。」
「奴等は巨人を使って壊滅させたのです。」
「巨人?」
「ただの巨人ではありません。ハーベリアの巨獣砲を無効化する障壁を持っております。」
エミリアは巨獣砲が何なのかはわかっていない。
多分あの大きな船の凄い奴何だろうと思っている。
ということは巨人がもっと凄かったのだろう。
「ヨーゼフ様、それで私に何を望むのですの?」
「うむ。まずはこちらをご覧下さい。」
そう言うと古びた紙を取り出した。
魔導人形の設計図である。
「これは…………魔導人形?にしては大きいですわね。」
「かつて王国との決戦用に作られた巨大魔導人形『ギガント』でございます。」
「そんな名前の魔物がいた気がするなぁ。」
恐らくハンナが思い浮かべているのは巨人の魔物『ギガース』だろう。
巨人系の魔物としては最強と名高い彼は軍隊規模で対処するレベルらしい。
「お待ちを。こんな巨大な魔導人形、魔石の魔力で動かせますの?どう考えても移動で使いきりますわ?」
どうやらナタリーは図面だけでギガントの弱点である魔力不足を見抜いたようだ。
「その通り、ギガントは魔力不足で動くのがやっとなのです。そこでナタリー殿に直接魔力を送って頂きたい。」
「直接…………なるほど、このデカブツに乗り込めと。」
「左様でございます。昔も魔導師が乗り込んで魔力を送ったのですが十分な魔力を持つ者が居なかった。ナタリー殿の魔力ならば動かせるはずです。」
ナタリーは帝国でもトップクラスの魔力を持っている。
それだけの魔力があればギガントをまともに動かせるだろう。
「良いでしょう、私がそのデカブツを動かしましょう。」
「おぉ!それはありがたい!」
「その代わり………………」
ナタリーがヨーゼフの耳元で何かを話すと彼の顔色が分かりやすく悪くなった。
「これが条件ですわ。」
「か………必ずやご期待に応えましょう。」
ヨーゼフが去るとナタリーは随分と機嫌が良くなっていた。
「ナタリー、無理しちゃ駄目だよ?」
「勿論ですわ。お姉様を悲しませるような事はしません、必ずや巨人とやらを仕留めて見せますわ。」
「うん。絶対に帰って美味しいパンを食べよう?」
ナタリーを信じていない訳ではない。
ただ、巨人の撃破に失敗したら消耗しているであろうナタリーに代わりエミリアが代わりに殺さねばならない。
そしてこんな作戦を思い付いた…………ヨードル?とかいうおじさんも殺すことになる。




