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死神少女はどこへ行く  作者: ハスク
拾壱 ―巨人と巨船と魔導人形―
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死神少女は魚狩りを行う

【ベルセイン帝国 小さな村リネ】

エミリア達が選んだのは【港湾都市セーベグ】近くにある漁場に現れる魔物の討伐だ。


有名な漁場でマグロやタイと呼ばれる高級魚が獲れるのだが当然それを狙う魔物も現れる。


今回討伐するのはサハギンの群れとキラーフィッシュ数匹だ。


キラーフィッシュは殺人魚の呼名通り獰猛で犠牲者が後を絶たない。視界内で動くものは何にでも食らいつき、自分より大型の魔物を襲うこともある。

一方でその身は美食家達の間では高い評価をされており、マグロ並の高級魚として知られている。

危険生物故、市場にはなかなか出回らないが。


魔物図鑑で粗方の知識を詰め込むといよいよ出発だ。


交通の便が悪すぎる田舎から馬車で向かうと二日はかかる。

だが彼女達はもっと良い移動手段を持っていた。


「レイラ、行こう。」

「ガオゥッ!」


赤いドラゴンは四人の少女を乗せて飛び立った。


どんどん羽ばたいてあっという間に雲と同じ高さに到達する。

地上を見下ろすと魔の森が広がっていた。


「えーっと方角は………向こうですね。」

「レイラ、ちょっと右向いて…………ん、その向きで。」


コンパスを使って進行方向を指示。

ドラゴンは真っ直ぐ進んでいく。


ドラゴンの左前足には青い布が巻かれていた。

竜化と共に巨大化したらしい。いつも着ているワンピースが消えてる様に不思議な力が働いているらしい。


「これならあっという間に着きそうだね。」

「そもそもドラゴンで移動できる人間はこの世で飛行騎士くらいですよ。」

「今の飛行騎士でドラゴンが相棒なのは皇妃様しかいないはずですわ。」


数十年前までは帝国飛行騎士団にはレッサードラゴンやワイバーンに騎乗する者がいたらしい。

しかし突然ワイバーンが主人を食い殺してからは、帝国飛行騎士団で竜種の扱いは特別な許可がない限り禁じられてきた。


皇妃ブリュンヒルデはまだ若さを感じる見た目だが既に五十近い。

そろそろ引退も考えられていた。


次期飛行騎士団長の最有力候補は第一皇女とされている。





「レイラ、そろそろ降りよう?」


港らしき場所が見えたので少し手前で降りてもらう。

いきなりドラゴンが現れたらパニックになるのは目に見えていた。


四人を乗せたドラゴンはゆっくり着地して皆を降ろす。

身体が光ると赤い巨体は可愛らしい少女に姿を変えた。

ワンピースも着ているし左腕の布も何故か小さくなっている。


「ありがとう、レイラ。」

「えへへ。」


レイラは頭を撫でられてご満悦だった。





【ベルセイン帝国 港町セーベグ】

帝都に最も近い港町は漁師の町として知られていた。

町そのものは大きくないが帝都に近いため人の出入りはそれなりにあった。

新鮮な魚介類を帝都に運ぶため行商人は勿論、内陸部に住む亜人達も取引に訪れていた。

また、近くには国内最大の軍港グラドがあり港町は海兵によって守られており軍船も時折巡回している。

時折鳴り響く鐘の音は停泊中の戦艦が時報として鳴らしている。

就役100年にもなるそれはこれまで何度も港町に訪れた危機から救ってきた守り神として住民から慕われているのだとか。







「まさかお嬢ちゃん達みたいな子だったとはなぁ。いや人は見かけにはよらねぇな。」


エミリア達を漁船に乗せているのは依頼人らしい。

海の男らしく、なんかパワーのありそうな見た目をしていた。ムキムキである。


「サハギンどもだけなら俺たちでなんとかできるんだが、キラーフィッシュまで来やがる。もう手に負えなくなっちまってな。」


船で目的地へ向かいながら依頼の経緯を話す漁師。

船にはムキムキな男が他にも数人乗っている。それらがサハギンを蹴散らすのは簡単に想像できてしまった。

彼等が使う漁船は帝国ではごく一般的な物で乗員は最大十名。

漁船の船首には弩砲が備え付けられ、それには巨大な槍のような物がいつでも撃てるようになっていた。

これは大型の魚を仕留める為の物で射程は数百メートルにも及ぶ。槍はロープで結ばれ刺さった獲物を釣りの要領で引き寄せることができる。

キラーフィッシュもこのは方法で仕留められるがサハギンが一緒なので使えないのだ。


サハギンは危険度が低いとはいえ魔物に変わりはない。

魔物退治は冒険者か騎士団の仕事なのだがこのように何でもない人間が倒すのは珍しいことだ。


「キラーフィッシュは焼いても良いし捌いても美味しいんだよ。」

「んー……マグロとかサーモンよりも?」

「勿論!」


ハンナにより今夜の夕飯が決まった。









到着した漁場はとある島の岸だった。

ここでは漁獲対象のホワイトサーモンの生息地として知られていた。

つい先日までは居なかったサハギン、キラーフィッシュが現れてからは漁や漁船に被害が出始め漁どころではなくなってしまった。


「ちっ、早速お出ましだ。」


岸の岩場に見張りと思われるサハギンがいた。

水面に見える銀の背びれはキラーフィッシュの物だろう。


「漁師さん、サーモンはまだいるの?」

「いや。彼奴らがいるからどっかへ行っちまった。多分倒せば戻ってくるとは思うんだがなぁ。」

「そう。」


漁師の解答にエミリアはうんうんと頷いた。


じゃあ遠慮はいらないか。


「ナタリー、お願い。」

「お任せくださいな。」


待ってましたと言わんばかりにナタリーが指を振ると空中に巨大な魔方陣と黒い雲が現れた。

そして魔方陣が回転すると真下に雷を落とし始めた。


最大級雷魔法『サンダーボルト』をナタリーが独自に改良した『サンダーゾーン』というらしい。

準備は数秒、魔方陣の真下は死角無しの落雷エリアと化す。

雷への耐性が相当高くないと生き残ることはできない。


当然と言えば当然だが味方への配慮はゼロだ。

古来より範囲魔法は味方を巻き込むのが唯一にして最大にしての欠点だった。





数分後にはその漁場は大量の死骸で溢れていた。


「へへっ、こりゃあすげぇや。頼んだ甲斐があったってもんだ。」


漁師達はキラーフィッシュの死骸を回収する。

滅多に獲れない危険魚がこれだけいるとかなりの稼ぎになるらしい。


「流石ナタリー。」

「うふふふ、今日も絶好調でしたわ。」


エミリアが撫でようと手を伸ばすとナタリーは少し屈んで頭を出した。






髪に触れる直前エミリアは突然振り返った。



「ギャアァァ!」

「邪魔。」


グサリと飛び出してきたキラーフィッシュを貫くエミリア。


「天誅ですわ。」


ナタリーは氷塊を出すとキラーフィッシュを徹底的に潰した。

なでなでの邪魔は万死に値するらしい。






「どーん?」


ハンナが不意に呟いて見回すと直後に凄まじい衝撃が襲いかかった。




「きゃああぁぁぁ!?」


突然起きた爆風で何人かが海に投げ出される。








突然吹っ飛んだエミリアは何が起きているのか理解するのに時間がかかった。

そして自分が水中にいるとわかると水面目指して泳ぎ始めた。


「ぶはっ………………。」


水中にから顔を出すと少し離れた場所に漁船にいるナタリー達。

そして横から聞こえる激しい水しぶきの音。


「たすけっ…………!!およげなっ…………!!」


溺れているハンナだ。

狩人として無双の強さを誇るハンナは金づちだった。


沈みかかっているハンナに肩を貸すと漁船に向かって泳ぐ。

体格差があるためエミリアは非常に泳ぎにくい。

それでも死なせないと気合いで漁船まで辿り着く。


「げほっ…………ごほっ…………」


むせるハンナをクリスティアナに託すとエミリアはある場所を睨んだ。



その先には数隻の大きな船。

帆にはドクロマークが描かれたそれは一目で何者なのかが理解できた。


漁師の一人が叫ぶ。




「バイキンゴー海賊だ!!」

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