十六話:初依頼、vsスライム
スライム。
その名を聞いて、多くの人は竜退治の某国民的RPGに出てくる水色の奴を思い浮かべ、「なんだ、楽勝じゃん」と言う事が多い。
だがアセモスのスライムは一味も二味も違う。
高い魔法耐性を持ち。
打撃攻撃はダメージ半減。
斬撃武器で攻撃すればそこそこのダメージを与えられるがHPが最大HPの半分以上残っていると分裂する。お前はプラナリアかって言いたい。
そして生命力がかなり強いとされ、最大HPはうんざりするほど多い。
幸い動きは速くないし、魔法は使えない。更に攻撃力も高くないからこいつ相手に死ぬことは滅多に無い。まあ大量発生すると終わるが。
見た目は緑色の、ドロドロしたゲル状の液体。その体を触手のように伸ばしてきて、かなりキモい。
その見た目と倒すのにかなり時間がかかる事から非常に嫌われていたモンスターだ。エイミィが嫌がるのも分かる。だが
「でも報酬良いし、スライムは面倒だけど動き遅くて攻撃食らわないだろうからおいしい依頼だと思うよ」
「……まあそうね。じゃ、これで良いかしら。ロナルドとノーヴェはどう思う?」
エイミィは俺の意見を聞いて一瞬驚いたような顔をした後少し考えて賛同し、二人の意見を求めた。
……なんか俺変な事言ったかなぁ?
「問題無い」
「アタシも」
皆賛成という事でエイミィが依頼を受ける申請をすべく受付に向かう。ちなみに何故最年少のエイミィが仕切っているかというと、ノーヴェさんはどこか抜けており、ロナルドさんは何故かフードを被って「俺は目立つと面倒だから」と言ってエイミィをパーティーのリーダーに据えたからだ。
でもロナルドさんはエイミィとノーヴェさんという綺麗な二人と一緒に居る上にフードを被っているのが怪しくて逆に目立っているけどね。
「そう言えば奇行種ってどうゆう事なの?」
受付で依頼を受ける事を受理された後、エイミィが受付のお姉さんに聞いた。
情報は多い方が良いし、俺達は耳を傾ける。
「凄く大きいです。普通のスライムが全長五十センチメートル程なのに対しこの奇行種は二メートル近くあるとの事です。それと……」
お姉さんはエイミィとノーヴェさんを見て、顔を赤くし気まずそうにいいよどむ。
「それと、何?」
「えっと、この奇行種はその……可愛い女の子や綺麗な女の人が好きなようで……よくイタズラをする事があると」
その言い方に、明言はして無いがおそらくエロ方面のイタズラをするのだと悟る。エイミィ達も気づいたのか顔をひきつらせていた。
まあ、あれだ。二人ともドンマイです。俺とロナルドさんは大丈夫だろうけどエイミィとノーヴェさんは狙われそうだね。
「……依頼の破棄は出来……無いよね。はあ、嫌だなぁ」
「違約金を払えば破棄出来ますよ」
「それはいいよ。もったいないし、ほっとくと被害が出そうだし、報酬が良いのも確かだから」
エイミィは額を右手で覆いため息をつく。
とりあえずスライム退治に行く事に変わりは無いようだ。
◇
準備を終え、スライム奇行種の目撃情報のある街から二時間程歩いた所にある池のほとりについた。池の水は濁っているのか微妙に緑色をしている。
隊列は前衛ロナルドさんとエイミィ、中衛にノーヴェさん、後衛に俺。役割分担としてはエイミィがスライムの気を引き、ロナルドさんが剣で攻撃、ノーヴェさんは弓と槍を使い分け、俺は魔法を使う。
魔法や弓は余り効果は無いが前衛が多すぎても邪魔になるし微妙でも無いよりはましとのことでこの配置になった。
「で、ついた訳だけど……いないわね」
エイミィの言うとおり、スライムは見当たらない。二メートル近くある奴なのだから目立つし、見落としている事は無いだろう。
しばらく池の周囲を探すが、いっこうに見つからない。
「どうする?ここらにはいないっぽいし、別の所を探しに行く?」
「いや、俺はこの辺りにいる気がする。微かにだが気配を感じる」
「こういう時のロナルドの勘はバカに出来ないからねぇ。もう少しここで粘ってみる?」
「……後少しで居場所が分かりそうなんだが」
三人が話し合っている間、俺は疲れたので大きめの石に池を背にして座り、いざスライムと戦闘になった時に備えどう戦うか考える。
ゲームではスライムは魔法に強かったけど強いて言えば炎系と純粋なエネルギー系が効いたハズ。といっても基本剣で戦ってたしうろ覚えだけど。
「この辺りにいるとしてどこに隠れている?二メートル近い大きさではそうそう隠れる所など無いと思うが……。体の液体を溶かして小さくなっているのか?まて、体が液体ということは……。ッ!ルーク!早く池から離れろ!」
「え?」
ぶつぶつと考え込んでいたロナルドさんが何か思い付いたのか俺の方を向き大声をあげる。
だがいささか遅すぎた。
俺の後ろ、池の水の中から緑色のヌメヌメしたゲル状の細長い触手のようなモノが伸びてきて、俺の体にまとわりついてくる。
「ひゃあ!」
その触手は腕と足を縛ってき、鎧の隙間から侵入して胸の辺りをまさぐったり太ももの上を這ったりしてきた。
「く、くすぐった……あ、ひゃん!助け、てぇ」
腕を抑えられているから腰のレイピアが取れず、更に魔法を使おうとしたがくすぐったいうえに込み上げてくる妙にむず痒い感覚のせいで集中出来ず魔法のイメージが固められないため使えない。あわてて助けを求める。
それに対する皆の反応は、
「こいつが奇行種?可愛い娘にイタズラするって本当だったんだ……。でもいくら中性的で可愛い顔してるとはいえ一応女の私より男の子のルークを狙うってなんかイラッとするなぁ。あんな事はされたくないけど」
「………………」
「お前ら、見てないでいい加減助けないか?」
上からノーヴェさん、エイミィ、ロナルドさんの反応。
ロナルドさん正しい。ノーヴェさん、そんなこと言ってないで、エイミィもジーっと観察してないで助けてよっ!
「じゃ、行きますか……っと」
エイミィがそう呟くのと同時にその姿がブレ、気づけば俺の目の前にいた。
そしてまとわりついている触手を二本の剣で切り落とす。おかげで俺は自由になり、思わず力が抜け地面にペタンと座り込んだ。
なおもスライムは俺に触手を伸ばそうとしてくるがエイミィとロナルドさんに片っ端から切られていく。更にノーヴェさんが的確に特製の矢を当てる。……あれ普通の矢の三倍近く重いのによく引けるよなぁ。矢に合わせて弓もかなり力が無いとピクリともしないし。俺はブーストいれても数センチ引くので精一杯だった。そんな代物を自らの体の力だけで操っているんだもんなぁ。本当に凄い。
「いい加減諦めなさいよっ!」
「ルークばっかり狙うって、そんなにアタシ魅力ないかねぇ」
だがそんな妨害はなんのその、スライムはエイミィとロナルドさんに体を切られていくのも刺さる矢も気にせず突っ込んでくる。本当に凄まじい生命力だ。
俺を再び弄ぼうとする触手を見てさっきの屈辱を思い出す。それは俺の頭を沸騰させるのに十分な刺激だった。
「こんのくそスライムが……ゲルの分際でこの体さわってんじゃねえぞ……」
ぼそりと呟いた俺の言葉は戦闘の音に紛れ誰にも聞かれる事は無かったが、呟きと同時に俺の周囲に放出された殺気と魔力に俺の魔法を直に見たことのあるノーヴェさんが振り返り、冷や汗を垂らす。
「あー、ルーク。やりすぎないようにね」
「大丈夫ですノーヴェさん。ただこのスライムを消し去るだけですから」
俺がキレてるのを察してかノーヴェさんは止めようとした。だけど俺はにっこりと顔だけは笑ってその忠告を無視する。今やこの変態スライムをぶちのめす事しか考えられなかった。
「破壊と再生、現世の理を砕きさり、新たなる理を造り出す終末の神撃」
俺の使える最強の、なおかつ純エネルギー属性である以前ギフトバイパーを葬り去った魔法。
呪文はより厨二っぽいものがより効果が大きい傾向があるからひたすらイタイ単語を紡ぐ。後で黒歴史となって見悶えるかもしれないが今はより効果を上げる事だけを考える。
呪文を唱える事で必要な魔力が減り、余った分を威力を増すのに利用。魔法耐性の高いスライムを倒すために少しでも威力は上げたい。
どんどん増えていく魔力にロナルドさんとエイミィはスライムから少し距離を取る。別に引っ付いていても当てない自信はあるけど……より遠慮なく叩きこめるからありがたい。
変態スライムも流石に俺の魔力に恐れをなしたのか逃げようとする。しかしノーヴェさんが背中に掛けていた槍を投げ刺し地面に結いつけ逃げられなくした。
その時間を利用して呪文の詠唱を続ける。最後の一言を言えば魔法が発動されるというところでスライムが槍の刺さった所から二匹に分裂し逃げ出すが、もう遅い。
人の柔肌を無理矢理触った報いをうけろ!
「神々の黄昏!」
余りの魔力量に逆に一瞬静寂が辺りを支配する。だが直ぐ様凄まじい音が鳴り響き、寸分違わずスライムに当てられたラグナロクがその体を霧散させる。
そしてスライムがいた辺りの景色が歪み、大きな地震が起こった。
地震が収まった後、皆が俺の周りに集まってくる。
「ルークあんたやり過ぎ。消し去っちゃ討伐証明出来ないじゃないか」
「というかスライムを魔法で消し飛ばすって……あの魔力量といい規格外すぎよね」
「魔力震が起こるってここ数十年で一度もなかったぞ。それが人が起こしたとなると……面倒な事になったな」
「隠蔽が大変だねぇ」
後で街に戻って聞いたところ、魔力震とは狭い範囲に大量の魔力が一気に注ぎ込まれる事で起こる滅多に無い現象らしい。稀に起こっても周囲を小さく揺らす程度のようで、あんなに大きな地震が起こるのは前代未聞だと言っていた。更にハルメラも揺れていたらしく大変な騒ぎになっていた。
そして大量の魔力を浴びた事で魔力酔いし、具合が悪くなった人が大量発生したらしい。運悪くあの池の近くにいたため気絶した冒険者もいたとの事だ。
……ちょっとやり過ぎちゃいました。てへっ!




