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第21話 白昼霧の遊霊 2/4

(証言2 宇沢光雄)


 二人目の証言者は、これまた辰真達の知り合いである特災消防隊の宇沢だった。先日の異次元植物との死闘の中で脚を捻挫してしまい、大事をとって数日間入院していたのだが、あと1日で退院という所で事件に遭遇してしまったらしい。辰真達同様、特災消防隊員も事件に遭いやすい体質を持っているのかもしれない。


 第5病棟に移された宇沢の病室を2人が訪れると、彼はベッドの上で本を読んでいた。サイドテーブルの上にも多くの書物が積み上げられている。

「こんにちは!」

「失礼します」

「お前達か、よく来たな」

「はい、これどうぞ」

 月美が紙袋を差し出す。中に入っているのはカニ缶だ。……2人とも宇沢とまともに話したことがなかったため彼の好みが分からず、とりあえず以前のダイガ戦を思い出して無難そうなカニ缶にしたのである。しかし宇沢は表情を変えずにそれを受け取った。

「ありがたい。立ってないでそこに座るといい」

「宇沢さん、お体の具合はどうですか?」

「大丈夫だ。それよりお前達、話を聞きに来たんだろ?時間も無いだろうし手短に話す」

 そう言うと宇沢は淡々と証言を始めた。


「あれはリハビリを兼ねた筋トレの帰りだから、23時過ぎ頃の事だった」

「あの、うちの門限は21時_」

「稲川、質問は後だ。とりあえず続けてください」

「裏庭から病室に帰る途中、廊下の角あたりに白っぽい人影が立っているのが見えた。最初は出歩いている患者にしか見えなかったから、すれ違うつもりでそいつの方向に進んで行った。だが、近付くにつれて嫌な予感が脳裏に浮かび始めた。お前達もわかるだろうが、異次元事件に何度も遭遇していると直感が鍛えられてな」

「分かります!」と言いたげな表情で月美が頷いている。


「近付くにつれて予感は確信に変わった。まず、そいつの周囲には霧のようなものが纏わりつき、姿をぼやけさせていた。更に近付くと服装が見えた。一見白い患者服を着ているようだったが、正確には着物か何かだったらしい。顔は長い髪に隠れていて性別は分からなかった。そこまで近付くと、そいつの服だけじゃなく全身が青白い上に体も透けているのが確認できたから、速度を上げて接近したんだが、向こうもこちらに気付いたのか、廊下を滑るように移動して消えてしまった。脚さえ治っていれば取り押さえられんだが」


「幽霊を取り押さえるつもりだったんですか……」

 心底悔しそうな様子の宇沢。流石は特災消防隊の一員と言うべきか、発想の根本が脳筋である。

「ところで宇沢さんは、目撃したのが本当に幽霊だったと思いますか?それともやっぱり異次元人?」

「そうだな。俺自身が異次元事件の関係者というのもあるが、やはり常識から考えても幽霊の線は薄いだろう__と、昨日までは思っていた」


「昨日までは?」

「ああ」

 宇沢はサイドテーブルに積み上げられた本を指差しながら言った。

「ここ数日、色々な怪談話を取り寄せて読んでいて思ったんだが、何百年もの間日本各地で似たような類型の幽霊譚が目撃され続けているというのは、実に興味深い。幽霊なるものが実在するかどうかに関わらず、な」

 一瞬だけ、学生達の背後に冷たい風が吹いたような気がした。

「ち、ちなみに今読んでる本は?」

「これは『悪魔と呼ばれた少女』。昭和期の幽体離脱現象を纏めた本だ」



「貴重な証言でしたね」

「ああ。宇沢さんがあんなに長く喋るなんて、消防隊仲間でも見たことがないんじゃないか」

「そこじゃないです!周囲に霧が出てたって証言がありましたよね?幽霊の正体が異次元人だっていう説の根拠になりますよ」

「でも梅原さんが目撃したのは火の玉だったぞ。火の玉も異次元人の仕業だっていうのか?」

「それについても心当たりがあるんです。ちょっと資料室に寄ってもいいですか?」


(文献調査)


 揺木総合病院本棟の一画にある小部屋。病院の創業者にして月美の祖父である稲川陽造氏が趣味で集めた揺木に関する文献が集められているこの地域資料室で、2人は文献を漁っていた。

「ありました!これ、見てください!」

 異次元事件に関する小冊子をめくっていた月美が歓声を上げ、辰真に開かれたページを見せてくる。そこには、「カゲビト」なる異次元人についての情報が載っていた。


「内容を抜粋しますね。浮遊霊人「カゲビト」は世界各地で目撃されているが、目撃地域の人間の文化や慣習によって外見や特質が変わるという習性を持つ。例えば日本のカゲビトは一般に足が存在しないが、西洋のカゲビトは足の目撃情報が多い。日本のカゲビトの方が浮遊能力に優れているためと推測される。

 また日本のカゲビトは着物のような衣服を着用し、「人魂」と呼ばれる火の玉に似た物質を生成する能力を持つ。これはカゲビト同士の交信に使用されるという説が有力である。

 カゲビト全体に共通する性質としては、出現時に冷気や特殊な性質の霧が高い確率で発生する点が挙げられる。どうですか?やっぱり今回の事件も異次元人の仕業なんですよ!」

「いやちょっと待て」

 流石に何かおかしい気がする。


「質問なんだが、それを書いたのってメジャーな人か?何でもかんでも異次元人のせいにする米さんみたいな人じゃないよな?」

「えーとこの人は……あー、確かに米さんタイプですね。『アトランティス』とかにもよく寄稿してますし。でもどうして?」

「落ち着いて考えてみろ。そこに書いてあるカゲビトの特徴って全部幽霊の特徴そのままだろ?普通の幽霊事件のことを異次元人の仕業って無理矢理こじつけてるように思わないか?」

「うーん、確かにその可能性もありますけど、わたしとしては異次元人の方がしっくり来ます。だって異次元人には会ったことありますけど、幽霊は見たことないですもん」


「普通は逆だと思うが……」

 とはいえ月美の考えも理解できる。幽霊の実在は不明だが、少なくとも異次元人の存在は証明されているのだから。

「でもこの情報だけじゃ決め手に欠けるよな。念のために旧市立病院で何か事件が起こってないか調べたいんだが、そういう資料ってあるか?」

「ここには無いですけど、この辺りの昔の資料なら玲が集めていると思いますよ」

「じゃ、ちょっと聞いてみるか」

 2人はYRK(揺木大学歴史研究会)の白麦玲に電話して調査を依頼し、梅原看護師の薦めで数時間仮眠を取った後、消灯時間後に第4病棟に向かった。


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