表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元自衛官が明治時代に遡行転生!なんか歴史が違うんですけど!?〜皇国陸軍戦記〜  作者: ELS
【第二部】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

267/279

【第三部】第30話.動キ出ス

翌朝、雨はようやく上がっていた。しかし、まだ空はどんよりと厚い雲に覆われて、地面には昨夜の名残りか水溜りが点在していた。


明継は、濡れた土の匂いを感じながら外に立って背伸びをする。トリィは中で火を起こしているところだ。薪に火が移って、パチっと乾いた音が聞こえる。その時、ぬかるんだ地面を踏む足音が近づいてきた。


「おい」

「は、はい」


アナスタシアだった。咥えていたタバコを水溜りに捨てると、「ちょっと来い」と言って小屋の中へ入って行った。慌てて明継が後を追う。小屋に入ると、ストーブの火でほのかに室内は温まっていた。トリィがアナスタシアの顔を見る。


「ラジオで言ってた。ルシヤが日本に、全ての露人を引き揚げさせろと要求だとさ」


聞けばラジオで「ルシヤ政府、日本に通告。ホッカイドウ在住の露人(ルジン)を保護目的で帰還措置」ということが流れてきたらしい。


「保護?」

「はっ、まぁ使われそうな手だよ。ホッカイドウに居住する我が国民が、日本で強制的に日本語教育を受けている。これは文化的抹消である。ってね」


雑居地からルシヤ人の引き揚げはあった。ただ全てのルシヤ人がそうなった訳ではなく、この地に残る者もいた。アナスタシアもその一人だ。


「それって、どうなるんだ?」


明継が言った。


「どうもならねえよ。全ての露人(ルジン)が引き揚げるなんてできる訳がない。ここで何十年って住んでるやつもいるし、家族が日本人だってやつも珍しくねえ」

「じゃあ、どうして……」


トリィが薪をくべながら小さく問うた。アナスタシアは少し溜めた後で言った。


「戦争の口実だろ」


二人が息をのむ。


露人(ルジン)が虐げられてるって形を作っときゃ、向こうは好きに騒げる。軍を動かしたって、理由ができる。そんだけの話さ」


そう言いながら、アナスタシアは湿った赤毛を乱暴にかき上げた。


「そんなデタラメが」

「デタラメでもなんでも良いのさ」


アナスタシアは肩をすくめて、冷たい声で続ける。


「保護なんて、便利な言葉だよ。連れ戻す気なんて始めからないだろうさ、言ってみりゃ……。私らみたいなものを理由に利用してるだけさ」


ストーブの火が弾ける音がやけに大きく響いた。外の雲はまだ重く、低い。湿った空気の中に冷たい緊張が漂っていた。


「戦争なんかになったら、俺たち、ここ出れるのかな」


明継が小さく言った。


「さあなぁ。向こうさん次第だな、港も海も。急に封鎖されるかもしれないし、船だってどうなるか」


トリィが薪をくべる手を止めて、顔を上げた。


「もう計画通りにはいかないってこと?」

「そうだな。全部水の泡になるかもしれないし、そうでもないかもしれない」


アナスタシアは声を低くして続けた。


「いつ動けるかはわからん、向こうがその気になりゃ明日にも海は閉まる。でもやれることはやってやるさ。あんた達も覚悟はしときな」

「わかった」


二人は頷いた。小屋の中には緊張と、覚悟がゆっくりと広がりつつあった。アナスタシアは立ち上がって、曇った窓の方を見る。


「やれる時にやるしかねえな」


窓の外には灰色の空と海。不確かな未来。小屋の中のわずかな火だけが、外の世界の不安から守るように揺れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ