表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
151/159

第37話 アベレスティアルの逆襲 4/4

「皆さん、緊急事態です!手分けして観客を避難させてください__」

 里中主将が体連メンバーにてきぱきと指示を出し、パニックになりかけていた観客をステージ周辺から遠ざけていく。間も無くステージ手前には異次元人がポツンと取り残され、その周囲を10mくらいの距離をとって体連メンバーが取り囲み、背後から観衆が見守るといった構図が作られた。


「ふう、これでいいですか?」

「里中さん、ありがとうございます!後は異次元人を何とかすれば__」

「それは、俺たちに任せてもらおうか」

 会話に割り込んできたのは、高見、袋田、時島の特災消防隊メンバーだった。高見はテラマネ事件の際に使用された専用ストライカーのモスマンを抱えている。

「高見さん!クリッターは大丈夫なんですか?」

「ああ。宇沢が修理中だが、すぐに直るらしい。それより今はあいつの相手だ」

 モスマンやスイコ等の武器を持った消防隊メンバーが、三方向に別れて散らばる。すると危険を察知したのか、異次元人は今までとは違う動きを始めた。その場に散らばっていた跳び箱や平均台、観客が逃げた後の長椅子などに向けて手を振るような動作を見せる。すると、椅子やら飛び箱やらが怪人の方へと引き寄せられ、積み上がって瓦礫の丘を形作った。怪人はその上に飛び乗り、周囲の人間達を見下ろす。


 三方向から怪人にゆっくりと接近しようとする高見達。1人が吹き飛ばされたとしても、その隙に武器で怪人を仕留めることができれば問題ない。敵もそれを分かっているのか、周囲の長椅子などを浮遊させて接近されないように威嚇する。こうして現場は緊張状態のまま膠着を迎えていた。


「森島くん、どう思います?あの浮遊能力ですけど」

「……」

 怪人と対峙する特災消防隊を背後で見守りながら、辰真と月美は異次元人の考察を始めていた。

「そうだな。最初は金属を動かしてたから磁力を操ってるのかと思ったが、木材も動かせるみたいだし、よく分からなくなってきた」

「ですよね。でも、ああいう動きをどこかで見たことある気がするんですよ」

 確かに月美のいう通り、あのように浮遊している物体はどこかで見覚えがあった。空中に完全に静止しているのではなく、小刻みに上下運動を繰り返しながらの浮遊。ナルペトが使っていたような重力操作とも少し違う。あれは確か……


「ひょっとして、メンダスか?」

「!! そうですよ、メンダスの浮遊能力にそっくりです!」

 以前異次元社会学の課外授業の際に出会った、装星生物メンダス。確か、周囲に特殊な磁場を生み出すことで自身を浮遊させていたはずだ。そして、その浮遊能力を解除するために先生が持ち出したのは__

「「AMアンチマグネティックシート!」」

 そう、周囲をゼロ磁場状態にする能力を持つAMシートがメンダスの捕獲に大いに貢献していた。だとすると、AMシートはあの異次元人にも有効な可能性がある。

「あの板、まだ研究室にあったよな?」

「はい!2人でここに運びましょう!」


 辰真と月美は消防隊に現場を任せ、第一校舎の裏側に回って北部にある彼らの研究室を目指す。学園祭の参加者達は殆どが異次元人騒ぎを見に集まっていったこともあり、周囲に人の姿は確認できなかった。そのまま小屋まで最短距離で突っ走ろうとしたその時、2人の眼前に黒い人影が突然飛び出してくる。

「!?」

 辰真達は急ブレーキをかけ、衝突の寸前に停止した。そこにいたのは、オカルト雑誌アトランティス所属の探索者にして「第3の眼」の使い手、イェルナ・トゥモローだった。以前会った時はドレススーツを着用していたが、今日は動きやすそうなアウトドアウェアに身を包んでいる。


「Hi!また会ったわね、お兄さんたち」

「イェルナ?どうしてこんな所に」

「どうしてって、今日はSchool Festivalでしょ?私も見学に来ただけよ」


 確かに揺大祭にイェルナが来てはいけないわけではないが、辰真たちは以前の経験から、彼女のことをいまいち信用できていない。そもそも、そんな服装で人気の無い校舎裏手にいる時点で、ただ遊びに来ただけのようにはとても見えない。

「向こうでアベレスティアルが出てきたんでしょ?毎日騒がしいわね、ユラギも」

「……一体ここで、何をやってるんだ?」

「イェルナさん、もしかして何か知って__」

「Stop! 2人とも急いでたんじゃないの?こんな所でのんびりしてていいのかしら」


 確かにそうだ。今何より優先すべきは、AMシートを広場に持っていって異次元人の対策をする事だった。

「稲川、行くぞ」

「はい!」

 辰真たちはイェルナをその場に残し、研究室に向けて残りの道を走り出した。



 一方ステージ周辺では、特災消防隊と異次元人の膠着状態がとうとう破れようとしていた。再び空中へと移動した怪人が、同じく浮遊させた長椅子を振り回すかのように、自分の周囲で回転させる。これでは高見達3人どころか、観衆達も攻撃の射程に入りかねない。

「危ない!これ以上放置できないよ」

「くそ、人手が足りねえ。タツの奴どこに行ったんだ?」

 城崎研究室でAMシートを見つけた辰真達が、シートを抱えて戻ってきたのはその時だった。

「皆さん、お待たせしましたー!」

 広場に飛び込んできた2人は、その勢いのまま広げたシートを広場中心へと押し出す。AMシートは地面を綺麗に滑っていき、やがて異次元人の真下あたりで静止した。すると、空中で浮遊していた怪人は急にバランスを崩したかのように暴れ出し、間も無く長椅子と共に地面へと落下した。すかさず高見達がスイコで異次元人を狙い撃つ。熱湯の集中攻撃を浴びた怪人は、しばらくの間苦しんでいるかのようにもがき、やがて動かなくなる。活動停止を確認した高見が近付こうとしたその時だった。


「止まれ高見、気をつけろ!」

 時島が叫びながら、怪人から離れた場所に転がっていた楽器ケースの方を指さす。黒いケースは、中に何か動く物が入っているかのようにガタガタと振動を始めている。一同が動きを止めて見守る中、ケースの蓋がゆっくりと開き、内部からサッカーボール大の石のような物体が姿を現す。

「あ、あれは」

「……メンダス?」

 奇しくも辰真達が先程連想したメンダスに酷似しているその石塊は、ゆっくりと浮遊しながら上昇を試みているようだったが、やがて糸が切れたかのように地面へと落下し、動かなくなった。



「いやー、今日は大変でしたね」

 学園祭1日目が終わり、学生達が片付けと明日の準備に勤しむ中、辰真と月美はYRKの展示教室で話していた。

「あの異次元人とメンダスみたいな隕石、どういう関係だったんでしょうね。目的も気になります。揺大祭で暴れたいだけだったんでしょうか」

「さあな。でも特災消防隊が連行して行ったし、今ごろ異中研で取り調べ中なんじゃないか?」

「そうですね、明日になれば先生が教えてくれるはずです。なにしろ講演会がありますから」

「そう!いよいよ明日こそがメインイベントだぞ」

 会話に割り込んできたのは米さんだった。

「今日も色々あったようだが、全ては明日の前座に過ぎない。本当のクライマックスはこれからだ!」

「米さん、そういうのいいですから。もう事件はこりごりなので……」

 しかし残念ながら、米さんの言葉は現実のものとなった。揺大祭の2日目は、1日目よりも更に重大な事件が巻き起こることになったのである。


(38話に続く)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ