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死神少女はどこへ行く  作者: ハスク
玖 ―私の居場所―
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死神少女は始めての依頼をのんびりこなす

【ベルセイン帝国 小さな村リネ】

エミリア達が冒険者となり数日が経つ。

新人冒険者パーティーの中に賢者や聖女、狩人に竜とちょっとした騒ぎが起きたが意外と早く治まった。

ギルドマスターであるフローラやリネ村長の尽力もあり、レイラの正体を冒険者や村人は受け入れてくれた。



そんな新人冒険者パーティーは村の畑の見回りをしていた。


冒険者といえば魔物退治やダンジョン攻略を思い起こすが、ランクが低いうちは簡単なおつかいが主要な仕事となる。

賢者や聖女がいるとはいえ新人にいきなり高難度の依頼を斡旋するわけにはいかないのだ。

ナタリーは不満そうだったがギルドとして冒険者全員を平等に評価するためだと説得され納得した。


見回りする畑の持ち主である老人は腰を痛めており、普段は村の若者に手伝ってもらっているのだが生憎今日は手が明いてないため冒険者ギルドに依頼を出したのである。

まさか老人にとって孫娘のような年齢の少女達が来るとは思わなかっただろうが。


エミリアは膝にレイラを寝かせながら本を読んでいた。

隣に座るクリスティアナが暇潰しにと空間魔法に入れていた物だ。

読書中も周りの気配は感じ取れるし、何よりハンナが歩哨のようにクロスボウ片手に歩き回っているから何かあれば彼女が知らせてくれる。


「すまんのぉ、こんなじじぃのために来てくれて。」

「いえ、これも務めですから。」


老人は労いにとお菓子を持ってきてくれた。

クッキーと安いお茶だ。


「こんなものしか用意できんが、遠慮なくたべてくれ。」

「わざわざすみません、いただきますね。」

「美味しそうな匂い!」


クッキーの匂いにつられたハンナが走ってきた。






「失礼、少しよろしいでしょうか?」


エミリア達がクッキーを食べていると見知らぬ女性が声をかけてきた。


白い装束に赤い袴という帝国ではまず見ない格好の女性は東の大陸アズマの人間か。

背中には長柄の武器、薙刀を背負っている。


「ふろーらという方を探しているのです。この村にいると聞いたのですが。」

「フローラ………ギルドマスターのことかな。」

「この時間ならギルドにいるはずですわ。私が案内しましょう。」

「まぁそれは助かります。えっと………」

「ナタリーですわ。」


「アズマで巫女をしてます、鬼島桃江と申します。桃江と呼んでいただけると。」

「ではモモエ様、参りましょう。」


ナタリーは桃江をギルドへ向かっていった。


「アズマの巫女はかなり派手な格好をしてるのですね。」

「そうなの?」


帝国や王国にも大教会に巫女と呼ばれる者が存在する。

主に祈祷で首都を覆う結界の維持、呪われた物品の解呪、アンデッドの浄化が仕事だ。


「確か白を基調とした物が多いですね。ただ私は着たいとは思いませんが。」


あまり知られてないが実は巫女の衣装、かなり肌の露出が多い。

胸元は開かれ胴回り、お腹から背中は布に覆われておらず、スカート部分は片側に大きくスリットが入っている。そんな衣装だ。

聖都にいた頃に何度か目撃したが見てるこちらが恥ずかしくなるくらいだ。


彼女らは基本的に裏方で仕事するのでそんな際どい格好は一般に知られてないのだ。


当時言い寄られていた第二王子をもてなすために巫女の衣装を用意され、着させられたのはクリスティアナ一生の黒歴史だ。



「レイラ、口についてる。」

「んぅ?」


レイラの小さな口の一部分にクッキーのかす。

それをつまむとエミリアはそれを食べた。


「お姉ちゃんもついてる。」

「んっ。」


お返しにとレイラは口元についたそれを舐め取った。


「なんか………妬けますね。」


まるで恋人同士のやりとりに何故かクリスティアナは嫉妬した。そして同時に自分も………という考えに気づいて首をぶんぶん振った。


ただ一人ハンナは平和にクッキーを堪能していた。







時刻は夕方、畑の見回りはこの時間までの約束だったのでギルドへ依頼達成の報告へ向かうことにした。

老人は何度もお礼を言い、また来てくれることを望んでくれた。


「お、エミリアちゃん。」

「げっ。」


声をかけられた方向を向く見覚えのあるビキニアーマー戦士のセリカと仮面を着けた死霊術師リリノアの凸凹コンビ。

エミリアは肌の大半を隠さないビキニアーマーを見て思わず嫌そうな声をあげた。


「あれ?なんか知らないうちに嫌われてる?」

「絶対あんたの鎧のせいよ。」


仮面越しからも呆れてる顔をしてるのがわかる。

顔を見たことはないがきっと美人さんに違いない。


「セリカさんにリリノアさん、どうしてここに?」

「向こうのギルドから移籍したんだよ。」

「まぁ、間違ってはないわね。」


実際は家族や領民ごと亡命したのだが言わないことにした。


「ところでフローラから聞いたわよ?冒険者になったんだって?」

「うん。」

「冒険者は不安定だから私はおすすめしたくなかったんだけど。」


リリノアは腰に手を当てた。

彼女なりにエミリア達の将来を気にしていたらしい。


「冒険者じゃないと村にできたダンジョンに行けないと聞きまして。」

「あぁー………そういうことね。」


ナタリーの返答に溜め息混じりにリリノアが理解したようだ。


「私達はまだ行ってないけど相当手強い連中が待ち構えてるらしいわよ。」

「いやぁこのドキドキ感は新人時代を思い出すよ。」


どうやら二人も例のダンジョン攻略のためリネのギルドに所属したようだ。


「そうね………貴女達なら割りと早めにCランクくらいまで来そうね。」

「その時は一緒に依頼受けてみない?私強い子と一緒に戦うの好きだし。」


そう言うと手を振りながら二人は村の中心部へ向かっていった。


これまであの二人には世話になっているし一緒に行くのも悪くはないと思う。



ただ、あの格好は無い。エミリアはどうしてもビキニアーマーを受け入れることができなかった。








日が沈み、夜になるとエミリア達はナタリーに連れられ村のはずれに向かっていた。


リネに隣接する【ティア活火山】は夏の間のみ火山活動を行う特性を持っている。

火山活動と行っても村から見れば噴煙を上げる程度で特に悪影響は受けていない。

この火山があるため村の地下水は暖められ、温泉として見つかることがあった。


ナタリーは労いと称しているが実際今日はたいした仕事はしておらず、ただクッキーをつまんで本を読んでいただけ。


……要は皆と温泉に入りたいだけなのだが。



「そういえばありましたね温泉。小さい頃はよく来ていました。」

「クリス達と離れてから来てないから………すごく久しぶり。」

「効能は存じませんがきっとハンナ様やレイラちゃんもお気に召しますわ。」

「それは楽しみかも!」

「温泉…………どんなのかな?」


レイラはどうやら温泉初体験らしい。

ナタリーが言うのでとても楽しみにしているようだ。







村の危険を知らせる鐘がなったのはその時であった。

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