表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オンラインゲーム・ギャングスタ  作者: 神立雷
第一章 VRゲームのランカーは、不遇職の初心者少女
6/22

華咲き乱れ、異形の慟哭、えっちだな



     ◇◇◇




「わああー! 捕まってしまいましたー!」


「あっ、朱ちゃん!」




 そして朱朱朱朱(あけしゅあかしゅ)は捕まった。

 自分の状況をわかりやすく説明しながら、すんなりと。




「そんで捕まってるしー」


「ゲーム下手すぎだろ。香川県民か?」




 それに呆れるマツダイたちは、日本国で唯一の『ゲーム規制』を行っている香川県出身なのでは、と邪推する。

 その衆愚政治の影響は凄まじく、香川に拠点を置くesportsプレイヤーは全員コントローラーをおいてうどん職人になった。香川の川下には最早うどんの茹で汁しか流れていない。




「わひー!」


「た、大変! あんなにぐるぐるに……!」




 それはさておき。

 何やかんやで捕えた獲物を太長い体でぐるりと巻き上げ、三つ首をもたげてチロチロ舌を出す[アイアタルの眷属]。

 そこから少し離れたところで地面に手をついているのは、(あけ)に "スゥちゃん" と呼ばれる薄緑色のローブの少女だ。その少女の頭上には、『スゥ・ラ・リュンヌ』という名前が表示されていた。


 その長い金髪からはみ出す耳は横に長く伸び、彼女が人間種の近似種である妖精種――通称『エルフ』であることがわかる。またその服装は『冒険のはじまりシリーズB』という、厚手の生地が野暮ったいローブを特色とする初心者用防具セットだった。

 そんな装備と朱との関係性を見れば、彼女もゲームをはじめて間もない初心者であるのは明らかだ。




「うおおー! やめやがってくださーい!! 朱を食べるなんていけないですよ! 朱は常に食べる側でいたいのでぇ!」


「えっと、えっと……」




 ものすごい勢いでぐねぐね暴れる朱を見て、あわわと言わんばかりに口元を押さえるスゥ。

 おっとりとした雰囲気の緑の垂れ目には涙を浮かび、片手を胸に当てながら、もう片方の手を伸ばしたり引っ込めたりを繰り返す。




「……ん?」


「……オォ?」




 それを見つめていたEAKと椎茸強盗が、ほとんど同時に顔を見合わせる。

 珍しくも、いたく真剣な表情で。




「……気づいたかー? 椎茸ー」


「お前もかァ、EAK」


「…………」




 そうした2人の謎の問答に、内心で首をかしげるのはマツダイだ。


 今ここで何かあっただろうか。初心者の動きにおかしなところはないし、アイアタルの眷属だっていつもと同じに思えたが、自分は何かを見落としただろうか。もしそうであったとしたらそれに気づけなかったことが悔しいし、自分のゲーマーとしてのプライドに傷がつく。


 そうして小さな不安を抱いたマツダイは、とりあえず訳知り顔を作りながら曖昧に頷いた。仲間はずれは嫌だったのだ。




「間違いないよなー?」


「あぁ、間違いねェ」


「…………」




 低い声色。鋭い視線。らしくないEAKと椎茸強盗の雰囲気に飲まれ、マツダイの白い喉がこくりと鳴る。

 そして彼らの言葉を神妙に、緊張の面持ちで待った。




「あのローブ越しでもはっきりわかるー……あのスゥって女ー……」


「あぁ……あのエルフはァ……」



「おっぱいがデカいなー!?」「とんでもねェ巨乳ちゃんだなァ!?」


「………………は?」




 ダンジョンでお宝を見つけたような声色のEAKと、ヤギ頭をぺしりと叩いて一本取られた風の動きをする椎茸強盗。

 そんな2人がほとんど同時に発言した瞬間、マツダイはぽかんと口を開けたまま固まった。




「なー! やっぱりそうだよなー!」


「あんなローブじゃ体のラインは出ないはずなのによォ~! それでもはっきり膨らみがわかるってのはよォ~……よっぽどのデカさってことだよなァァァ~!?」




 すごいねすごいねおっきいね~、とはしゃぐ2人を尻目に、マツダイは大きくため息を吐いた。


 紛らわしい。勝手に不安になったのは自分だが、それにしたって紛らわしい。そして死ぬほど下らなく、この上ないほど馬鹿だとも思った。そんな内容を知ったかぶってわかった風を装った自分を思い返し、ひどく恥ずかしくなってくる。“確かにな……” みたいな顔をしてしまった。バカ丸出しだ。




「エルフと言えば貧乳という固定観念、それを崩しにきたか……! 嬉しい誤算というやつだなー!」


「ヤラれたぜェ、あれはあれで違った味わいがありやがるゥ。巨乳エルフ、いとをかし」




 まるで料理漫画の審査員。そんな調子で盛り上がる2人に混ざる気もないし、早く狩りに没頭してこの出来事を忘れたい。そう思ったマツダイは、もたもたしているアイアタルの眷属を急かす気持ちでそちらに目を向けた。早く初心者共を殺せよぶち殺すぞクソヘビ、と八つ当たりの殺意をぶつけながら。



「どへー! 舐めた! 今ヘビが朱のほっぺを舐めましたよー! きめぇー!!」



 そんなマツダイの視線の先では、朱を捕えた三つ首のヘビが味を見るようにぺろりと舐めていた。それを三つの頭でいっぺんにやるものだから、朱は一瞬でべとべとになり、本気なんだかふざけているんだかわからない絶叫をあげる。




「わひ~! 朱を食べないでぇ~! 朱に食べさせてぇ~!!」


「……あっ! そうだ、変身の……! ……ええと、コンパクトを触りながら、大きな声で……」




 そうした現場から少し離れた、暫定的巨乳の金髪エルフ。

 その胸元に注目を集めるスゥは、哀れにもそのいやらしい視線に気が付かず、ごそごそと何かをしていた。




「……お? 何かするのかー?」


「パイパイデカ美の職業ってなんだァ? 杖も剣も持たねェで、ずいぶん身軽に見えるがよォ」


「おいおい椎茸ー。パイパイデカ美のデカパイじゃあ、間違っても身軽とは言えねーだろー?」


「おっと、言われてみりゃあ確かにそうだァ! こいつァ一本取られたなァ! クカカカァ!」


「お前ら本当しょうもにゃいわ」




 そしてパイパイデカ美――ではなくスゥ・ラ・リュンヌが手を当てるのは、異常性欲モンスター共が注目している胸より少し上。首元辺りだ。そこに着けられたキラキラと光を反射する星の装飾に触れながら、垂れ目をきりりとさせてアイアタルの眷属を見つめる。


 そして覚悟を決めて立ち上がると、両手を顎の下で祈るように組み、大きな声で自身が持つ唯一のスキルを発動させた。




「あ、朱ちゃんを……朱ちゃんを、離してっ! メ、《変身メタモル》っ」



<< スゥ・ラ・リュンヌ の 《変身メタモル》 >>

<< -あなた は望んだ未来を掴む- >>




 ぎゅる、と渦巻く七色の煙。

 そこから光が四方八方へと伸び、星や音符のエフェクトが跳ね回る。ついでとばかりにポンやらピンやらの弾んだ音まで鳴り出して。

 そのなんとも派手な光景には、アイアタルの眷属も警戒で身を固くする。締め付けられた朱がぐえっとアヒルのような声を出した。




「……っておいおい、デカ美はまさかの変身師(メタモラー)かよー」


蒸気工師(スチームパンカー)変身師(メタモラー)て……不遇職限定パーティか何か?」


「ゲーム下手すぎだろ。香川県民か?」




 スゥが触っていた星の装飾のアイテム名は[魂魄悼コンパクト]。それは朱の蒸気工師(スチームパンカー)と同じく不遇職な『変身師(メタモラー)』に与えられるものだ。


 そんな不遇職であるスゥが、その職の唯一にして最大の個性を発露させる。


 スキル、《変身メタモル》。

 それはひとときの超強化とそれに応じた新たな姿を得る、変身師(メタモラー)変身師(メタモラー)たらしめるもの。



<< スキル効果発動:スゥ・ラ・リュンヌ の《変身メタモル》が有効化されました >>



 そして七色の煙がほどけるように晴れた後には、1匹の()()が立っていた。


 コウモリのような黒い羽根は、頭に2枚と腰に2枚の計4枚。

 体には水着と呼ぶにはいささか面積が小さすぎる細くて黒い布を巻きつけ、その余り布とでも言わんばかりに同じ色のアームカバーとニーハイソックスを着用している。

 またその整った顔には先程よりもずっと濃いメイクが施されており、どこか子供っぽい印象だった顔を大人びたものに変えていた。




「……え……っ? ス、スゥちゃん……ですか……?」


「あ、朱ちゃん……今、助けるから……っ!」




 見えていないところより見えているところのほうが多い、肌色主体の官能的装い。

 分厚いローブ越しでも主張をしていた豊満な肉体は、開放を喜ぶように揺れている。

 戦闘の高揚で染まった頬と、緊張の涙で濡れた垂れ目が、かえって妖艶な雰囲気を醸し出す。


 まるで色気を固めてそのまま人型にくり抜いたような、男を惑わすみだらな淫魔。

 いわゆるひとつの『サキュバス』が、口の端から鋭い犬歯を覗かせ、目の色を紫に変えて燃えさせて――――そして何よりその大きな胸をこれでもかと揺らしながら、ヘビを指差し大きく叫んだ。




「あ、朱ちゃんを離しなさいっ! でないと私が――……!」


「ス、スゥちゃん……そ、その格好は…………?」


「――……へ? ……き、きゃあああああ!? なにこれぇぇぇっ!?」




 さて。

 ここで1つ、このゲームのシステムについてお話したい。


 このDive Game Living(リビング) Hearts(ハーツ)では、メニューの操作や各種機能の呼び出しが、タッチと音声の両方で可能な仕様となっている。


 それは戦闘時などの手が塞がっている時のためであったり、そもそも手がないアバターのためでもあったり、その他の理由も色々あった。が、とにかく各プレイヤーそれぞれの事情を考えた上で実装された、ユーザーに寄り添ったシステムと言えるだろう。


 そんな音声での機能呼び出しはショートカットと呼ばれ、発動キーが自由に設定できる。

 例えば多くのプレイヤーのメイン回復剤である[最下級・治癒のポーション]の取り出しを『3』という音声に登録しておけば、たった一言でポーションを呼び出すことが可能になるし、『一人称視点録画機能を有効にする』を『カメラ起動』にしておけば、咄嗟に録画を始めることができる、と言った具合だ。


 そんな音声での呼び出しと、ショートカットワードの設定。

 それは当然ガチ勢たちも、自分なりの最適な形に設定済みであった。


 そしてそんな彼らは、常日頃から実験と検証をおこない、そのデータを仲間内で共有シェアしている。ふとした発見を記録し、些細な出来事を保存して、それを見ながらあれこれ考え効率的なゲームプレイを組み立てる……と言った、チーム全体でのネトゲ攻略。それをするために、情報という物をとにかく大切にしているのだ。


 そうした理由からガチ勢たちは、正確な情報を集めるために必要な『一人称視点録画機能の有効化』の呼び出しワード設定も、短く即座に呼び出せるよう設定していた。

 録画したい物をその瞬間に録画するため、必要最低限の効率的な言葉でカメラを呼び出せるようにと。


 そんな彼らの『一人称視点録画機能の有効化』を登録したワードとは、たった1音。

 "その場を()として記録する"、という意味の音である。





「エッッッッッッ!!!」


「エッッ!!! エ゛ッッッ!!!!」


「……うるさ」




 それは確かに "絵" という意味であったが、この時ばかりは違った意味で叫ばれた。


 そのサキュバスは、たいそうエロかったのだ。




     ◇◇◇




□キャラクター情報□


名前 スゥ・ラ・リュンヌ

性別 女性

種族 妖精種


主職業 変身師(メタモラー) Lv1

副職業 なし



HP 25/25

MP 6/6


物理攻撃 1

物理防御 13(10+3)

すばやさ 2

魔法攻撃 3(1+2)

魔法防御 6

特殊耐性 1

特殊付与 1



スキル 《変身》



・装備状態

固有アイテム [魂魄悼コンパクト](帰属)


右手[冒険のはじまりの短杖]

左手 なし

頭  なし

体 [冒険のはじまりのローブ]

腰  なし

足 [冒険のはじまりのミュール]

外套 なし

腕  なし

指輪 なし

首  なし



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 唐突な時事ネタで笑いました 未来の香川県はディストピア濃度高そうですね [気になる点] タイトル大幅に変わっててビックリしましたシンプルになっていいですね リビハ要素は少し残して欲しか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ