【第三部】第36話.銃声
パァン!
乾いた音が港に響いた。前を走っていたトリィが立ち止まる。明継が肩で息をしながら、彼女の顔を見た。
「銃声……今」
「はぁ、はぁ。確かに、俺も聞こえた」
その音は近くではないようだったが、不穏な空気が更に濃くなった。何かが起こっている。もはや、ただの巡検などではない。
「とにかく離れないと……!」
明継が先に細い角を曲がった。その先には、かろうじて人が一人通れる程の隙間があり、壊れた柵の向こう側に道が繋がっていた。柵の隙間を無理矢理広げて、這い出るように通り抜けた。その瞬間。
「動くなッ!」
声と同時に、明継は地面に引き倒された。頬が小石にぶつかって、擦りむいたところから血が滲んだ。
「……あっ!?」
「日本人の子供か?何者だ、こんなところで何をしているか!」
返事を返す間もなく、兵隊が明継の背中に膝を押し当てて、地面に更に押し付けた。同時に近くにいたトリィは、もう一人別の兵隊に腕を掴まれて引き離される。トリィは咄嗟に腕を振り解こうとするが、その手を捻りあげられる。
「抵抗するな、子供相手に手荒な事はしたくない」
「ぐっ……」
「どこの家のものだ。言え、戸籍がないものは一度勾留する決まりである」
地面に倒れたまま、明継が叫んだ。
「まって!彼女は関係ない、俺が説明する!」
「説明なら後で聞いてやる、大人しくしていろ」
明継を地面に押しつけたまま、兵隊は言った。その手から逃れようと身をよじる。その時、別の兵隊が駆け寄ってきた。
「まて、そいつ……おい!拳銃を持っているぞ!」
地面で暴れたために、明継の胸元がはだけて中からウナから預かった拳銃の一部が覗いていたのだ。
「違うっ……これは!」
弁明する間もなく、兵隊によって素早く拳銃は取り上げられた。明継が動こうとすると、トリィが叫んだ。
「待って!明継、抵抗しないで!」
「……でも」
「今はだめ!今は彼らに従って」
兵隊達が集まってくる。周囲を囲み、ざわついた空気が一気に濃くなる。トリィは抵抗の意思がない事を伝える。拾い上げた拳銃を見ながら、一人の年長の兵隊が言った。
「この銃、古い回転式だな。国内のものか、どこから手に入れたんだ。横流しでもしたものがいるのか……」
パァン!パァン!!
その時、またも銃声が響いた。




