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死神少女はどこへ行く  作者: ハスク
拾壱 ―巨人と巨船と魔導人形―
132/174

死神少女は疲れを癒す

【ベルセイン帝国 港町セーベグ】

巨大戦艦ハーベリアはセーベグに到着した。

しかし大きすぎて接岸できないため、小舟を降ろして送ってもらった。


巨船が視界から見えなくなるまでレイラは手をぶんぶん振って見送っていた。

あれだけ大きな船が近づいたというのに港の人間達はちょっと手を挙げるだけだった。

割と身近な存在なのだろう。


「ふぅ………。」


珍しくエミリアは疲れきっていた。

慣れない海上での戦闘はいつもより体力を使ったようだ。


「日も暮れてきましたし、宿へ向かいましょう。」


今回の宿は追加料金で夕食が出て新鮮な海の幸が楽しめる港町らしい宿だ。

遠出なのでちょっぴり奮発したらしい。

普段パンばかり食べているエミリアだがきっと彼女の舌にも合うはずだ。





「おかえりなさい、そろそろ食事ができるよ!」


宿のおばちゃんがエミリア達を出迎える。

いい時間帯に帰ることができたようだ。

そして出迎えはおばちゃんだけではなかった。


「にゃ~ん。」


鳴き声と共にやってきた白猫は看板娘ならぬ看板猫だった。


「あ、にゃんこ。」

「可愛いですわねぇ。」

「その子は野良猫だったんだけどいつの間にか住み着いちゃってねぇ。」


元々野良猫だった白猫がつまみ食いに来ていたのをおばちゃんが発見し、餌付けしたらそのまま居着いてしまったのだ。

それに伴い宿の名前は『海猫亭』へ改名。セーベグでは名の知れた宿となっている。


「なぁ~ん。」


甘えるような声でエミリアの足元に白猫がすり寄る。

幼い頃から彼女の元には猫が集まってきた。

変な野草を食べたわけでもなく、猫を何かから助けたわけでもない。

ナタリーとクリスティアナがいない時は大抵猫がいてエミリアの心の隙間を埋めていた。


「よしよし。」


手慣れた様子で抱き上げて頭を撫でると白猫は気持ち良さそうに目を細める。





「むぅ~~。」


言わずと知れた事だがレイラは誇り高き魔物ドラゴンだ。

幼体とはいえそこらの冒険者が束になっても敵わないような魔物だ。


元来甘えん坊なレイラはエミリアと出会ってからはことある毎になでなでや抱っこ等を求めた。

求めなくてもエミリア側からアプローチをしてくる事もあった。

頬っぺたをいいように伸ばされても良かった。自分に構ってくれるのであれば。

だから戦闘では圧倒的な力であらゆるものを叩き潰し、消し炭にして来た。


だから今、自分がいる筈のポジションに見知らぬ小動物が居ることが気に入らなかった。

頬っぺたを膨らましてみてもエミリアが気づくはずもない。


「賢者さま。」

「レイラちゃん?」


だからレイラはナタリーにお願いすることにした。

レイラの中でナタリーは何でもできる賢者さまだと認識されていた。


「にゃんにゃんのお耳と尻尾ちょーだい?」

「…………はい?」


流石の賢者もレイラの意図を読むことはできなかった。





一頻り猫を可愛がったエミリアは名残惜しそうに自分達の部屋へ向かおうとした。


その時レイラがスカートを掴んだ。


「レイラ?」


レイラは頬っぺたを膨らまして見上げていた。

そしてエミリアに抱きつくと胸に頭を擦り付けた。


「ん、よしよし。」


よく分からないがエミリアは甘えたりないのだと判断した。

レイラが猫の臭いをかき消すようにマーキングしていると気づいたのはハンナだけだった。




海の幸を味わった五人は例のごとく四つしかないベッドの取り合いを始めようとしていた。


しかし今日はいつもと違った。


「私、思ったのです。四つしかベッドが無くてもこの様な争いをしなくて済む方法はないものかと。そして辿り着いた答え、それは。」


ナタリーが指をかっこよく鳴らすと四つのベッドが移動して一ヶ所に集まった。


「ベッドを繋げれば家と同様にお姉様と寝られますわ!」


おぉ~と感心する少女達。

本来この様な勝手な模様替えは宿の許可が無いと怒られるのだが、そこは腐っても賢者、翌日元に戻せるのならとおばちゃんと話を付けていた。








「あづい……………」


なんとなく予想はしていたが、両手両足はそれぞれ抱き締められ四人分の体温を受け入れることになったエミリアの長い夜が始まった。

作者は猫大好き人間ですがアレルギー持ちの為、画面越しでないと愛でることができません。


ちくしょう。

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