第90話 王妃様御一行の受け入れ体制は想定外です!
秋である。
少し前までの、ちょっとした事でイラッとする暑さはマシになり、時折吹く風が涼しく感じる。
だが、私の住むロザミアは熱気に包まれている。
ようやく王妃様御一行の受け入れ体制に目処が立ち、ミラーナさんが王都に準備完了の手紙を早馬で送ったのが8月末。
王都では日程を決める為の会議が行われ、最終的な決定事項がミラーナさんの元に届いたのが9月15日の今日。
ほぼ同時に御一行は王都を出発し、ロザミア到着は10月5日頃を予定しているとの事。
その他は追って知らせるらしい。
すぐにギルドへ伝えに行くと、マークさんがハンターパーティーのリーダー達を集めて怒鳴っていた。
「いいか手前等ぁっ! あと半月もしたら王妃陛下や王子殿下、王女殿下達がロザミアに来られる! 普段通りにハンターとして活動するのは構わないが、無礼な行動は慎む事を厳命するぞ! 良いな!」
気合い、入り過ぎだろ…
そんなに気負わなくても、あの一家なら大丈夫だと思うんだけどな。
粗暴な雰囲気を嫌がるどころか、むしろ楽しみそうな気がする…
「…おっ? エリカちゃん、どうしたんだい? もしかして、日程が決まったのかい?」
私に気付いたマークさん。
ニコニコしながら近付いて来るが、目が笑ってないし笑顔が引きつってる様な…
「はい、ついさっき連絡が来ました。ロザミア到着は10月5日頃の予定だそうです。滞在期間は未定で、まだ王宮で会議が続いてるそうです。決まり次第、早馬で知らせるみたいですね」
「そ… そうか… 乗り合い馬車を乗り継ぐワケじゃないからな。20日後に到着予定か… それにしても、滞在期間も決めずに出発するとは…」
それは私も気になってた。
普通、全日程を決めてから出発するのが慣例なんだろうけどなぁ…
「ちょっと、エリカちゃん! 手紙、全部読まずに何やってんの!?」
「まだ続きがあったのよ!」
勢い良く扉を開けて、ミリアさんとモーリィさんがギルドに入って来る。
へっ?
まだ続きがあったの?
「なんだ、エリカちゃんも慌ててるんじゃないか。人の事、言えないなぁw」
「あ… あはは…」
きっと私の顔は、赤い遮光器土偶みたいになってんだろうな…
「で、ミリアにモーリィ。続きは何が書いてあったんだ?」
「それは私に任せて貰いましょうか!」
モーリィさんはズイッと一歩前に進み出ると、コホンッと咳払いをして説明を始める。
「なかなか滞在期間が決まらない事にイライラし始める王女殿下達。王妃陛下に『なんとかして欲しい』と頼みます。『私に任せなさい』と立ち上がる王妃陛下! 『おぉ~っほっほっほっ! 何をそんなに揉めてらっしゃるのかしら!? そんなに揉める事でもありませんでしょ…』」
すぱぁああああああんっ!!!!
べしゃっ!
大上段から振り下ろされた私のハリセン・チョップを食らい、床に倒れ伏すモーリィさん。
「…王妃陛下はそんなキャラじゃないですけど?」
「なんか、スイマセン… 注目を集めて調子に乗り過ぎてました…」
床に倒れたままで謝罪するモーリィさん。
「まったく… 続きはミリアさん、お願いします。王妃陛下のセリフからで良いですから」
「は~い♪ 王妃陛下は『うふふふ♪ そんなに揉めなくても宜しいでしょう? 私達は、とりあえず出発致します。滞在期間は決まり次第ロザミアに知らせて下さいな?』と、仰ったとの事です。更に『知らせが私達の馬車を追い抜いても構いません。ミラーナ(さん)の元に届いてさえいれば、私達も知る事が出来ますからね♪ こんな事で出発が遅くなれば、全てに影響を及ぼす事になって、出発から滞在期間からにゃきゃらにゃにみゃべ(ガリッ)』」
………………………
口を押さえて踞るミリアさん。
惜しい…
慣れない長台詞で舌を噛んだな?
「まぁ、状況は解りました。なかなか会議で滞在期間が決まらない事に対し、イライラした王女殿下達が王妃陛下に助けを求め、強引に出発したって事ですね? 身分が高い人って、ちょっと出掛けるだけでも大変なんですねぇ…」
懸命に説明した2人の努力(?)を無にする様な私の簡潔な説明を聞き、恨みがましい視線を向けるミリアさんとモーリィさん。
知らんがな。
勝手に盛り上げようとしたのはアンタ達で、私はそれを纏めただけだろうが。
「とにかく、王妃陛下御一行がロザミアに来られるまで20日程度しか無いって事だ。到着予定が早まる事を考えれば、今月中には受け入れ体制を調える必要があるな… おいっ、お前等! 俺は先日の会議に出席した連中との打ち合わせに行く! 後の事は任せたぞ!」
ギルド職員に声を掛け、マークさんは出掛けて行った。
私は特に何かする必要もないし、治療院に戻って仕事するか。
私は床に倒れたままのモーリィさんと、口を押さえて踞るミリアさんを放置して治療院に戻ったのだった。
後で散々文句を言われたけど…
だから知らんっちゅ~に…
───────────────
「エリカちゃん、来たよ~♡」
「エリカちゃん、久し振りって程じゃないけど久し振り~♡」
「エリカお姉ちゃん、それが仕事着? ドレスも可愛かったけど、仕事着も可愛い♡」
「あら~、素敵な仕事場ねぇ♪ ここでエリカちゃんが大勢の患者さんを治してるのね?」
何故か治療院を訪れる王妃様御一行。
ちょっと待てコラ。
王都を出発したのは9月15日頃だろ。
まだ10日──今日は9月25日──しか経ってないぞ?
何故こんなに早く到着してんだよ?
ミラーナさんも目を丸くしているぞ?
ミリアさんとモーリィさんは固まってるし…
「頑張りましたわ♪ いえ、頑張ったのは私達ではありませんけど♪ 王都での会議次第では滞在期間が短くなる可能性もありましたから、少しでも長く滞在出来る様にと到着を早めましたのよ♪」
10日も予定を縮めるなんて、どんなトリックを使ったんだよ…
と思ったら、意外に単純な方法だった。
聞けば馬車に魔法医を同乗させ、馬車を牽く馬や御者が疲れたら回復魔法を掛けさせて強行したそうだ。
治療院の休日が〝5の付く日〟だという事も調べさせたらしく、9月15日に出発して25日の朝に到着する様、それなりの能力を持つ魔法医に同行を要請──と言うか強制──したらしい。
凄え執念(?)を感じるんですけど…
まぁ、気の所為だよね?
誰か気の所為だって言って下さい…
「は… 母上! 何故治療院に? か… 観光ホテルへは行かれたのですか!?」
気を取り直したミラーナさんが王妃様に詰め寄る。
「当然、行きましたわよ? 行かなくてはキャンセル出来ないでしょう?」
は?
キャンセル?
「私達、最初からエリカちゃんの治療院に泊めて貰おうと思ってたんですのよ? なのに、勝手に観光ホテルへ宿泊する事にされて困ってましたの。だから最初に観光ホテルへ行って、キャンセルを伝えてから治療院に来たんですのよ?」
あの…
話が見えないんですけど…
「そろそろ王都では滞在期間の結論が出た頃でしょうけど、いくら会議で滞在期間を決めても私達が従うかどうかは私達次第ですから… 会議での決定事項なんて、有って無い様なモノですわね♪」
それって………
最初から計画してやがったな?
王妃様御一行が、私の治療院に宿泊するってか?
誰も想像すらしてないだろうが!
警備体制はどうなるんだ!?
宿泊をキャンセルされたホテルの立場は!?
どうするんだよ、これぇえええええええええええええっ!!!!




