【第三部】第40話.復活
銃声はぱたりと途切れた。耳鳴りだけが残り、港に満ちていた怒号と悲鳴が波にさらわれるように遠ざかっていく。残されたのは、炎が木を舐める音と、崩れた建物が軋む低い唸りだった。
穂高はもう一度、周囲を確認した。動く影はない、誰ぞが撃ち返してくる気配もない。敵は完全に引いた、少なくともこの港からは。遅れて、日本兵が散発的に姿を現し始めた。肩を押さえた者、仲間を背負った者。負傷している者も少なからずいる。
「負傷者を集めろ!」
「動ける者は火を消せ!」
声が飛び交う。砂塵が薄れると、少しずつ現実が戻ってきた。港の一角では、倒れたクレーンが黒煙を吐き続けていた。巨大な鉄の骨格が地面に横たわる様は、まるで倒れた獣の死骸のようだ。
「この後。どう動くのか……」
誰に言うでもなく低く呟いた。今日の襲撃は、港を奪うものではない。ただいたずらに混乱を広げただけだ。見せつけるための攻撃。我々に目を向けさせて、何を企んでいる。
「いずれにせよだ。ここまでやってくれたと言うことは、ただでは済まないな」
若い兵隊が一人、彼のもとに駆け寄ってきた。
「大尉!」
「うん」
「港の外縁からも、敵は完全に撤退した模様です」
「そうか」
穂高は短く頷いた。
「この場は制圧したな。だが、警戒は解くな。今日は長くなるぞ」
その言葉に、兵たちの動きがわずかに引き締まった。明継やトリィを含む負傷者を運んだあと、彼らは瓦礫の影や隙間も一つ一つ確認していく。敵は撤収したものの、勝利とも敗北とも言えない、重い空気が流れる。
「大尉、こちらへ」
呼ばれて足を向けると、そこには倒れた敵の遺体が三つ、並べられていた。上下とも黒い服装、装備は軽く、徽章もない。顔立ちはルシヤ人のように思えるが、なんとも言い難い。
「やはり、正体は隠したままか」
穂高はしゃがみ込み、男の手を取る。そこには厚いタコができており、銃を日常的に扱っていたのだろうと予想できる。だが軍靴ではないし、彼ら三名の装備も揃っていない。わざと揃えていないのだろう。
「おい、あの大尉って……あの穂高大尉か?」
「日露戦争の英雄の、行方不明だって話だったが」
「……」
穂高は近くにいた兵を呼び、声の方に視線を向けた。
「説明しておいてくれ」
「はっ!」
一つ息を吐いて、穂高は立ち上がった。港を見回すと、火は次第に抑えられて、煙も細くなり始めている。だが散々暴れてくれたおかげで、壊されたものも多い。クレーンや倉庫の一部、復旧にはしばらくかかりそうだ。




