第98話 何事も思い通りには行かない様です
いよいよ王妃様御一行ロザミア滞在最終日。
私は普段より少し早めの6時半に起床。
廊下を歩き、階段を降り、洗面所で顔を洗って歯を磨き、キッチンで朝食を作り終え…
どぉおおおおおおおんっ!!!!
魔法で全員のベッドを10cm程持ち上げて落とす。
バタバタバタバタバタッ!!!!
「今のはっ!? 今のは何ですのっ!?」
「何だよ今のはっ!? 何が起こったんだっ!?」
「この世の終わりっ!? 死なないけど死にたくないぃいいいいいいいいっ!!!!」
全員、口々に叫びながら降りてくる。
「はい♪ 皆さん、おはようございます♪ 朝食の用意は出来てますので、お好きな席に座って食べて下さいね♡」
勿論、全員からハリセン・チョップを食らいました。
寝坊しない様に起こしてあげたのに…
解せぬ…
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テーマパーク開園直前。
王妃様御一行は、すぐ近くのカフェでお茶を楽しんでいる。
当然、ミラーナさんも一緒だ。
ミリアさんとモーリィさんも同席している。
そして私は…
起こし方が悪かった罰として、開園前の列に1人で並ばされている…
誰が起こしてやったと思ってんだよ!
どちくしょう!
言えんけど!
なんだかんだで王妃様御一行は開園と同時にテーマパークへ突入。
最終日って事で最初から全力の様子。
王族としての威厳も何もあったモンぢゃねぇな…
こっちは保護者の気分だよ…
普段と様子が違うのはフェルナンド様。
最終日だからか、私から離れようとしない。
キャサリン様やロザンヌ様が私と一緒に楽しもうとしても、頑として譲らない。
曰く『姉上達は毎晩お風呂でエリカお姉ちゃんを独占しているではありませんか!』だそうだ。
そう、私は毎晩お風呂で2人の王女様に身体を洗いまくられてるのだ。
何が楽しいんだよ、クソッタレ!
…とにかく、それを言われては何も言い返せない2人の王女様。
渋々といった感じでフェルナンド様に私の独占を許している。
私の意志は完全に無視されてるんだけどね…
まぁ、最終日だし時間も限定されてるって事で、私自身も私に甘えるフェルナンド様に付き合っているんだけど…
「エリカお姉ちゃん♡ ハイ、あ~ん♡」
ぱくっ♪
「美味しい? じゃ、僕も♡」
「ハイ、フェルナンド殿下♡ あ~ん♡」
ぱくっ♪
「うん、美味しいね♡」
…と、まるで恋人同士みたいな事をさせられている。
全身がムズ痒いわっ!
言えんけど!
そんな私達をジト目で見ている御一行。
ミラーナさん達3人は見て見ぬフリ。
それとは逆に、平民のフリをしている護衛の人達は、フェルナンド様が心から楽しんでいる様子を見て微笑んでいる。
その気持ちは解らんでもない。
王宮に居る時は次期国王として窮屈な生活を強いられてるだろうし、心から何かを楽しむなんて出来ないだろうからなぁ…
まぁ、だから私もフェルナンド様の我が儘(?)に付き合ってるんだけどね。
そして、楽しい時間というのはアッと言う間に過ぎ去るのが世の常。
テーマパークを… ロザミアを去る予定の16時になった。
ここはフェルナンド様も理解しているのだろう。
文句の一つも言わずにテーマパークを出る。
そして、黙って街の外に待たせている馬車まで歩く。
その表情は、馬車に近付くにつれて暗くなっていく。
…仕方無いな、少し元気付けてやるか。
「フェルナンド殿下… よく我が儘も言わず、予定に従ってくれましたね。私、感心しました。少しずつですが、確実に大人になってますね。私、嬉しいです♪」
「うん… 少しでもエリカお姉ちゃんに成長してるトコを見て貰いたかったから… でも、どうしても我慢出来なかったから、最後は独占させて貰ったけどね。それぐらいは許してくれると思ったし… でも、次に会った時には、もっと大人になってる僕を見て貰うよ♪」
うんうん、楽しみにしてるよ♪
よし、ちょっと趣味じゃないけど、最後にプレゼントしてやるか♪
「楽しみにしてますね♪ じゃ、これは成長したフェルナンド殿下への私からのプレゼントです♡」
言いつつ私はフェルナンド様をギュッと抱き締め…
ちゅぅううううううううううっ!
思いっ切りキスをぶちかました。
男を感じさせるならキスなんかしないけど、7歳の中性的な今なら問題無しって事で♡
それに、この健気さ、可愛らしさに男も女も関係無いわいっ♡
その様子を見て、文字通り目を丸くする王妃様御一行。
アゴが外れてるんじゃないかと思う程、口を開けて固まるミラーナさん達3人。
護衛の人達はサッと背を向けて見ないフリ。
そして当事者のフェルナンド様は…
真っ赤になって倒れたのだった。
その後、王妃様御一行は馬車でロザミアを去って行き、手を振るミラーナさん達の足元にはハリセンで叩きのめされた私が転がっていた…
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「ここがミラーナ王女の治めているロザミアと言う街か…」
「噂とは全く違うな。さすがに〝ハンターの街〟と言われるだけあって殺伐とした雰囲気は感じられるが、危険を感じる程ではないな」
バーグマン公爵とシュルンマック侯爵が話すのは、中央広場に向かう道中。
宿に家族を残し、2人だけである。
危険を感じなくても、見知らぬ家族連れが絡まれない保証は無い。
だが、自分達2人だけなら何とかなるだろうとの判断だった。
2人は知らなかったが、ロザミアにテーマパークと観光ホテルが出来た事で多くの観光客が訪れる様になり、無用な喧嘩をする者は減っていた。
その為、殺伐とした雰囲気は残っているものの、何となく安心感のある街になっている。
「ところでハロルド、ミラーナ王女の領主邸の場所は判ってるのか?」
「それが… 中央広場に在るとの情報なんだが、それらしい建物が無いんだ…」
「はぁっ!? ど… どういう事だ!?」
当然の反応だろう。
だが、それが事実だった。
「俺がイルモア王国に亡命を決めたのは、他国に比べて情報を多く知っていたからだ。だからロザミアの情報も多少は知っている。もっとも、最新の情報ではなくミラーナ王女が領主になった頃のだが… あれから2~3年だったかな? そりゃあ、それだけ経てば変化するだろうさ」
それもそうだ。
そもそも国交の無い国の最新の情報が簡単に手に入るワケがない。
バーグマン公爵は納得したが、焦りは隠せない。
「なら、どうする!? 街の住民に聞いても領主の居場所… それもイルモア王国第1王女の居場所を簡単には教えてくれないだろう!?」
「そう焦るな、ブルーノ。確かに俺が持ってる情報は2~3年ぐらい前のモノだ。だがな、その情報ではミラーナ王女はハンターになってるらしいんだ。なら、ギルドに行けば何らかの情報は得られるんじゃないか?」
バーグマン公爵はハッとした。
ハンターになったのが事実なら、ギルドに確認するのが一番確実だろう。
「よし! ギルドへ行こう! 何処だ!? 何処に在る!?」
シュルンマック侯爵は目の前に在る建物を指差し…
「ここだよ…」
目を点にするバーグマン公爵だった。
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「ミラーナさんの居場所… ですか? 理由を聞いても宜しいですか?」
訝しげな顔をするギルドマスターのマーク。
違う意味で、バーグマン公爵とシュルンマック侯爵も訝しげな顔をしている。
マークは見掛けない人物がミラーナを探している事に対して。
バーグマン公爵とシュルンマック侯爵は平民が王女を〝さん〟呼びしている事に対して。
微妙な空気を破ったのはミラーナ本人だった。
「誰か、アタシを呼んだかい?」
久し振りにギルドで夕食を食べようと、たまたま寄った事に依る偶然の出会い(?)だった。




