表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元自衛官が明治時代に遡行転生!なんか歴史が違うんですけど!?〜皇国陸軍戦記〜  作者: ELS
【第二部】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

269/279

【第三部】第32話.沈黙

数日が過ぎても、港は沈黙したままだった。海を覆う重たい雲は、まるでこの地を覆う不安そのもののようだ。


その日、二人が隠れる小屋にアナスタシアがコートをなびかせながらやってきた。


「まだ動かないってさ」

「そう、なんですか……」


二人の情報源はこのアナスタシアだけだ。このような状況であっても、彼女は毎日一度は必ず顔を見せている。もちろん、食事や生活に必要なものを運んできてくれるという面もあるが、こうやって話しているだけでも彼らにはありがたいものがあった。


ため息混じりの声。彼女はぶっきらぼうな調子ではあったが、顔には心なしか疲れの色も見え始めていた。


「あいもかわらず、黒船さんは沖合に浮かんでるよ。港の連中も、もう半ば諦めてやがる」


アナスタシアは腰を下ろすと、煙草に火をつけた。


「それに南の方からは、日本の兵隊が自治区の方へ送られてきているらしいね」


二人が驚いた顔をすると、アナスタシアは苦笑しながら続けた。


「首長は未だ行方不明、それで日本側とも連携は取れないし、ルシヤと交渉も満足にできない。引き揚げの話も宙ぶらりん。役所の窓口には毎日叫んでるやつが出るくらい混乱してるって話だ」


彼女の話に、小屋の中の空気はさらに重くなる。ストーブの火だけが、パチパチと乾いた音を立てた。


「ウナさん……」


トリィが祈るように呟いた。


「まぁ何にせよ、日本軍が入ってきてるのに自治区は対応できない。そんな状態じゃあ対話も保護も何もないね」


アナスタシアは煙を吐き出しながら言う。淡い紫煙がうっすらと小屋の天井を漂って消えた。


「一番困るのが、普通の住人さ。漁師もそうだけど、何か事情があって自治区で暮らしてるルシヤ人や日本人。引き揚げしたくても申請もできないってね。そりゃ暴れるやつも出てくるさ」


明継は聞きながら、ぎゅっと手を握りしめた。アナスタシアは二人の様子を見ながら、表情を少しだけ和らげた。


「とにかく、だ。港は死んで、役所は死んで、そんな状況ってことを理解しておくんだね」

「はい……」


アナスタシアは立ち上がり、帰り支度を始める。


「言っておくけどね、みんな自分のことで手一杯だ。助けてくれる誰か、を当てにしない方がいい。いざとなったら、自分達が生き残る事を考えて動きな」


小屋の外から、冷たい風が入り込む。彼女は扉を半分開けたまま振り返らずに言った。


「いいね。こんな状況だ、自分の頭で考えて、生き延びるんだよ」


そう言い残して、アナスタシアは風の中へ消えていった。残された小屋には、薪の弾ける音だけが取り残されていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ