芽生え始める気持ち
窓辺に朝日が差し込み、小鳥たちがさえずっている。空は青く澄み渡っていて、爽やかな朝を迎えた。
マリアの部屋の扉がノックされ、温かい紅茶とサンドイッチが入ったカートを押しながらカミラが入ってきた。
「おはようございます、マリア様。よく眠れましたか?」
「…………おはようカミラ。ちょっと色々あってあまり眠れなかったわ……」
マリアは気だるげに上体を起こし、カミラが渡してくれた紅茶を一口飲む。
昨日、私……レイヴン様と……。
昨夜レイヴンが自分にした事を思い出して、マリアは思わずむせそうになった。
自分の部屋に逃げ戻った後も、この事を考えてばかりであまり眠れなかったのだ。
大丈夫! 大丈夫! レイヴン様は思春期だし、きっとああいう事に興味があっただけだわ。私の事を好きなわけじゃない……。
気持ちを切り替えるために、そう考えるマリアだったが、その時少しだけ胸が痛んだ事に気付かなかった。
「マリア様、朝食を摂られましたら、北の別棟においで下さい。レイヴン様がお待ちです」
「ブっ!! ゲホッゲホッ!」
カミラからレイヴンの話を聞いて、今度は紅茶を思いっきりむせてしまったマリアだった。
そんなマリアの背中を撫でながら、カミラは少し頬を染める。
「マリア様、昨夜はレイヴン様と……」
「な、何でもないのよ! 私、急いで支度をするわ!」
カミラの質問から逃れるために、マリアは急いでサンドイッチを頬張り、ドレスルームに飛び込んだ。
マリアの動揺する姿にカミラは苦笑しながらも、マリアの着付けを手伝うために、ドレスルームへと向かった。
「ハァ……急いで支度をしたのはいいけれど、レイヴン様とどんな顔で会ったらいいのかしら……」
マリアは北の別棟の通路を重い足取りで歩いていた。
カミラの意味ありげな視線から逃れるために、部屋の場所だけ聞いて一人でここまで来たアリアだったが、レイヴンに会うのは少し気まずい。
そもそもどうしてこんなに私は考え込んでいるの? 今まで小さい子に唇にキスをされそうになった事は何度でもあるじゃない。
故郷に住んでいた頃は、男子がふざけてマリアにキスをしそうになった事が何回もあった。
マセている子が大人の真似をして、マリアに迫る事もあったけど、その度にうまくマリアはかわしてきた。
それなのに、昨夜レイヴンがマリアを押し倒した時、マリアは何も考えられなくなってしまったのだ。
まだ唇に、レイヴンの温もりがある気がして、マリアはそっと自分の唇に触れる。
どうしよう。レイヴン様に会いたくない。
しかし、そうこう考えているうちに、あっという間にレイヴンが待つ部屋の前についてしまった。
マリアはしばらく扉の前で留まっていたが、大きく深呼吸をして、扉に手をかける。
……もう! あれこれ考えても仕方ないわ。レイヴン様をお待たせするわけにはいかないし、扉を開けましょう。
マリアは頭を左右に振り、気持ちを切り替え、ゆっくりと扉を開けた。




