蒼き絆
【ベルセイン帝国 小さな村リネ】
薄暗い部屋にナタリーは一人閉じ籠り頭を抱えていた。
ここはナタリーの錬金術用の部屋。
背後には錬金術に使う大きな鍋と竈。傍らには何かの残骸が集められていた。
壁にはいつ撮影したのかエミリアの写真が大量に飾られ一種の狂気を感じる。
彼女は姉のエミリアからクリスティアナのゴーレム復元を頼まれており時間さえあればこうして作業を進めていた。
錬金術は専門外だったが独学でエリクサーを作れるレベルに達したため元から才能はあったようだ。
そんな彼女の悩みはゴーレム復元のための材料が足りないことだ。
「オリハルコン鉱石………そんなものまだ残ってるんですの?」
数百年前まではオリハルコンを使った装備が出回っていたらしい。
オリハルコンは今や稀少鉱石。北の魔族領なら可能性はあるかもしれないが。
「ダメですわ。一休み、気分転換しましょう。」
壁に当たったら一度休んで考えを改める。
冷却期間を置けば新たな発見を得られることもあるだろう。
部屋から出て何かを呟くと扉だった場所は壁と同化した。
これで誰も見つけられないし入ることも出来ない。魔王レベルでも来ない限りは。
「はっ!!このままではお姉様に会えませんわ!!」
ナタリーは汗をかいていた。
この状態でエミリアに会いに行くと不快感を与えてしまう。
もし最愛の姉に拒否されたら絶望のあまり世界を永久に凍らせてしまうかもしれない。
家の裏手には温泉がある。
窓から飛び出て一風呂浴びに向かった。
「お姉様ぁぁ~。」
「むぎゅぅー。」
綺麗さっぱりしたナタリーがエミリアを抱き締め補給を行う。
こうして世界の危機は去っていくのである。
エミリアが覚醒するのを待っててギルドへ向かう一行。
新たな冒険ができないか内心ワクワクしていた。
メイドな受付嬢ティナがいくつかの依頼書を持ってきた。
「あれ、その依頼書は?」
「皆様への指名の依頼です。今回のダンジョンの件で是非にと。」
依頼書に書かれた依頼者の名前は貴族や商会ギルド、同じ冒険者からの協力要請まであった。
「何を選ぶかは自由です。選ばなくとも問題ありません。どんなお仕事をするのかは冒険者が決めることですから。」
「どれにいたしましょう?」
ひとまず受付カウンター近くのテーブルで依頼書をじっくり見ることにした。
依頼書は五つ、三つは護衛依頼だった。
「ごえい?」
「誰かを守ることですわね。例えば此方は貴族のお嬢様、其方は商人の荷馬車を守るのが目的ですわ。」
「こういう依頼は大抵山賊や多くの魔物を相手にすることになります。難しいですがね。」
「むぅ……。」
正直エミリアは赤の他人を守る気にはなれない。
これが仲間の誰かだったら命がけで果たすのだが。
「気乗りしないならこちらの依頼でも受けますか?」
クリスティアナが選んだのは港で漁場を荒らす魔物の討伐依頼だった。
「じゃあそれで。」
エミリアの一声で全ては決まった。
「ところでさ。」
エミリアが青い布を取り出した。
布は五枚、人数分用意されてある。
その一枚をエミリアが広げると青地に黄色で大鎌っぽい物が縫われていた。
「せっかくだし、皆でお揃いのやつ着けたいなって思ったの。」
残りの布を広げていくと炎、クロスボウ、魔方陣っぽいもの、天使の羽がそれぞれ縫われてあり四人はすぐにどれが誰の物なのかがわかった。
「「「「一生大切にする!!」」」」
エミリア達、冒険者パーティーは生まれ変わった。




