死神少女は冒険者になる
【ベルセイン帝国 小さな村リネ】
夜が明けてエミリア達は冒険者ギルドを訪れていた。
例のダンジョンへ潜るには冒険者登録が必要だと知らされたのだ。
エミリアの意識が覚醒した頃にギルドへ来てみると以外と中は閑散としていた。
ほとんどの冒険者は出掛けているらしく、中で受付嬢と思われる女性が暇そうに欠伸をしていた。
冒険者登録と聞いて慌ててギルドマスターの部屋へと案内されると、中には若い女性が待っていた。
「ようこそ新たな冒険者諸君、私はギルドマスターのフローラだ。」
部屋の奥から侍女の服を着た先ほど欠伸をしていた受付嬢がお茶を持ってきてくれた。
というより侍女服がここの制服のようだ。
「ギルドマスターとして新たな仲間を歓迎しよう。その前にまずはこの紙に色々書いてほしい。」
フローラは何処かから紙を五枚取り出して差し出した。
記入欄に自分の情報を書き込んでいく物のようで、いくつかの項目に『星マーク』が描かれてある。
「星マーク付きの記入欄は必ず書いてほしい。それ以外の欄は書かなくとも構わないよ。嘘は書かないでね。」
記入欄は主に
・名前
・生年月日
・出身地
・種族
・自衛手段
・使える魔法
・持っている能力
他にもあるが割愛。
「えっと………」
「…………。」
書いてる最中、レイラがある項目で困っていた。
「…………ギルドマスター。」
「フローラでいいよ。何か困り事?」
「お姉ちゃん……。」
「大丈夫、多分この人はいい人。」
「?」
困惑するフローラにエミリアが耳打ちする。
レイラが竜であること。
これまで正体を明かしてないことを。
「なるほど、訳アリってことね。」
「ん。」
フローラは少し考えると
「気持ちはわかるよ、大切な仲間だもんね。ただ私は自分の正体を明かすべきだと思う。」
瞬間部屋の空気が変わった。
「あぁそう気を張らないで。これは君たちの為でもあるんだ。」
「?」
フローラは続けた。
「例えばだよ?君達が何らかの依頼に向かった。そこでレイラちゃんがドラゴンの姿となったとしよう。そこを何も知らない冒険者や騎士が来たらどうなる?」
そう遠くない未来にあり得そうな事象。
エミリアとナタリーなら生き証人を残らず血祭り、永久凍結にするだろうが。
「悲しい未来を訪れさせない為にも、私は正体を明かすべきだと思うんだ。まぁいきなり広めたらパニックが起きるだろうから時間をかけて、少しずつね。それに………」
少しレイラを見て再び続ける。
「案外変身できる魔物っていたりするんだよね。」
「そうなの!?」
ハンナが妙なところで食いついた。
「あぁ。どこのギルドだったかは忘れたけど確かレイラちゃんみたいに人化できるのがいたはずだ。だからきっとレイラちゃんも受け入れてくれると思う。」
ギルドマスターとのやり取りが終わって一同は冒険者ギルドを後にする。
冒険者登録は無事終えたが本格的な活動は翌日からと言われたのだ。手続きやら準備やら色々あるらしい。
「………良かったのかな。」
不安そうに呟くレイラの髪をエミリアが優しく撫でた。
「フローラさんの言うことも一理あります。説明無しに竜の姿を見て驚かない人間はいないでしょう。」
「冒険者や狩人が見たら間違いなく倒しに来ると思うな。」
「その通りですわね、まぁ私がいれば全員凍らせ、粉々にできますわ。」
相変わらず血の気が多い賢者である。
やれやれと溜め息をつくクリスティアナにじゃあ遠距離は私がとハンナもその気になる。
そんな空気にレイラはちょっぴり安心した。
レイラはひとりぼっちだったエミリアに元気をくれた大事な仲間だ。
あのギルドマスターの言うことも確かにわかる、いきなりドラゴンが現れたら騎士団が出動する事態にもなりかねない。
レイラは傷つかせない。
悪い奴等は全員殺す。どれだけ自分が血を流そうと…………。




