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第31話 揺木市防災訓練記録 〜SOS薄明山〜 3/5

 梢ヶ原に向けて疾走するムベンベの内部では、特災消防隊員達がコントロールルームのモニター越しにエアーハウスの巨大な影を視認していた。

「怪物の姿を確認。大きさは5m程度と推定される。更に、怪物の肩に逃げ遅れた子供を一名確認した。宇沢はスピードをやや落として接近せよ。袋田はロボットアームの準備。総員、子供の救出を最優先で行うこと!」

「「了解っ!!」」


 駒井司令の号令に、隊員達が呼応する。当然、車内における対応も記録されており、後で採点の対象となる。しかし更に重要なのは、いかに早く子供を救出するかである。怪物退治よりも、人命の救助が優先。異中研の方針とはややずれるが、消防隊としては譲れない一線であった。


「ロボットアーム、準備できました!」

「よし、高見と時島はサブアームの操作に回れ。敵まで5m以内に接近したらサブアームで押さえ込み、そのままメインラダーで救出を開始する」

 駒井司令の的確な指示により、救出作戦は開始された。このまま順調に推移すれば、要救助者の救出はスムーズに終わる__筈だった。



 市長やドクター達が見守る中、ムベンベはエアーハウスにじりじりと接近する。残り10mを切った辺りで、メインラダーの両脇に備え付けられていた2本のサブラダーが動き出し、変形してロボットアームになった。敵を威嚇するようなポーズで2本のアームを構え、更に敵へと接近するムベンベ。あと7m、6m、そして遂に5m圏内に入ろうとした、その時だった。


 突然、巨大な破裂音が梢ヶ原に響き渡る。野外にいた見学者は反射的に目を閉じ、車内の隊員達も一瞬動きが止まるが、1秒後には状況把握を開始した。そして、更に1秒後には再度動きが止まった。

「…………!?」

 一瞬前まで怪物(という設定のエアーハウス)が写っていたモニターには、今は何も写っていなかったのである。


「怪物の姿、確認できません!」

「一体どこに消えた?」

 混乱するムベンベ内部の隊員達。一方、遅れて目を開けた野外の見学組は、今度は隊員達に先立って状況把握に成功した。潰れたエアーハウスの残骸を突き破り、尖った物体が地面から突き出ている。直後に地面が大きく振動し、それの全貌が地中から姿を見せた。


 ムベンベの行く手を阻むように現れた、歪んだサッカーボールのようなシルエットの物体。よく見ると、その全体は黒ずんだ岩で構成されていた。輪郭を構成する岩の先端はいずれも尖っており、特に上部に載った岩の一つから、一際大きな鋭角がツノのように頭上に突き出ていた。エアーハウスを破裂させたのは、この部分のようだ。そして今、巨大な岩塊は小刻みに揺れながらムベンベに迫ろうとしていた。


「あ、あれは一体……?」

 見学席にいた人々は、その異様な姿を見て一様に困惑していた。

「あれも、訓練の一環ですか?」

 市長の隣に座っていた安庭副市長が、卯川防災課長に問いかけるが、課長は真っ青な顔を左右に振って否定する。当然だ。今回の訓練の標的はあくまでログハウスのはずで、あんな怪物がサプライズ登場するなんて聞いてない。しかも、揺木で今まで出現した異次元生物と違い、そもそも生物なのかも疑わしい奇怪な外見をしている。一体あれは何なのか。職員達の視線は、最前列で趨勢を見守っている城崎教授とドクター・ソルニアスへと向いた。


「ふむ……ジュンイチ、あれをどう見る?異次元生物としてはマイナーな外観だが」

「そうですね、岩石生命体なのは間違いないでしょう。揺木では初めて見ましたけど」

 試すようなドクターの問いかけに、城崎教授は淡々と応える。

「私も同意見だ。それで、どれくらいまで絞り込めた?」

「……4種類」

「そうか、私は3種類だ」

 前の席に座る教授達のやり取りを見て、辰真と月美は無言で顔を見合わせる。よく分からないが、彼らの間には妙な緊迫感が漂っている、気がする。

「しかし、気になる点はあります」

 そう言うと、城崎教授はラジオニクス通信装置でムベンベ内の消防隊に話しかける。

「司令!胴体の白い部分を狙ってください。奴の弱点かは分かりませんが、何らかのキーポイントの筈です!」


「了解」

 コントロールルーム内で通信を受けた駒井司令は、即座に部下に命令を出す。

「聞いたな!訓練だろうが違かろうが関係ない。奴の白い部分に一発食らわせてやれ」

「了解!やってやりましょう!」

 時島がコンソールを操作し、モニターに敵の胴体が大写しになる。黒ずんだ岩が密集している胴体の中で、ちょうど中央にあたる部分の岩だけが不自然に白くなっていた。


「発進!」

 宇沢がアクセルを踏み込むと同時に、高見と時島がロボットアームの操作を開始。訓練に沿う形で怪物を押さえ込みにかかる。ムベンベが敵に接近するのに合わせてアームが動き出し、上部の大きめのツノをそれぞれ挟んで動きを封じる。その間に、袋田はメインラダーの変形準備を完了させていた。


「打つべし、打つべし!ムベンベのメイン武装を食らえ!」

 変形したメインラダーの先端に出現した巨大なボクシンググローブが、ラダーの動きに合わせて勢いよく射出される。ロケットパンチ・ラダーの重い一撃が、敵の胴体に叩き込まれた。


 衝撃の反動で大きく揺れるムベンベの中で、隊員達は確かな手応えを感じていた。グローブは敵の中央部にクリーンヒットしている。そして一瞬後、怪物はぐらりと揺れ、勢いよく地面に落下したブロック玩具のようにバラバラに砕け散った。


「…………え?」

 想定以上の結果を眼前にして、隊員達は呆気に取られる。いくら重い一撃とはいえ、ここまで粉々になるとは思っていなかった。そして、予想外の事態はこれだけではなかった。地面に散らばった石片の間から、真っ白い球体が空中へと浮かび上がったのである。その色は明らかに、胴体の中央に見えていた白い岩石と同一だった。どうやらこの白玉は黒い岩の内部に収納されており、先ほど見えていたのはその一部だったらしい。更に白い岩が空中で静止すると、周囲に飛散していた黒い岩も、白い岩に引き寄せられるように上昇を開始したのである。


「生命を持った岩石の塊……そしてあの白い物体が核となっている……それなら」

 その様子を見て、城崎教授はそれの正体に思い至った。

「あれは岩石生命体の一種、ペトロスだ。本体は白い球状だが、周辺地域の岩石を身に纏うことで身体を巨大に拡張させ、破壊活動を行う厄介な存在だ」

 微笑を浮かべながら教授の考察を聞いていたドクターが満足げに頷く。

「イグザクトリー!流石だよジュンイチ。あれは間違いなくペトロスだ」


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