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第18話 南島の雷 4/4

 階段を上り切り、辰真が二階のドアをゆっくりと開ける。幸い即時攻撃を受けることはなかったが、やはり視界は悪い。ざっと見た限りでは、一階と同様に作業台が一列に並んでいるようだが_

「森島くん、あそこに!」

「ああ」

 コピアヌィラは奥の方にいた。作業台が密集する中、一際長い尾が突き出ているのですぐに分かる。こちらには気付いているのだろうか……などと考えていた矢先、鉤針が一瞬光ったかと思うと、大サソリは尾部を勢いよく前方に叩きつけた。

「!!」

 床と鉤針が激突し、二階全体がガタガタと揺れる。ただでさえ後付けなのに経年劣化も進む床なので非常に危なっかしい。だが、危険なのはそれだけではなかった。気付けば火花を放つ電光が、床を伝って彼らの方に迫ってきていた。

「パレカウア!」

 辰真の横から飛び出たメリアが再び前方に片手を伸ばす。さっきは気付かなかったが、彼女の掌の先あたりに半透明の壁のようなものが出現している。迫り来る電光は彼らの直前で壁に衝突し、左右に分かれて後方に去っていった。


「やりましたね!」

「ああ、さすがメリアだ」

 だが安心するのは早かった。二手に分かれた電光の片方がドアを通って階段に衝突、轟音を立てる。そしてその衝撃に耐え切れず、朽ちかけていた階段は派手に空中分解し、一階に落下していった。

「アロハ イノ(何てこと)!」

「ど、どうするの?」

 4人が動揺する暇もなく、背後からコピアヌィラが接近する音がする。電撃はメリアが防げるとしても、接近戦では打つ手はない。退路を断たれた上にいつ床が抜けるかも分からない。絶体絶命の4人が縮こまる中、救世主は上から現れた。


 コピアヌィラとの距離が5mほどまでに近付いた時、突如として4人の頭上から光が差し込んだ。

「!?」

「あ、あれは……」

 見上げると、いつの間にか天井の板が一つ外され四角い天窓ができている。そしてその天窓から顔を覗かせている人物は、我らが城崎教授だった。

「先生、待ってました!」

「早く助けてくださ~い!」

 教授は頷くと、天井から折り畳み式の梯子をするすると下ろす。

「さ、早く上るのよ!」

 4人は順番に梯子を上り始める。コピアヌィラが辿り着いた時には、しんがりの辰真も尾が届かない距離まで上昇していた。鉤針が火花を散らしているが、メリアが梯子の周囲に盾を張っているので攻撃を受ける心配はない。


 辰真が屋上に着地し、全員が工場からの脱出に成功したことで、ようやく一行に安堵感が漂う。

「諸君、待たせてすまなかったね」

「もー先生、遅いですよ!」

「ごめんごめん、停電の方の対処に手間取ってね。もうすぐ特災消防隊がここに到着するよ。あ、君が留学生のメリア君だね?色々話を聞きたいけど、まずはここから離れようか」

 先生が指差した先には、揺木市が保有する救助ヘリがホバリングしていた。


 突然、光の球がヘリに向かって放たれた。幸い直撃はしなかったものの、光球が掠めたことでヘリは大きくバランスを崩し、一旦着陸するため高度を下げていく。

 光球が発射されたのは屋上の中央辺りで、いつの間にかそこにも穴が開き、巨大な蠍の尾が突き出ていた。間もなくコピアヌィラの全身が穴から這い出てくる。

「下がれ諸君!」

 先生に言われるまでもなく、一行は屋上の端に避難しようとする。しかし、巨大蠍の重量に耐えられなかったのか、屋上全体がVの字を描くように傾き始めた。そして、一行を守るように手前に立っていたメリアがバランスを崩し、崩落に巻き込まれる。

「アウエー!」

「メリア!」

 ずっと辰真の後ろにいた月美が飛び出し、滑落するメリアの右腕を掴む。更に辰真も月美の腕をホールドするが、落下を止めることはできず3人で斜面を滑り落ちていく。

 屋上から逃げる術は無く、奈落の底には巨大蠍が待ち受ける。この場の誰も、状況を打開する策を思いつけなかった。


 そんな中、救世主は天から現れた。


 突如、遥か上空から羽ばたき音がしたかと思うと光輝く平たい毛布のような物体が出現する。その物体は自らをはためかせながら高速で屋上に飛来し、辰真達3人よりも早くコピアヌィラに激突した。その衝撃で巨大蠍は数m後ろに吹き飛ばされる。

「あ、あれは……」

「来てくれたんですネ!」

 メリア達を庇うように立てられた平たい体は、鮮やかな虹色の縞模様に彩られている。頭鰭から尻尾の先まで、全身から放出される暖かいマナの粒子。見間違えるはずもない。かつてメリア達が救ったマナ生物、南国の幻影ことハーハラニの姿がそこにあった。


 体勢を立て直したコピアヌィラは尾を振り立て威嚇体勢に入るが、ハーハラニが動じないのを見ると火花を散らしてプラズマ球を生成、マンタ目掛けて投擲する。ハーハラニは悠然と受け止め、平たい体で風呂敷のように光球を包み込む。一瞬後には、プラズマはハーハラニの体内に吸収されていた。

 今度はハーハラニがコピアヌィラに向かって滑空、平たい体が蠍の胴体に覆い被さる。重量をかけられたコピアヌィラは暴れ、尾先の鉤爪をまっすぐ振り下ろそうとする。が、それより早くハーハラニの長い尾ビレが蠍の尾に巻き付き、その動きを封じた。同時にハーハラニの体表の光が強くなり、コピアヌィラの動きは鈍くなっていく。


「あれは何をやってるんだい?」

「マナを吸収してるですネ」

「みたいだな。ちょっとだけあいつに同情する」

 やがて蠍がすっかり大人しくなると、マンタは胸ビレを大きく羽ばたかせて再浮上した。尾ビレが巻き付いたままなので、コピアヌィラも一緒に吊り上げられる。ハーハラニは尻尾の先にコピアヌィラをぶら下げたまま、段々と高度を上げていく。


「マハロ、ハーハラニ!」

「また来てくださいね!」

 メリア達の歓声に見送られながら、ハーハラニは天空へと去っていった。



 数日後、辰真達は再びSDAHLに集っていた。

「ほら見て、この間の動画」

 絵理が見せてくれたビデオカメラの記録映像には、ハーハラニとコピアヌィラの死闘が克明に映っている。

「うまく撮れてますね」

「ハイ、とってもキレイですヨ」

「先生にも許可貰ったし、これでまたアクセス増やすわよ!」

 彼女が揺木日報公式サイトに時折アップするアベラント事件の動画は、最近では順調にアクセス数を伸ばし、固定ファンもつくほどになっていた。……揺木市外の視聴者からはジョークサイトと思われている可能性も高いが。


「はーい、お待たせしましたー!」

 約束通りSDAHLでバイトを始めた月美がトレイを運んでくる。黄色いエプロン姿が意外と似合う。

「どうぞ、コナパンケーキですっ」

 楽しそうに働く月美を眺めながら辰真は考える。テクスチュラの頃と比べると、稲川も着実に成長している。コピアヌィラと対面した時は、最初こそ腰を抜かすもすぐに復帰してきたし、最後にはメリアを助けるために単身飛び出していった。徐々に巨大な虫に耐性をつけているのかもしれない。


「ところで、何を見てるんです?」

 月美が上半身を屈めてビデオカメラを覗き込む。

「月美ちゃんも見る?」

 絵理が差し出したビデオの画面には、たまたまコピアヌィラがアップで写っていた。

 次の瞬間月美は背中をのけ反らせ、持っていた皿も連動して90度上に傾き、更にその上に載っていたクリームたっぷりのパンケーキも跳ね上げられ、辰真の顔面に向かって飛んできた。

「…………」

「ごっごめんなさい!つい手元が」

「アロハ イノ……」

 ……やっぱり、もう少し耐性をつけてほしい。


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