死神少女を阻む者
【魔のダンジョン 第四階層】
エミリアと闇剣の精霊ルールーは上層へ向かう階段を上っている。
ルールーの右手には首だけになった魔族が突き刺さった棒、それを階段にぶつけながら進んでいた。
ダンジョンの階段は結構長いので魔族の顔はぼこぼこに腫れ上がっていた。
上層への扉に近づいた時に気配を感じたエミリアは手を挙げてルールーを止めた。
「急にどうしぐぎゅ!」
首だけの魔族をルールーの靴が黙らせた。
感じ取った気配は四つ。
エミリアは躊躇なく扉を開けた。
「お姉様ああぁぁぁぁ!!」
「お姉ちゃああぁぁぁん!!」
「エミリアァァァ!!」
「むぎゅうぅぅぅ!」
エミリアは予想できていたが三人分の飛び付きに耐えられる筈もなく押し倒された。
別れて一時間も経っていないのだが彼女達には数倍以上の時間に感じていたようだ。
「主、モテモテ。」
主人が揉みくちゃにされる様を楽しそうに見るルールー。
「あの、貴女は精霊様ですか?」
三人のような度胸が無く傍観していたクリスティアナはルールーに気づいた。
「聖女ね。久しぶりに本物を見た。」
「本物………ですか。恐れ入ります。」
ルールーには生物が持つ魔力が見える。
そしてその魔力が持つ属性からどんな人物なのかも分かってしまう。
「貴女が現れたということは、力が戻ったのですね?」
「ん。こうして実体化できるようになったのも主のおかげ。」
精霊の多くは自力で肉体を維持できない。
宿った物が沢山使われるか契約者が魔力を活用しなければならない。
闇剣に変異したためルールー自身の属性も変わったため時間はかかってしまったが。
「あら、精霊様ですわね。ようやく出てこられたようで。」
エミリア分を補給し終えたらしいナタリーがルールーにようやく気づいた。
「ナタリーはルールーのこと知ってたの?」
「魔法を扱っていると精霊の存在には気づくことはできますの。このようにはっきりと見るのは初めてですが。」
「イフリートとかいるでしょ?あれは強いからだいたいの人間に見える。」
ルールーの説明にエミリアは納得した。
実はエミリアも剣からルールーの気配を感じ取っていた。
すごい剣だから何かしら憑いているのだろう、クリスティアナとナタリーが何も言わないし害にもならないので黙っていたのだ。
側で聞いてるレイラとハンナはエミリアに凄い人が力をくれてると認識したらしくはしゃいでいた。
基本的にエミリアの敵でないなら何でもいい二人だ。もし敵だったら殺せばいい。思考がすっかりエミリア化しつつある。
エミリアが下層であった事を話すとクリスティアナ以外が首だけの魔族に一発ずつお見舞いした。
晴れ上がった顔に新たに矢と氷柱が刺さり火傷も増えた。
「魔族がいたとなるとギルドに早く戻り報告するべきでしょうね。」
「これは大発見ですわよ!きっとお姉様の活躍は認められるはずですわ!」
ナタリーはすっかり興奮していた。
妹として姉の評価が上がることを誇りに思っているのだ。
目立ちたくないエミリアは複雑だがナタリーが喜ぶので一先ず頷いておく。
「ちょっと待った!!その首を俺たちに渡してもらおうか!!」
突然広間に響く声。
そこには焦げた鎧を着た大声冒険者のレオと仲間の冒険者が立ちふさがっていた。
レオ・カバハ率いる冒険者パーティーは現在没落への道を辿っていた。
数ヵ月前に仲間だった支援魔導師を「お荷物だ」と追放してから、それまで倒せていた魔物が倒せなくなり冒険者としての信用を失くしていた。
エビルベアやレッサードラゴンに挑む度に返り討ち。
所属するギルドのマスターから最後通告を受けてしまう。次はないと。
まるでどこかで聞いたような話だがレオは自分の判断が間違っていないことを証明するため、新ダンジョン調査に名乗り出た。
だから彼は手段を選んでいられない。
目の前の少女を排除して手柄を横取りしなければ生き残る道はない。
その為には成人していない少女を殺すことも躊躇わない。
彼等は少女達に刃を向ける。
だが彼等は知らない。
彼等が敵対した少女達は普通でないことを。
仲間の魔導師が足元に及ばないシスコン賢者。
弓使い以上の精度で急所を射抜く亡き母に思いを馳せる名狩人。
神官以上の障壁を展開しあらゆる傷を癒す恋する聖女。
今の彼等では束になっても敵うはずのない寂しがり屋の炎竜。
そして闇剣の主人であり、帝国将軍と名冒険者の武勇と残忍さをしっかり受け継いだ殺人鬼。
隠しているわけではないため調べればすぐにわかる彼女達は普通の冒険者には止めることができない。
彼等は戦う相手を間違えた。




