第17話 侵入/確保
《登場人物》
アラン・ダイイング 探偵
マリア・シェリー 探偵助手
モーリス・レノール シュゼット警察刑事部捜査1課警部
カール・フリーマン 同刑事 モーリスの部下
-被害者-
エリー・アンダーマン シュゼット国立中央図書館司書(第1被害者)
イーライ・ゲイル ブレーンスタイン博物館職員(第2被害者)
アリス・パルマー シュゼット国立中央図書館司書(第3被害者)
-容疑者-
ジョルジュ・カイマン シュゼット国立中央図書館司書
シリル・プレヴェリネ 同 司書
エリック・シルヴァ 同 司書
クロード・モーマン 同 司書
ロビン・フィリモア 同 館長
― 5月4日 ダイイング探偵事務所 午前0時前 ―
1台の4WDが図書館の駐車場に停まった。
車から黒スーツを着た3人の男が降りる。腕には腕章がついており、《シュゼット文化教育省》と記されている。
「準備はいいか?」
「ああ」
「中でRが待機している。行くぞ」
「了解」
3人の男は、トランクから、ケースと台車を取りだし、トランクのドアを閉めた。
ケースを開き、中から、サイレンサーの拳銃をそれぞれ取出し、マガジンに弾を込めて、拳銃をホルスターにしまう。
Eは大きめのリュックを背負った。それぞれの準備が終わり、図書館へと歩き始めていく。3人の思いは1つ。何としてでも成功させて、数十億の財産を得る事。
ただ、それだけだった。
入口に近づいた時、警備室で監視している警備員が3人の姿を見て止める。
「おい、ちょっと! あんた!」
Jが、警備員に説明し始める。
「文化教育省の者だ! 緊急事態が発生した。芸術品を安全な場所に運ぶ」
警備員は男の説明に対して理解できていない。
「え!? どういう事だ?」
Jが説明をし、その間にEとAが警備員を囲むような位置に立つ。
「緊急事態だ。芸術品を運ぶ事になった。急がなければいけない」
警備員はJに反論する。
「でもそんな事は聞いてないぞ!」
依然として態度を変えなかった警備員に対してEがサイレンサー付き拳銃を突き付けた。
「黙ってもらえるか。今、動くと、お前は、一生を楽しく過ごす事ができなくなるぞ。……ロビン・フィリモア館長を呼んでもらおうか?」
警備員は突きつけられた拳銃に恐れ、男の言うとおりにするしかなかった。
トランシーバーを取り出して、ロビンの電話番号に電話を掛ける。
『私だ。どうしたね?』
警備員がロビンとの通信がとれた事を確認し、Jは警備員に小さく告げた。
「今から言う通りに言うんだ。『文化教育省の方が芸術品を輸送しに参りました』って。簡単だろ?」
警備員は、微弱な足の震えを抑えるのに精一杯。彼らの言う事を聞くしか道はなかった。
「館長。こ、文化教育省の方が……げ、げい、芸術品を運びに参りました……」
『ああ、分かった。お通しして、地下倉庫に向かう様にしてもらおう。そう国家文化省の方に言っておいてくれ』
「わ、分かりました」
通信を終了した瞬間、警備員の首から激痛が走り、そのあとで大きいな向けを警備員が襲う。
Jは、警備員に一言だけ告げた。
「ご苦労様」
警備員はとてつもない脱力と眠気に襲われ、そのまま、床に倒れた。
「よし、行くぞ」
Aは警備員を誰にも分からない様に、人が見えない物陰の裏へと運ぶ。
Eは警備室に入り、入口の電子錠を切り、ドアの鍵を開ける。続けて、背負っていたリュックを床に置き、中から1台のノートパソコンを取り出した。パソコンを起動させ、警備室のサーバーと接続させる。
「早く! 早く!」
パソコンの操作とサーバーの接続・管理体制のハッキングに時間を要した。Aは腕時計で時間を確認。予定より3分遅れていた。
「おい。まだか?」
「待ってくれ。もう少しでカメラが止まるんだ。3、2、1。やった!」
警備室の監視カメラモニターには古いアナログテレビでよくある砂嵐が起き始めた。
「カメラは止まったぞJ。あとは中で徘徊している警備員だけだ」
「でかしたE。警備員はそのまま任せるぞ」
「分かった」
3人は、入口に入り、館内の様子を確認する。警備員の数を確認した。
「あいつが地下で待ってる。俺が先に行こう。Aは、他の入口が閉まっているかを確認しろ。素早くな」
「ああ。わかったよ。J」
「エレベーター前で合流だ。いいな」
「了解」
図書館の中に入り次第、3人はそれぞれの行動を開始した。
まず、Eは、警備員に犯行が知られない様にする為の行動を始める。Aはそのまま進んでいき、他の館内出入り口が閉まっているかを確認しに向かう。Jはエレベーターへとまっすぐ向かっ
て歩いていく。
Eは周りに警備員がいないかをくまなく探す。拳銃を構え、いつでも脅迫、発砲、暴行が取れる様に。しかし、今のところどのコーナにも警備員がいない。
この状況にEは少し不安に感じた。
「おかしいな? 警備員がいないぞ」
警備員が逆にいない事で安心もあった。
トランシーバーでJに連絡する。
「警備員はいない直ぐにそっちに向かう」
「了解。油断するなよ」
「分かってるよ」
トランシーバーを切り、ポケットにしまった。
「誰と会話していたんですか?」
Eは背後から聞こえた言葉に思わず後ろを向き、姿を確認した。
後ろには、フリーマンが拳銃を構えて立っている。
「やめてもらえますかね? こっちの作戦に、障害が起きるのでね」
「クソッ」
術がないEは、どうする事もできず、拳銃を捨て、両手を挙げた。
「そう。それでいいんですよ。さぁ、壁に手をついて!」
Eは言われた通り、壁に手を付き、抵抗しない様に構える。
フリーマンは拳銃を構えながら、インカムで連絡をする。
別の部屋から他の警官達が待機しており、フリーマンの合図と共に、一斉に出てきた。
「警部。こちらは大丈夫ですよ」
レノールの声が、インカムにつけているスピーカーからフリーマンの耳へと直接聞こえる。
『了解した。こちらももう1人を確保する』
「了解です」
通話を切り、壁に手をつけたEに向けて、告げた。
「さてと……。あなたには色々とお話を伺わないといけませんね」
― 同刻 シュゼット国立中央図書館通路 ―
Aは別館との入口に繋がる連絡通路をサイレンサーとライトを持ち、構えながら歩いていく。
既に、館内の雰囲気が怪しい事を察知していた。
ゆっくりと歩き、自分の身に何か起きない様に用心して歩く。館内のドアが見え、電子ロックが閉まっているかどうかを確認。電子ロックはしっかりと閉められている。
Aはトランシーバーを取り、Jに連絡した。
「ああ、俺だ。俺達が入ってきたところ以外は電子ロックされてるな。どうする?」
『入ったところから移動するしかないな』
「ああ、そうだな」
トランシーバー越しからJの声が聞こえる。
『分かった。エレベーター前で集合しろ』
「了解」
Aはトランシーバーを片付け、エレベーターへと向かってゆっくり歩いていく。
「おい、お前ここで何をしているんだ?」
後ろから聞こえる声に彼は反応し、拳銃を構えた。
声の正体はレノール。
「誰だ!?」
警部はゆっくりとAの視界から顔がしっかりと写る様に、近づいていく。
Aの問いかけに、レノールはバッジを彼に見せながら答えた。
「シュゼット警察捜査一課のモーリス・レノールだ。君の装いからして強盗団の1人か。残念だが、それまでだ。君を刑務所に送る事になる」
Aは自分の持っている拳銃の引き金を警部に向けて引く。消音器によって小さな炸裂音を作り、弾丸がレノールに襲いかかってくる。
しかし、警部はAの放つ弾丸を予測し、本棚の壁を弾除けにした。マガジンに装填された弾を使い切れるまで、Aは引き金を引いた。
「おいおい、公務執行妨害に器物損壊、殺人未遂か!」
Aの位置を確認し、警部は回り込む。暗闇の中、Aは懐中電灯で辺りに照明を与えて、実像を確認していく。
レノールの姿はない。
「どこだ? 出てきやがれっ!」
懐中電灯によってAの位置を理解し、近くの本棚から1冊、厚みのある辞書をレノールは取る。
《シュゼット六法辞書》
ゆっくりと彼の後ろから近づいていく。
「どこにいる!?」
「俺はここだよ」
レノールは六法辞書を武器に、Aへ襲い掛かる。
Aはすかさず拳銃で反撃しようとするが、レノールが辞書を鈍器の様に振り回し、拳銃が辞書に当たり、その勢いで床に落ち、警部の足で拳銃を蹴り、Aから拳銃を遠ざけた。
「うおっ!?」
そのままレノールは、辞書の角をAの頭に2発。今までの警察訓練で鍛えあげた強靭な力がAに対して、より負荷を掛けていき、上頭部に激痛が走った。警部は、続けて辞書を相手の腹に1発、押し込み、次に辞書側面を使ったビンタをAに提供する。
法律関係の分厚い辞書カバーはとても硬く強い。Aは朦朧となりかけながら反撃をかけてこようとするが勢いがない。
その状況を見たレノールは、止めの一発を繰り出す。勢いよく辞書を床に落とし、Aの腕を掴む。掴まれた彼は、もはや反撃のしようがない状態。
Aに対してレノールは一本背負いの体勢に入り、力強く技を掛けた。技をかけられた彼の体が、宙に浮き、2秒も経たないうちに、床に叩きつけられた。
「法が強い理由が分かっただろ!」
レノールはため息をついて、体中の心労を砕きながら、手錠をポケットから取り出して、倒れているAの左手に掛けた。
第17話です。 最終話まで近づいてまいりました。話は続きます。




