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第22.5話 2020年への挑戦 前編

 2020年1月1日、JR揺木駅。

 新年を迎えたばかりの揺木市に、辰真は再び降り立っていた。年末は市外の実家に帰省しており、三ヶ日はそのままのんびり過ごそうと考えていたのに、年明け早々呼び出しを食らったのである。

 眠気を押さえながら改札を通り抜けると、彼を呼び出した張本人、同期の稲川月美が出迎えに来ていた。初詣にでも行ってきたのか、全体に花びらの模様が入った晴れやかな赤地の着物を着用している。


「明けましておめでとうございまーす!今年もよろしくお願いしますね。今年はどんなアベラント事件に会うことができるのか、楽しみですね!」

 年賀状に書いてあった文章と一字一句同じ台詞を口走り、ぺこりと頭を下げる月美。辰真もまずは新年の挨拶から始める事にする。

「明けましておめでとうございます。今年もよろしく。……ところで」

「ところで?」

「お前、前の話(22話)でヤバい状態になってなかったか?あれはどうなったんだ?」

「もー、いきなりメタな話はしないでください!そんな事言ったら、時間経過だっておかしいですよ。前回は夏休みでなのに、いきなり新年になってますし」

「そうだよ、それも気になってた」


 読者の皆様には申し訳ないが、今回の話は番外編なので時系列については気にしないでいただきたい。はい、この話終わり。


「あーもう分かったよ。それで、新年早々何が起きたんだ?」

「はいっ。これを見てください!」

 月美が自分の携帯を取り出し、画面を見せてくる。それはどうやら、揺木の怪奇事件情報をまとめたサイト「揺木怪奇事件情報局」の画面らしく、トップにはこんな記事が載っていた。

【市内の「20」次々と消える!西暦への挑戦か!?】

 ……このサイトの見出し文(管理人の米さんが作っている)は大抵よく分からないが、今回のはより一層意味不明だ。


 記事によると、年明けから数時間のうちに、揺木市中で新西暦「2020年」の文字に対するイタズラが頻発しているらしい。目撃した市民達から証拠写真も次々に投稿されている。写真には「2020 Happy New Year」というような文字が書かれている街角の看板やコンビニのポスターが写っていたが、いずれも「2020」の部分が「20 」になっている(この文章は横書きで読んでほしい)。空白になっている部分は文字など最初から存在しなかったかのように背景色と一体化しており、単なる悪戯にしては手が込んでいる。加えて言うと、1枚や2枚ならまだしも、短時間のうちに10枚以上も写真が投稿されているのは確かに怪しい。更には、見るからに怪しい人影が写り込んだ写真も数枚あり、一連の事件の黒幕なのではという説が主流になっていた。……それにしても、正月から胡散臭いオカルトサイトに入り浸る多数の揺木市民、どれだけ暇なんだ。


「森島くんどうですか?怪奇事件の予感がしますよね?」

「ま、確かにきな臭いな」

「ですよね。それじゃ早速調査に向かいましょう」

「それはいいけど、何か当てがあるのか?」

「はい。さっきレイに事件の情報を送ったら、何か心当たりがありそうだったんですよ。詳しい話を聞いてみましょう」


 というわけで、辰真と月美は大学の友人である白麦玲の自宅に突撃した。彼女は揺木市中部の小さな住宅街の外れ、歴史博物館近くで一人暮らしをしている。


「2人とも、明けましておめでとう」

 正月の頭にいきなり尋ねてきたにも関わらず、玲は快く2人を出迎えてくれた。月美や米さんとの付き合いが長いだけあって、彼らの突飛な言動にも慣れているようだ。かく言う辰真も順調に順応を始めてしまっているのだが。

「今年もよろしく〜」

「ほんと、月美はいつでも元気ね。森島君は、今年は帰省しなかったの?」

「いや、昨日まで実家にいた。何でここにいるのかは、ご察しの通りだ」

「そう……」

「レイ、早速ですが、事件の詳細はもう知ってますよね?」

「ああ、あれね」

 寛大な玲も、友人が正月からオカルトサイトに入り浸っている事については思う所があるようだった。

「月美、新年からそんなサイトを見てたら陰謀論に取り憑かれるわよ。気分転換に2人で初詣にでも行ってきたら?」

 ちなみに月美は既に調査用ウェアに着替えているが、着物姿だったのは初詣のためではなく、ご近所への挨拶周りのためである。良家の子女は大変だ。

「レイはもう行ってきたんですか?」

「ええ、年が明けた直後にね。角見神社は毎年数量限定の御守りを売り出してて、競争率も高いのよ。味を占めたのか、毎年少しずつ値上げしてるのが困りものだけど……」


 話が徐々に脱線し始めたので、辰真が軌道修正を図る。

「それより白麦、事件について何か知ってるのか?」

「知ってるというか、月美に事件を聞いた時にちょっと昔の事件を思い出しただけよ」

「昔の事件?」

「今からだいたい100年くらい前にも、西暦が消された、みたいな騒ぎがあったのよ。揺木じゃなくてアメリカの話だけどね」

 Y R K(揺木大学歴史研究会)代表の玲は、揺木以外の歴史にも通じている。

「西暦が消される!?絶対それ、今回の事件と関係ありますよ!どこかに詳しい情報ないですか?」

「そうねー、マイナーな事件だし、国内の本だと見たことないわね。ネットでも殆ど見かけないし。あ、でも」

 玲は、ふと思い出したように顔を上げる。

「ひょっとしたら、うちの部室にあるかも」



 というわけで3人は、揺木大学のY R K部室へと向かった。当然この時期は大学も休暇中だが、代表は部室の合鍵を持っているので、部室を私的に利用する学生もそれなりにいる。とはいえ正月から部室に来る学生はそうそういないらしく、構内は閑散としていた。

 文連会館の2階にある部室の扉に玲が鍵を差し込む。

「でも、アメリカで起きた事件の資料が何でこの部室にあるんだ?」

 辰真の問いに、玲は扉を開けながら答える。

「私が持ち込んだわけじゃないわよ。こういうオカルトっぽい事件の資料といえば、誰が持ち込んでるか分かるでしょ?つまり__」

 扉が開くなり差し込んで来た光を受けて、玲の言葉は途切れた。3人の眼中に飛び込んできたのは室内の意外な光景。すなわち、正月から部室に居座ってサイトを更新する米さんこと米澤先輩の姿だった。


「やあやあ諸君、ハッピーニューミステリー!」

 3人の姿を見た米さんが謎の挨拶をかます。

「ハッピーニューミステリートゥー!」

「月美、付き合わなくていいわ。何で平然と部屋にいるんですか。合鍵の複製は禁止されてましたよね?」

「そんな事する必要はないよ。僕の七つ道具の一つ、その道のプロも愛用のピッキングツールがあれば、この程度の扉の解除など容易いものさ」

「通報したい……揺木の未来のためにも」


「そんな事より、諸君はこれを探しに来たんじゃないのかね?」

 米さんは手元に持っていた何枚かの紙資料を見せてくる。資料に印刷されていたのは、かなり昔のものと思われる英字の新聞記事だった。

「これはひょっとして?」

「ご察しのとおり、1920年サンディエゴで起きた西暦簒奪事件の記事だよ。さあ、読んでみたまえ」

 米さんから手渡された記事を解読してみると、街中の看板やチラシに書いてあった「1920」の文字が一部消される悪戯が頻発しているといった内容で、確かに今回の事件とよく似ている。そしてそれに加えて、事件の周囲で怪しい人影を見たという目撃証言も複数載っていた。


「諸君も読んで分かったように、2つの事件には奇妙な相似がある。西暦の数字を奪うという独特の犯行。怪しい人影。そして、1世紀という時間間隔。これらの要素を重ね合わせると、何かが浮かび上がってこないかね?」

「な、何かが……?」

 米さんの意味深な問いかけを受けて辰真は考え込むが、関係性がさっぱり分からない。一方玲は、考えるだけ無駄とばかりにこう言い放つ。

「いいから勿体ぶらずに言ってください。どうせ下らない説でしょうけど」


「全く君は分かってないなあ。まあいい、では少しヒントをあげよう。僕のつけた記事の見出しを思い出して見たまえ。なんて書いてあった?」

「ええと、【市内の「20」次々と消える!】でしたっけ?」

「そう。どの写真を見ても2020という文字のうち、右の2文字だけが消えている。同じ「20」の並びなのに、何故右側だけが消えるのか?まず僕は、そこに引っかかった。

 次に過去の事例を調べてみても、被害はやはり同様だった。つまり「1920」が「19 」になっている。ここで僕は気付いた。重要なのは文字列ではなく、西暦の下2桁ではないかということにね」


 ここで言葉を切り、得意げな顔で3人を見る米さん。辰真と玲は相変わらず意味が分からないという顔をしていたが、月美は何かに気付いたかのように口に手を当てる。

「1920年と2020年……!ひょっとして、下2桁が20の年に事件が起きてるんですか?」

「その通り!2つの事件が丁度100年間隔で起きたのは、決して偶然ではない。僕の推測では、今回の黒幕は異次元人だ。100年周期で、恐らくは人々の「20」に対する意識が強まると活動を開始し、西暦の下2桁を奪って回る。正にこれは2020年への挑戦と言えるだろう!」


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