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死神少女はどこへ行く  作者: ハスク
拾壱 ―巨人と巨船と魔導人形―
133/174

死神少女は釣りに挑戦する

【ナーガ海】

翌日、例のごとくエンジンのかかりが遅いエミリアが覚醒した時には昨日の漁場にいた。


依頼内容は達成していたのだが、実はサハギンは群れを壊滅させても別のグループがやってきて再び漁場を荒らすことがあるのだ。

その為最低でも一週間は監視をする必要がある。

危険度はそこそこだが対処に時間がかかるのがサハギンだ。


ちなみに漁師の男性達は海賊の砲撃で怪我をしたため今回はエミリア達しかいない。

船を操縦できる人はいないのでレイラに乗ってきた。



サハギン対策とはいえ夕方までこの場にいるとなると面倒だ。

この島には魔物の気配は無く、漁師共用の小屋がポツンと建っているだけ。

そこが木々に囲まれている以外は本当に何もない。


徐にエミリアは木の枝を折ると何かを作り始めた。

周囲で興味深そうに四人が見守っていると手作りの釣竿が完成した。


「素敵な釣竿ですわ!」


大袈裟にナタリーが褒め称える。

ただの棒きれに木の繊維等を巻き付けただけの代物だ。


「すごいや、魔物化した魚も釣れそうだよ。」


釣竿を見聞していたハンナからのお墨付きだ。

狩人の彼女が言うのなら間違いないのだろう。


「しかしよく作り方を知っていましたね。」

「うん……まぁ見様見真似?」


エミリアが孤独なサバイバルをしていた頃、無性に魚が食べたくなった事があった。

それまでは鳥肉や適当な魔物の肉、盗賊や冒険者を殺害して食糧を強奪していたが未だ魚肉を口にしていなかった。

亡き両親が、「木の枝があれば釣竿ができる」と教えてくれたが肝心の作り方を教わっていなかったのだ。

竿部分は完成したが釣糸部分の作り方がわからなかったエミリアは、何を思ったのか自分の髪を数本抜いて束ねると釣竿に巻き付けた。


当時の完成品は見た目は最悪だったが以外にも釣竿としては中々の物だった。

髪の毛という物は意外と頑丈で、黒の森に棲む大魚の力に耐えて釣り上げる事ができた。


今回も自分の短い髪を束ねるつもりだったが四人がかりで阻止された。

代わりにナタリーが糸部分を魔法で強化してくれた。

少なくとも切れることは無くなったようだ。







岩場で釣糸を垂らして数分、足をぶらぶらさせながらひたすら獲物を待っていた。


両隣でナタリーとクリスティアナが時折寝そうになるエミリアを支える。

後ろでハンナがクロスボウのメンテナンスを、更に後ろには大きな赤いドラゴンが体を丸めてお昼寝中だ。

サイズの割に意外と寝息が小さい為、釣りの邪魔にはならない。


「釣れたら港に戻っておサシミにしてもらいましょうか。」

「いいですわね!アズマ飯、一度食べてみたかったんですの!」


アズマ独特の料理を帝国ではアズマ飯と呼ぶ。

海産物を使ったサシミやスシは特に人気でアズマの料理人をわざわざ呼ぶ貴族もいる。




現在の釣果は知らない小魚数匹。

既に焼いて五人の胃の中である。




「…………む。」


水中にいる何かを感じ取ったエミリアは集中した。









血の臭いを辿ってきた彼はそれが釣糸だとすぐに理解した。

この糸の先に釣糸を垂らす獲物がいるはずだ。

しかも獲物は一人だけじゃないらしい。


勢いよく飛び出してガブリといけば混乱している間にもう一人くらい行けるだろう。

付いてきた仲間も準備ができたようだ。


彼の合図で一斉に飛びかかった。



ベシッと何かにぶつかる。

見えない壁のような物に阻まれた彼等は一瞬にして無防備になる。


目の前にはクロスボウを構えた少女、氷の刃をこちらに向ける少女、そして禍々しい黒い剣を振りかぶる少女。



次の瞬間、そこは地獄と化した。









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