ミランダの言葉
『竜の伝説』は終わり、ここからは本編に戻ります。
オルガはミランダを見つめ、何度も瞬きをした。
「……何を言っているの? ミランダ叔母さん。ソル王女は八百年前の人でこの世にはもう……」
ミランダはオルガにどうわからせたら良いのかと思案しているように一瞬間をおいて、それから静かに口を開いた。
「……オルガ……本当は『竜の伝説』の資料なんて無いの。そして二匹の竜の資料はいたという記述だけ。こんなに詳しく話せるのは、これは私の事だから、私自身が経験した事だからなの……オルガ、貴女はそれを知って……」
ミランダがそっと手を差し伸べた。その指がオルガの頬に触れる直前にオルガはその手を払った。オルガは目を見開き横に首を振る。
「……違う……ソル王女は……叔母さんでは……」
オルガは『おばさんではない』と言おうとしてその言葉を飲み込んだ。ミランダの顔が陰り払われた右手を左手で抑えている。その途端オルガは後悔した。少し強く手を払ってしまったかもしれない。ミランダは手の怪我が治りかけたばかりなのだ。オルガの心には焦りのような、懺悔のような、後悔のような説明のつかない感情が生まれていた。
ミランダが静かに非愛を含んだ微笑みを浮かべた。オルガはその微笑みに王女の威厳を見た気がした。非愛を含んでいても美しいのだ。抗えない何かを感じる。
「あ……」
オルガは立ち上がった。この場から一刻も早く逃げ出したい。目の前のミランダが見る間に知らない人に変化していくように思えた。
オルガはミランダの顔を見たまま後退りをした。頭が考えることを止めていた。もうどうすれば良いのかわからない。怖いという感情が湧き上がり、もう抑えることはできなかった。
「オルガ……」
「違う……違う……だって叔母さんは……」
「オルガ、待って……」
オルガはその場から駆け出した。玄関の扉から外へ出て必死に家に向かって走った。外はもうすっかり暗くなっていたし、風はとても冷たかった。でもそんなものは気にもならなかった。
暗い夜道を走りながらオルガの頭の中ではソル王女とミランダがグルグル回っているように思えた。
(叔母さんがソル王女?)
不意にその思いが強くなった。そんな筈はない。小さい頃からミランダはいつもオルガを構い、気にして世話をしてくれた。ミランダと過ごす時間はいつも楽しかった。本を読んでくれたり、美味しいご飯を食べさせてくれたり、いつも……いつも……。ミランダの美しくて優しい笑顔ばかりが思い浮かんだ。
(あの人がソル王女?……)
思考が追いつかない。そんな筈はない! ミランダが八百年前のソル王女だなどあり得ない。そうあり得ないのだ。オルガは自分の絶対的に安全な場所へ向かって走った。
一体自分が聞かされたことはなんなのか。聞いてしまった今自分はどうすれば良いのか。
(ソル王女は……ソル王女は元気な女の子で……ジークリフト王子が大好きで……はちみつケーキが大好きで……)
オルガの頭の中はぐちゃぐちゃだった。何をどう考えれば自分が納得する答えになるのか考えても分からない。
オルガは只ひたすら走った。
(八百年前の人が今この時代にいる……)
そう思った途端恐怖が深くなった。なぜそんなことが起こるのだろう。
不意に、前に幼馴染のテッドがアインシュタインの事を話していたのを思い出した。そのときテッドはタイムマシンは理論上不可能ではないけれど、物理的に無理な話なんだと言っていた。それなのにミランダの話が本当なら過去に生きた人が現代にいることになる。
オルガは走る速度を早めた。何かが起こる気がした、よくない何かがきっと起こる。チリチリとした予感めいた事がオルガの中に浮かんでいた。
どこをどう走ったのか覚えていないが、いつの間にかオルガは家の前に来ていた。見上げれば家の電気が煌々と付いている。泣きそうになりながらオルガは店のドアを開けた。
中に入るとそのまま二階へ駆け上がる。そのままの勢いで扉を開けると、リビングの父さんと母さんは笑顔でオルガを迎えた。
「おかえりなさいオルガ、遅かったのね。今から夕食にするわよ、手を洗って……」
駆け込んだオルガは母さんに抱き付き、肩の所に顔を埋め我慢していた思いを吐き出した。でも言葉にはならない。
「うぅ……」
「……どうしたの? 上着と靴は?」
母さんの言葉に返事をせずオルガはそのまま泣き出した。
「どうしたんだ?! 何かされたのか?!」
父さんが慌ててオルガのそばへやってきた。
「……違う、そうじゃなくて……」
言葉にすることができない。母さんはそのままオルガの服装をチェックし、どこにも変化がないことを確認すると
オルガの背中を優しく摩り、父さんに目配せをした。父さんは少しホッとしたようで静かにリビングを出て行った。
「……何があったのか……話したくなったら話せば良いわ」
耳元で母さんの声が聞こえた。何も聞かないでいてくれる母さんをオルガは有り難いと思う。
暫くの間そうやって母さんの温もりを感じていると気持ちが少し落ち着いて来た。オルガは漸く顔を上げた。
「ごめんね母さん。あの……ミランダ叔母さんに本当の『竜の伝説』の話を聞いたら……とても悲しくて……早く帰りたくなって……」
オルガはそれだけを言った。先ほど聞いたミランダの事は言ってはいけないような気がした。あの事実はおいそれと人に話して良いものではない。
「そうだったの……少し落ち着いた?」
「うん」
母さんは安心したように笑う。
「じゃあ、ご飯にしようか……」
「うん」
オルガは素直に頷いた。気が付くとお腹はかなり空いていた。考えてみると長い竜の話を聞きながら口にしたのはクッキーを一枚摘んだだけだ。
「オルガ、夕食の準備をするからエリックを呼んで来てくれるかしら。工房にいると思うわ」
オルガは母さんの言葉に素直に従った。階段を降りると、店の奥の工房の電気がついており、父さんはその隅のテーブルに座って何かを広げて見ていた。
「父さん、ごめんね。母さんがご飯にするからって……」
父さんは顔を上げ、オルガの顔を見てニコッと笑った。
「そうか……」
「……何を見ているの?」
「ん……これはデザイン帳だよ」
「デザイン帳? 父さんそんなのを描いているの?」
「ガラス細工作家として父さんは遅咲きだったからね。色々と勉強したんだ。今見ているこれは、初期の頃のものだよ。今はファイルが五冊目になっている……見てみるか?」
「うん、見てみたい……私、父さんがそんな努力をしていたなんて知らなかった……」
オルガは父さんのガラス細工を作る工程が好きで、よく工房の椅子に座ってその様子を見たものだが、ガラスを作る作業以外の事は殆ど知らなかった。
「じゃあ、ご飯が終わったら見せてあげるよ。一冊持って上がっても良いよ」
「一冊目から順々に見たいな」
「じゃあ、これからだね」
父さんは自分が見ていたデザイン帳を閉じて掲げた。オルガの気持ちは完全に落ち着いている。心の内にミランダの事はあるけれど、両親との日常がオルガを安心させていた。
「上へ行こうか?」
「うん」
小脇にデザイン帳を抱え、オルガは父さんと共にリビングへ戻った。
ダイニングでは母さんがテーブルの上に所狭しと、ご馳走を並べていた。
「レイチェル! これは凄いな!」
父さんがそれを見て歓喜の声を上げた。
「だって『青の祭り』の前夜祭じゃない? 腕によりを掛けなきゃ始まらないでしょう」
「母さん……それにしても凄すぎない?」
温野菜のサラダ、鶏のロール焼きレーズンソース添え、ポテトと牛肉のワイン煮込み、カジキマグロのパイ包み、ニース風キノアサラダ、レンズ豆のスープ、ナスとトマトのオーブン焼き、人参のポタージュ……全て父さんとオルガが好きな料理ばかりである。
「デザートもあるの……さぁ、二人共、座って!」
オルガは母さんが数日前からこれらの物を準備していたのは知っていた。でも、これ程とは思っていなかった。今朝だって『ジョナサンのパン』に出すお菓子を作っていた筈だ。
テーブルにつきオルガは何故だか胸が一杯になった。目の前に並ぶ両親の笑顔がとても嬉しい。
「さぁ、好きな物をどんどん食べてね」
「じゃあ、俺は牛肉のワイン煮込みとキノアサラダをくれる?」
「あ、私は先ず鶏のロール焼き!」
「はいはい、待って頂戴。エリックはワイン煮込みと……キノアサラダね……はいどうぞ。そしてオルガは鶏のロール焼き……それと温野菜サラダも食べなさいな……はい」
母さんは大きなお皿にそれぞれ好みの物をよそって、目の前に置き、自分には温野菜サラダとカジキのパイ包みとオーブン焼きを取った。
「さぁ頂きましょう!」
母さんの言葉が合図のように各人のお皿の物に手を付ける。クリスマスとはまた別のカーニバルの前夜祭だ。口にする物はどれもとても美味しい。オルガは自分の母をさすがだと思う。
「レイチェルのこのワイン煮込みが本当絶妙なんだよな〜いつも美味いよ」
「それはどうもありがとう。あなたのその食べっぷりが私は好きよ、エリック」
あぁ……また始まった。そう思いながら何だかホッとする。苦笑しながらもオルガはチキンを口に運んだ。
それでもその心の片隅にミランダの事が思い浮かんでいる。今日持って行ったカゴに入っていた料理も目の前に並ぶ料理と同じものなのだろう。ミランダはそれを一人で食べるのだ。
もし……もし本当にミランダがソル王女だったら……嘗ては側近を従え、常に誰かが傍にいて寂しさを感じる事はなかっただろう。でも今は……オルガはこの料理が嬉しい反面、少し寂しく思った。
食事を終え、片付けも済み、お風呂に入り、ちょっとしたゲームをした後、オルガは眠くて仕方なくなって来た。
今日は朝からずっとミランダの所に居て『竜の伝説』を聞いていたから、感情の昂りで少し疲れてしまったのかもしれない。
「もうそろそろ休んだらどうだ? 明日も動き回るんだろう?」
「うん多分ね。ハズがサーカスの人達を紹介してくれるって言ってたから……」
「楽しそうね。じゃあほら、もう寝なさい」
両親に促され、オルガは二階に上がった。自分の部屋に行くと倒れるようにベッドに横になった。横になるとミランダの事が思い出された。でももう眠気はそこまで来ていて、争う事は出来ずに眠りに落ちて行った。
寝返りを打った時、オルガは目が覚めてしまった。
辺りは未だ暗く夜は明けていない。目を瞑りもう一度寝ようとするが、何故だか目が冴えて来た。
一体、今は何時なのか……時計で確認をすると、時期に五時をまわる所だった。暗闇の中、暫くゴロゴロとベッドの中で転がっていたが眠る事は出来ず、オルガは起き上がった。
電気をつけると壁に今日来て行くワンピースが掛けてある。それを見た時ミランダの家に靴を置いて来た事を思い出した。
「はぁ〜〜……」
溜息がついて出た。今更取りに行くのも気が引ける。自分はミランダから逃げてしまったのだから。それでも目の前にあるワンピースに合う靴は置いてきたベージュの靴しかない。
(後で、父さんか母さんにお願いしようか……)
でもそれではミランダ叔母さんと何かがあった事がバレバレだ。
暫くオルガは考えた。何れにしてもここは勇気を絞って自分で取りに行くしかないだろう。また溜息が出た。
暗い中で思い起こしながらふと大好きな絵本の事を思った。あの話に出てくる竜はフィールとソラ、そして王女はミランダで隣国の王子はジークリフトなのだろう。
(あの話の中では二人は結ばれたけど、実際は結ばれなかった……)
そう思うと泣きたくなった。大好きだった『竜の伝説』の絵本の話は実は過去にあった本当の事がモデルになっていて、現実には結ばれる事はなかったのだ。
(なんで……)
泣きたくなる気持ちを抑えベッドから出ると、オルガはカーディガンを羽織りリビングへ降りた。両親は未だ寝ているようで暗いリビングには誰もいない。
電気を付けキッチンに入るとコップを取りペットボトルの水を入れた。二、三口飲んでそのままコップを持ちリビングへ移動する。
リビングのカウンターに父さんのデザイン帳が置いてある。オルガはそれを手に取るとテーブルに行き窓辺の席に座った。
ページを捲ると色々なものが描いてあった。何かのモチーフやアクセサリーのような物、橋の欄干の飾りのような物もあったし、誰か英雄の銅像もあった。一体この銅像を何を作るデザインの参考にするというのか? 疑問は残る……。
そのまま捲っていくとオルガの手が止まった。
そこにはあのガラスのハウスが描いてあった。上手いもんだなぁと思いつつ暫くそのスケッチを見つめ、次のページにいくと、引かれたラインの間に何か模様のような物が書かれてあった。それは模様のようでいて、違う角度から見ると記号や文字のようにも見える。
また次のページを捲ると、今度は何かの紋章のようなものがあった。
真ん中に丸いスペースがありそれを両サイドから竜が守っている。一瞬、オルガはそれを知っているように思った。何処かで見たわけではないと思うが……何だろう? そう思った時、昨日のミランダの『竜の伝説』を思い出した。ソル王女のお守りのペンダント、それがこのような描写だったように思う。
オルガは少し手が震えたが、ジッとそれを見つめた。片方の竜には翼はないが、もう片方の竜は翼があり途中でその翼が捥げて居た。
オルガの動機が早くなった。これはフィールとソラだ。どこで父がソル王女のペンダントのスケッチをしているのかわからない。しかしこれは間違いなくフィールとソラだ。
オルガの中には確信があった。ソル王女が誕生した時、王女のために父親であるディオニシス王が作ったものだと言っていた。それならどこにでもあるデザインではなく、特別な物だった筈だ。もしこのデザインが一般的になったというのなら、ソル王女のペンダントの後だろう。娘の生まれた記念のお守りに、ありふれた物は作らないと思う。
今更のように『竜の伝説』が本当の話であり、ミランダの過去である事を思った。あのような壮絶な経験の中でミランダは生きたのだ。そして今この街にいる。
オルガは父のデザイン帳の中のペンダントヘッドを見つめた。ソラは死んだ。そしてその後、きっとフィールも死んだのだろう。彼らが生きた証がその絵の中にあるように思えて、オルガの心は揺れた。
「あら、おはよう……オルガ、起きてたのね」
顔を上げると母さんがリビングに入って来る所だった。
「おはよう……」
「ちゃんと眠れたの? 未だ寝てると思ってたのに」
母さんはそう言いながらキッチンに入って行った。オルガは手元のペンダントヘッドの絵をもう一度見つめ、立ち上がった。
「ねぇ、母さん。父さんのこのデザイン帳、見たことある?」
キッチンの入り口に立ち、デザイン帳を掲げオルガは朝の準備を始めている母に声をかけた。母さんは振り向きデザイン帳を確認すると頷いた。
「えぇ知ってるわよ。そのファイルはガラス細工職人になる事を決めた、初めの頃の物ね……」
「じゃあこれ知ってる?」
オルガはペンダントヘッドの絵を開いて見せた。それを暫く見た母さんは頷いた。
「……竜のペンダントね」
「……どうしてこれを知っているの?」
「どうしてって……オルガは知らないの? 確か、博物館にあるわよ」
「え?……」
オルガはまた絵を見た。博物館? こんな物が展示されていただろうか? 幼い頃からしょっ中ミランダと一緒に博物館へは行っていた。余りにも当たり前に見過ぎていて、気付いてもいなかったかもしれない。だが、記憶の片隅にミランダが、いつもガラスケースを覗いている姿が思い浮かんだ。あれは……。
「あ……」
突然記憶の中とこのペンダントが結びついた。あぁ……そうなのだ。あのガラスケース……ミランダはいつも、このペンダントを見ていたのだ。だから博物館で働くようになったのかもしれない。
点と点が線で繋がるように思えた。
オルガはテーブルに戻った。竜のペンダントを見つめ、次のページを捲った。次のページにはそれぞれの竜が大きく描かれていた。翼のない竜のフィールと翼のある竜のソラ。特徴がよくわかり、オルガはそれを凝視した。
こうして記録はちゃんとあったのだ。
その時、お店のベルが鳴った。
「こんなに早く、誰かしら?」
母さんが急いで店へ降りて行った。だがオルガは、それにも構わず二匹の竜を見つめ続けた。何をどうすれば良いのかわからないが、理解できた気がした。ミランダと話をしなければいけない。そう思った。
「オルガ……」
母さんの声が間近で聞こえ、オルガの座る椅子の側に靴が置かれた。見るとそれは自分の物で、正面の甲の所に鮮やかな青いリボンで作った花が付いていた。
「……母さん、これ……」
「今、ミランダが持って来てくれたのよ……」
「あ……」
慌ててオルガは窓を開け、通りを覗き込んだ。オルガの目にミランダの後ろ姿が写った。その途端、何かに駆り立てられるように、オルガは靴を手に取るとリビングを急いで出た。階段を転げ落ちる勢いで降り、店の扉を勢いよく開け、外に出るとミランダを追いかけて走った。ミランダの後ろ姿がやけに遠く見えた。
「叔母さん! ミランダ叔母さん!」
オルガの呼び掛けにミランダは振り向いた。オルガは靴を胸に抱き息を切らして目の前に立った。
「叔母さん……叔母さん、私……」
ミランダはオルガの瞳を真っ直ぐに見て微笑んだ。
「青いリボン、ちょうど良いのがあったから……」
「叔母さん、ごめんなさい! 昨日は本当にごめんなさい!」
「良いのよ。驚くのは当たり前だもの……信じられなくても仕方ないわ」
「違うの、わかったの。叔母さんが博物館でいつも何を観ていたのか……あの、お父さんが……ディオニシス王が作ってくれた……最後にジークリフト王子に渡したペンダント。あのお守りの竜のペンダント、それを観ていたんでしょう?」
ミランダが目を見開き唇を噛んだ。
「理解出来たの。叔母さんがソル王女だって……えっと、フルネーム……ミランダ・ソル……なんだったっけ……」
「ミランダ・ソル・デリュイ・エドゥアール……本当は最後にリングレントも付くの」
ミランダの顔が歪んだ。唇を噛みながら、涙を堪えている。
「ミランダ・ソル・デリュイ・エドゥアール・リングレント?」
「そう、リングレント国エドゥアール家のミランダ・ソルという感じかしら。この街に名前を登録する時、『ミランダ・エドゥアール』だけにしたの。もう王女でもないし、貴族でもないから……」
話しながら落ち着きを取り戻したミランダを、オルガは見つめた。
「デリュイは?」
「リングレント国の王家の者や、王を輩出する貴族に付けられる総称」
オルガは笑った。
「ミランダ叔母さん……講義をしている感じだよ」
「あら……そう?」
ミランダは緊張を緩めた。
「……オルガ……貴女はこの事を知っておかなければならなかったの。貴女に出逢った時、貴女は私の事を知っていたから……」
「出逢った時? どういう事?」
オルガは眉間に皺を寄せミランダに尋ねたが、ミランダは微笑み、それ以上何も言わなかった。そして両腕を広げオルガをギュッと抱きしめた。
「今日の『青の祭り』は存分に楽しんで。そしてね、オルガ……私に言えることがあるとしたら……もし、もしも困った事になったら、私を探しなさい。良いわね。必ず私を探すのよ」
「……」
真剣な瞳のミランダに、訳もわからずオルガは頷いた。ミランダは何を知っているというのだろう……。
何かが起こるのだ。それだけをオルガは強く感じた。




