仕様、数値、ボス攻略
◇◇◇
□■□ グラースシー大平原 □■□
「んひひぃ~」
「朱ちゃん、ご機嫌だね」
浮かれる朱朱朱朱を見てマツダイはほくそ笑んだ。
計画通りだったからだ。
「のこのこ向かってんなー」
「ちょれェなァ」
検証を済ませ、準備も万全に整えたマツダイたち。
その後に『初心者限定特別クエストの案内状』を朱とスゥの前に設置し、ここで待機をしていた。
その案内状の文面はEAKと椎茸強盗とで話し合って書いた完璧な文面だ。
しかしながら、どうしたって相手はエンジョイ勢の初心者なギャルたちで、行動の予測はできなかった。
残念ながらIT技術の発展した今時代においても、リアル女の子攻略Wikiなどは存在しないのだ。
かと言って童貞な彼らでは、ガチ女子の行動を検証することもできないし。
という訳で、そのクエスト案内で2人を釣れるかどうかはほとんど賭けだった。
初心者たちがその紙を無視し、強引な手段で誘導しなければならない可能性も十分にあった。
しかし幸いにもそれは杞憂に終わり、マツダイはナンパまがいのことをするハメにならずホっとした。
知らない女性に声をかけるのは得意ではないからだ。殺すのは得意だが。
「そのうち悪い男に騙されそうだにゃ」
「今まさに騙してる男がそれ言うかー?」
「クカカ、確かにィ」
そうして初心者の動きを物陰から確認した3人は、指定位置に先回りするべく走り出す。
そんな彼らが軽口を叩くのは、すでにボス攻略の失敗はないと確信していたからだ。
このボス攻略にあった唯一の問題点、初心者の誘い出し。
それをクリアした今、残す手順は“デカめのヘビ”のHPをギリギリまで減らして初心者に擦り付けること。
つまりはいつもしている数値上のやり取りと、いつもしているMPKだ。
だったらしくじるはずがない、と。
そう考えて気持ちをゆるませ、口もゆるませたのだ。
「パイパイデカ美ちゃん、悪い男とかに弱そうだしなー。もしそうなったらショックだなー」
「アレだ、突然ビデオが送られて来るんだぜェ。“ごめんなさい……っ。わ、私っ! もうこの人なしじゃあ生きていけないのぉっ!”って具合でよォ」
「……いやだぁー! 俺はNTRとかそういう辛いのマジでナシ派だからぁー!」
「オレもナシだなァ~。……と言いつつ見てしまうフシギ」
「NTRも何も、お前ら全然関係ねぇだろ。部外者だろ。スゥはお前らのこと知らねぇぞ」
「スゥじゃねェぞ、パイパイデカ美ちゃんだ」
「あ、そっか。パイパイデカ……いや、スゥだよ。スゥ・ラ・リュンヌだよ。俺が合ってて、お前らが死ぬほど間違えてんだよ」
このボス攻略作戦は、彼らの中ですでに成功したものになった。
心配事は消えさって、リラックスした気持ちで処理するボス戦だ。
彼ら3人は下らない雑談を続けながら、『ココノハ大森林』に向かって駆けて行った。
◇◇◇
□■□ ココノハ大森林 霊樹の袂付近 □■□
勝手知ったる林間の空き地、『霊樹の袂』から数十メートル離れた地点。
プレイヤーを遠ざけるために立てた“PK出没注意!”という看板を蹴り倒したマツダイたちは、前置きもなしにそそくさと準備を開始した。
ボス召喚のキーアイテムである[世界樹の種の化石]を3つ地面に並べ、近くのダンジョン最深部にある壺から回収した[霊廟の夜露]を垂らす。
干からびたこぶし大の種が発光をはじめ、森全体がにわかにざわめく気配を見せた。
『ココノハ大森林』の領域守護者、その召喚がはじまる合図だ。
ひとつ、ふたつ。たっぷり20を数えるくらいのあいだ明滅を続けた[世界樹の種の化石]。
それが寝静まるように輝きを鎮めると、今度はひとりでに震えだす。
そしてぴょこんとその場で跳ねて、そのまま地面へ潜ってゆく。
<< !! WARNING !! >>
<< The Guardian is approaching at fast growth >>
<< According to the data, it is identified as 【The weeder】 >>
地面に警告メッセージが表示され、それを囲うように魔法陣が描かれる。
同時に壮大な音楽までが鳴りはじめ、地面が大きく波打った。
魔法陣の中心から、枯れた色の蔓が幾百本も飛び出した。
それは互いに絡み合い、先を争うようにしながら、上へ上へと駆け登って行く。
周囲の木々が風もないのに大きくしなり、はらりと緑の葉を散らす。
花は揃って花弁を閉じて、草はいっせいに地に伏せる。
鳥が歓びにむせび鳴きながら、感情のままに羽根を広げて空へ飛び去る。
偉大なる守護者の顕現に、森の信徒がみな頭を垂れていた。
そうしてついには天高く、空の上まで届きそうな高さになった蔓の塔。
その先端が大きく裂けて、幾度も開閉を繰り返すのは、月を食んでいるようにも見えた。
瞬間。
直立していたはずの体を目にも止まらぬスピードで地面にすべらせると、召喚の魔法陣を中心として円を描く。
枯れ蔓を束ねてできた体躯が、ぎしぎしと呻いて輪を作り、それが三重になった辺りで動きを止めた。
そして血のように赤い目を光らせながら、大きな口をめいっぱい広げて咆哮をする。
神聖なる森に押し入り、荒らし、拓き、汚して去って行く。
そんな大罪人に裁きを下すため、樹木の大蛇、“刈り取る者”の名を持つ『ココノハ大森林』の領域守護者、[【The weeder】アイアタル]が降臨した。
「ここいる?」
「無駄になげェよ」
「毎度ながらテンポわりーなー。魔法陣からにょろにょろ~ってだけでいいだろー」
本物以上に美麗なコンピューター・グラフィックスで描画された、圧倒的で荘厳な、神聖さすら感じるイベントムービー。
しかしそれを見ている3人の反応があまりに冷めていたものだから、何もかも台無しだった。
この専用BGMと固有の召喚シークエンスを作成したVRMMO開発AIは、きっと泣いているだろう。
こんな奴らのために作ったんじゃない、とでも言いながら。
◇◇◇
準備は完璧で、予定にズレはない。
しかしここからが本当の勝負で、手抜きもミスも許されない。
キーアイテムを使用してボスを召喚し、そのHPを限界まで減らす。
それをおこなうのは、森で野外で戦闘エリアだ。
ならば当然野生のモンスターも、そして無粋なプレイヤーだって近づける。
そんな余計な横やりが入るまでの安全な時間は、彼らの想定ではきっかり3分だった。
つまりそれがボスとの戦闘の制限時間だ。
たった3分でボスを瀕死にさせる。なんとも無茶な話だ。
とにかく強力で有名なボスをそんな短時間で殺すのだって難しいのに、それを死ぬギリギリで止めるだなんて、無理を言うにもほどがある。
というのは、ゲームで遊んでいる一般プレイヤーの話だろう。
しかし彼らはそうではない。一般プレイヤーのように、ゲームで遊んでいる者ではない。
彼らはガチ勢。“ゲームは遊びじゃねぇんだよ” をそのまま体現する者たちだ。
だから、できる。彼らなら、できるのだ。
「1、2、3、《夜装》」
「向きこっちでいいー?」
「あ、4時で頼んまァ~」
インターフェイスに表示させた簡易タイマーをじっと見ながら、マツダイがカウントアップを口にする。
モンスター名が表示されてからの時間を数えているのだ。
Living Heartsではモンスターが湧いた際、必ずダメージを与えられない無敵時間が存在する。
その時間はサイズや召喚エフェクトによって様々で、今ここに姿を見せた[【The weeder】アイアタル]の場合はきっかり10秒であった。
そのタイミングに合わせて3人が構える。
スキルの発動にかかる時間を加味して、無敵が解けた瞬間に攻撃をくわえるためだ。
「7、8、《抓蝕》」
「あいよー行くぞー、《オーロラ・チェーン》」
「オケ~、《壊つ骨子》」
<< EAK の《オーロラ・チェーン》
→→拘束成功!! 【The weeder】アイアタル の頭部に215のダメージ >>
<< 【The weeder】アイアタル は EAKに釘付けだ >>
不定形ゆえの高耐久。そんな特性を活かして前に出るのは、『ウーズ』であるEAKだ。
拘束効果のあるスキルで自分とボスの移動を制限し、常に北が上方向になるミニマップを頼りに4時の位置に立ってボスの視線を受け止める。
<< 椎茸強盗 の《壊つ骨子》
→→弱体効果発動!! 【The weeder】アイアタル の腹部に830のダメージ >>
<< 【The weeder】アイアタル は 体勢を崩した >>
その斜め後ろから椎茸強盗がスキル《壊つ骨子》を発動させる。
召喚と同時に拘束をされて目を白黒させていたボスは、そのスキルによって姿勢を立て直すことも許されない。
<< マツダイ の《抓蝕》
→→【The weeder】アイアタル の腹部に746のダメージ >>
<< 【The weeder】アイアタル は 爪 の印を刻み込まれた >>
その後ろからアタッカーであるマツダイが、猫らしいしなやかさで飛びかかる。
蜃気楼のような赤黒いオーラを分厚くまとったその体は、普段の小さな体からは想像もつかないほどの威圧感だ。
そして瞬時にボスへと肉薄し、オーラをまとった両前足をその体に突き立てた。
マツダイが使用した《抓蝕》は、対象に爪痕のような印を刻み込むスキルだ。
それによってこれ以降の『爪』系統スキルのダメージが底上げされ、さらには『爪』系統スキルを当てるたびにどんどんその効果が高まることになる。
その死の宣告じみた呪いの烙印は、スキル使用者が息絶えるか、あるいはそれを刻まれた者が死に至るまで、決して消えることはない。
<< 椎茸強盗 の《砕け硬骨》
→→弱体効果発動!! 【The weeder】アイアタル の腹部に337のダメージ >>
<< 【The weeder】アイアタル に防御力ダウン効果 >>
<< マツダイ の《狡凶》
→→【The weeder】アイアタル の腹部に989のダメージ >>
<< EAK の《スラッジ・スプリッツァー》
→→【The weeder】アイアタル の頭部に256のダメージ >>
<< 【The weeder】アイアタル の片目が泥に塗れた >>
<< マツダイ の《狡凶》
→→【The weeder】アイアタル の腹部に1084のダメージ >>
いわゆる壁役の位置にEAKがどっしり構え、《スラッジ・スプリッツァー》で目潰しをする。
メインの火力はスピード重視のマツダイが担当し、一度で二度攻撃をする《狡凶》を連続で使用し続けた。
その合間に挟まれる《砕け硬骨》で2人をサポートするのは、強化と弱体化を得意とする椎茸強盗だ。
誰が花形という訳でもなく、全部が必須で均一に大切な役割の分担。
それを事前の打ち合わせどおりに行うだけで、色気を出すこともなく、またふざけたりすることもない。
スキルを使い、ダメージを与え、攻撃を避け、アイテムを使用し、HPという数値を減らすだけ。
つまりはいつもと同じ、効率的な作業狩りの時間だ。
それならばやはり、失敗する道理はどこにもないだろう。
◇◇◇
<< マツダイ の 《狡凶》
→→【The weeder】アイアタル の腹部に1162のダメージ >>
<< 椎茸強盗 の 《折れ骨牌》
→→【The weeder】アイアタル の頭部に1083のダメージ >>
「5割だぞォ~行動パターン変更なァ~」
「スキル回し2番に移行にゃ」
<< マツダイ の 《狡凶》
→→【The weeder】アイアタル の腹部に1271のダメージ >>
<< マツダイ の 《六爪》
→→【The weeder】アイアタル の腹部に1392のダメージ >>
<< EAK の《オーロラ・チェーン》
→→拘束成功!! 【The weeder】アイアタル の頭部に209のダメージ >>
<< 【The weeder】アイアタル は EAKに釘付けだ >>
絶え間なく発動されるスキル。
切れることのない様々な弱体効果。
減らされ続ける[【The weeder】アイアタル]のHP。
それを続けるうっとうしい羽虫を追い払おうとしてみても、気づいた時には死角へ逃げていて、ヘビの大牙は届かない。
苛立ち任せで振った尻尾はEAKの不定形な体で受け止められ、忌々しく動き回る傷をつけてくる者には微風をそよがせるだけで終わる。
今日はじめて降臨したはずの[【The weeder】アイアタル]。
その行動や性質のすべてが、すでに対策を終えられている。
まるで幾度も戦って、研究を重ねられているかのように。
それは領域守護者に与えられた格別の知能をもってしても、まるで理解ができないことだった。
「4……いや、多分3割ィ。いつもどおりに混乱してるわァ」
そんな領域守護者の知能が見せる困惑。
それすらも、彼らはパターンに織り込み済みだ。
[【The weeder】アイアタル]というモンスターのAIは、この状況で必ず“理解不能”となる。
それは確かな弱みであり、隙。硬直の長いスキルを使用するにはうってつけだった。
「ULT行くぞ、離れろ」
「はにゃ~ん」
「はにゃーん」
「それやめろっつってんだろボケ共――《ラグナロク》、《遁走》《遁走》《遁走》《遁走》《遁走》」
<< 固有職業スキルを発動します >>
作戦通りのタイミングで、マツダイが口に真っ黒いナイフをくわえ、地面に伏せる。
大技の構え。彼らガチ勢が『ULT』と呼ぶ、種族ごとの固有職業が一定レベル以上になると習得できる特殊スキルの発動準備だ。
そしてマツダイは、その特殊スキルを使用すると同時に、狂ったように《遁走》のスキルを連呼した。
スキルの先行入力による差し込みをするためだ。
<< マツダイ の《ラグナロク》
→→【The weeder】アイアタル の腹部に863のダメージ >>
→→【The weeder】アイアタル の背部に382のダメージ >>
→→【The weeder】アイアタル の下腹部に779のダメージ >>
→→【The weeder】アイアタル の腹部に821のダメージ >>
→→【The weeder】アイアタル の頭部に837のダメージ >>
→→【The weeder】アイアタル の下腹部に798のダメージ >>
<< マツダイ の《遁走》 >>
<< スキル使用失敗 >>
<< マツダイ の《遁走》 >>
<< スキル使用失敗 >>
<< マツダイ の《遁走》 >>
<< - 逃げたのではない、勝つ準備をしただけだ - >>
マツダイが放った特殊スキル《ラグナロク》。
それは絶大な効果を持つと同時に、長い再使用時間と大きな技後硬直が生まれる問題点もある。
そんな大きな隙を失くすためにマツダイがしたのが、スキルの先行入力による硬直キャンセルであった。
種族スキル発動前から『その場から数メートル後ろに飛び退く』効果の《遁走》を連呼して先行入力することにより、スキルの使用後硬直がはじまる数瞬前に割り込みでスキルを発動させることができる。
対人プレイヤーなら基本とも呼べるその硬直キャンセルな小技だ。
その発動の猶予は32F。
つまりは0,53秒であり、熟練の格闘ゲーマーならばレバーを5回転はできるくらいの長瞬間だ。
「――硬直終わり次第アレ投げる」
「おけートレイン開始するわー」
ボスに狙われるEAKがスライムの体を弾ませて、椎茸強盗の背中に着地する。
不定形タイプは移動に難があるからだ。
そしてボスへと触手をにょろにょろ伸ばして挑発しながら、初心者たちが待つ『霊樹の袂』へと移動を開始した。
「ひっぱれひっぱれー! ボストレインじゃあー!」
「オラッ! 走れッ! クソヘビィッ!」
<< マツダイ は [エクスプロージョン・POT]を使用した
→→【The weeder】アイアタル に400のダメージ >>
<< マツダイ は [エクスプロージョン・POT]を使用した
→→【The weeder】アイアタル に400のダメージ >>
「ヒット2、ハズレ7。追加で投げんぞ」
「外しすぎじゃねェ?」
「……元々グレネードとか苦手にゃんだよ。これだって普段使わねぇし」
「後でちゃんと回収しろよなー? リーダーは太っ腹だけど、無駄使いとかすげー嫌うしさー」
「わかってるって。終わったら拾うよ。ヒット0、ハズレ8」
「……外しすぎじゃねェェ~~!?」
「うっせえ、ヒット3、ハズレ13」
おんぶ状態のEAK・椎茸強盗と並走するマツダイが使っているのは、[エクスプロージョン・POT]という爆発する小瓶だ。
それはクリティカル判定や大きいブレ幅があるスキル攻撃を避け、最大限に安定したダメージを出すための選択だった。
しかし黒猫状態のマツダイの前足では、小瓶と言えども掴むのは簡単ではない。
そのため彼はストレージから手元に出現させた[エクスプロージョン・POT]を猫パンチで飛ばしていたが、それはほとんどが明後日の方向へ飛んでいくばかりだった。
幸いモンスターに当たらなかった[エクスプロージョン・POT]は爆発しないで落下するだけなので、のちほど回収すれば問題ない。
だが、その“後で拾えばいい”という考えが、マツダイの狙いを雑にしている要因であるのは確かだ。
「テイムー……おっけおっけー、2割確定ー」
そうして[エクスプロージョン・POT]400という固定ダメージをちまちま与え、目的地へとボスをおびき寄せ続ける。
その最中にも絶え間なくスキル《テイミング》を使用したことで、確実な『20%』に辿り着く。
「よし、あいつらもちゃんといるにゃ。体は見えねぇけど」
「木の穴に隠れてんのか? 体は隠しても名前は見えちゃってるぜェ、パイパイデカ美ちゃんよォ~」
「名前表示見えてんのに正しく読めねぇってどういうこと?」
「うちらのシマではスゥって書いてパイパイデカ美って読むからァ」
ミニマップで『霊樹の袂』にプレイヤーを示す青点が2つあるのを確認し、その方向に朱朱朱朱とスゥ・ラ・リュンヌの名前表示を視認する。
「自爆行くぞー、《生への渇望》ぽちっとなー」
「ダメ確したら引っ張んぞォ~なるべくこっち飛べよなァ~」
「ウオオオー! 俺が、C4ジープだー!」
すべては滞りなく。そして最後の仕上げとして、EAKが盛大に自爆をした。
体の至るところから伸ばした触手で無数の[エクスプロージョン・POT]を持ち、そのままボスへと突撃をしていっせいに爆破させたのだ。
「おらー! うるさくするのは誰ですかー!!」
「あ、朱ちゃんっ!? 先っちょだけって言ったのにっ!」
「むむ!? あれは――おひゃああ!?」
「あっ!」
なぜかそのタイミングで飛び出して来た朱朱朱朱が、爆風によって吹き飛ばされる。
しかしそれもそのはずだ。
何しろEAKが自爆に使用した[エクスプロージョン・POT]の数は計39個であり、その爆風はダメージ範囲の外であっても、猛烈な風を巻き起こすのだから。
「……何してんのアイツ」
「さァ? つってもアッチはどうでもいいっしょ。本命は変身師だし」
しかし彼らにとっては、朱はおまけで付き添いだ。
それがどうなろうとも作戦に影響はなく、スゥがそこにいればよかった。
そうして39個×400の15,600ダメージによって、ボスのHPは1000以下にまで調整される。
またそれと同時に使用したスキル《生への渇望》の効果によりEAKはギリギリ生き残り、その体から伸びた触手を椎茸強盗が引っ張ってEAKをキャッチした。
「おけー?」
「完璧。多分残り700ちょい」
「タイムはどうよォ?」
「2分30秒だにゃ」
これがオンラインゲームプレイヤーの最上位、本気でVRMMOをするガチ勢たちの本領。
機運に頼らず希望に縋らず、気合や根性で乗り切るでもなく、ひたすら冷たい視線の本気プレイだ。
目に見える数値の積み重ねと、ゲーム仕様への理解。
それらを只々突き詰めて辿り着く、本当の意味での『ゲーム攻略』。
彼らは道徳心を忘れ、社会性を捨てている。
その空いたスペースに、仕様というデータを詰め込むために。
そんな彼らの手にかかれば、この世界でできないことは何もない。
ボスの体力を95%だけ減らして止めるのも、好きな場所に誘導するのも。
そしてそれをエンジョイ勢に殺させることだって、できないことは何もないのだ。
「上々じゃん、乙でありますゥ」
「こ、これは乙じゃなくて触手なんだからねー!」
「俺のULTで上振れ引いたおかげだにゃ」
「一発背中当たってダメ減ってたじゃねェか。計算ダルかったんですけどォ?」
「あー、それ俺も気になったー」
「……しょうがねぇだろ、俺のULTはほぼ運だし。あとグレも運だし」
「出、出たァ~! 失敗した時だけ運ゲーとか言うヤツゥ~!」
「運ゲー連呼の運呼マンだなー」
「ヘヘェェ~イ! ウンコマァ~ン!」
「……椎茸、お前今年で30だろ。恥ずかしくねぇのか」
「別に?」
「つよい」
「天下無双かよ」
あとはスゥにスキルを撃たせて、ボスを倒させるだけだ。
彼らはここで改めて、作戦の成功を確信していた。
◇◇◇




