死神少女は平穏を乱す者を許さない
【ベルセイン帝国 小さな村リネ】
突然のことだった。
配備されていた警備の兵士が鐘を鳴らした時には既に野盗集団と魔物が村に侵入していた。
村には元々配備されていた兵士が少なかったため、手の空いている冒険者が村の守りについた。
しかし野盗だけならともかく、魔物も同時に相手する必要があるため手を焼いていた。
冒険者が魔物に気を取られている間に野盗が民家の扉を蹴破る。
「うげぁ!!」
それは敵わず後ろから頭を貫かれ野盗は絶命する。
野盗を扉ごと貫いたグリムリーパーを小さな手が引き抜く。
「………全部殺す。」
グリムリーパーを思い切り振る。
ただの空振りではない、振った場所から赤い刃の衝撃波が魔物も野盗も巻き込む。
「ガキがふざけやがって!」
野盗の一人が斧を投げた。
「ふん。」
難なく掴むと持ち主に投げ返す。
頭部に直撃。
「来世で出直して。」
ハンナは弓使い冒険者と共に屋根から狙撃していた。
ワスプの麻痺毒に浸けた矢は掠り傷でも痺れが全身に廻っていく。
新たな矢をクロスボウにセット中、ハンナはふと魔物の動きを見る。
騒ぎの初めを見ていたわけではないが彼女にはどうしても気になることがあった。
「このファング達………おかしい。」
「どういうことっスか?」
それは狩人であるハンナだから気づいた僅かな違和感。
「肉食のファングは人間も襲って食べる。でもこいつらは怪我させる程度で終わらせてるし、何より悪い奴等を襲ってない。こんなこと有り得ない。」
「偶然………にしてはできすぎてるッスね。」
「あいつらの仲間に魔物を操れる奴がいるのかも。そいつを何とかしないとやばいかもしれない。」
「それは一大事ッス!ギルドマスターに連絡してくるッス!」
弓使いは屋根から飛び降りると冒険者ギルドへ走っていった。
束の間の急速に水筒の水を飲む。
毒入りの瓶と違いラベルは貼られてないから間違う心配はない。
「ぷはぁっ。よーし次は!」
レイラの前でエミリアが次々に野盗やファングを肉塊にしていく。
ナタリーも氷の壁でエミリアへの驚異を防ぎつつ風の刃で野盗を切り刻む。
クリスティアナは他の冒険者に回復魔法を使っていた。神官職が少ないため今回は彼女に依存しているようだった。
私も!と炎でファングを退ける。
後でエミリアにたくさん褒めてもらい、いっぱい撫でてもらうためだ。
それに竜の自分を村の住民と冒険者達は受け入れてくれた。
彼等はレイラの味方、優しい人たちだ。
だから皆のために悪い奴を燃やしてしまおう。
きっと皆も褒めてくれるだろう。
その時である。
レイラの体が意識に反して動かなくなった。
炎を出すのを止めるとそのまま何処かへ歩き出す。
助けを求めようにも口も動かすことができない。
周囲を守るようにファングが集まり森へ向かっていく。
「レイラ?」
野盗集団をあらから殺し尽くした時に森へ消えていく赤い髪をエミリアは見つけた。




