理解者
リリアのしんみりとした雰囲気を感じ取ったアーティ。
ノールなんかを親に持ったのがお前の運の尽きだったなと、優しげな言葉の一つでもかけようとした時。
「あっ、うわっ」
なにかに、アーティは気づく。
「じゃあ、オレはそろそろ……」
咥え煙草のまま、この場を離れようとする。
「リリアさん、探しましたよ」
丁度そこに、とある人物がやってきた。
若干ノールに似ているが、品位ある立ち居振る舞いができる教養ある女性。
白を基調とした貴婦人らしい格好をしたR・クァールだった。
「同志の賛同者から、リリアさんが今しがたR・ノールコロシアムにいらっしゃるとの報告がございまして、急遽馳せ参じました」
優しそうな綺麗な笑みを、クァールは表情に浮かべる。
以前のような、あまり興味のなさそうに見える反応がない。
「R・クァールさんも私になにか御用が?」
「うわぁ……マジかよ」
リリアはクァールに対して特に嫌な感情がない。
その逆、アーティはもうこの場から立ち去りたい。
参ったなこりゃ、といった感じで顔に手を置く。
「私は貴方の気高さ、聡明さには以前から気づいておりました」
そっと、クァールは近寄り、リリアの手を優しく握る。
「………?」
自らをしっかりと認めるような素振りから逆にリリアは不審がる。
クァールがここまで意識を変えた理由は、ただ一つ。
同族のR一族、R・リリアだと判明したからである。
根拠は一切ないが、間違いなくR・ノールの娘だろうとクァールは見ている。
R・シスイもそうだが、魔力体は通常の人類とは異なる方法で個体数を増やせる。
それについてを、クァールは認識していた。
「ところで……アーティさん。貴方には言いたいことが山程あります」
リリアから視線をアーティに変え、クァールは語る。
「あん? ならとりあえず金出せ、聞いてやるから。オレの時間はタダじゃねえ」
「なんと浅ましい。愚かにも程があります」
「あれ、それだけでいいの? あとで請求書送るわ」
「なんなのですか貴方は……」
流石のクァールも頭を抱える。
「おう、リリア。お前は人の下につけるタイプの女じゃねえ。それを忘れるんじゃねえぞ」
最後に言いたいことを言えたアーティ。
桜沢グループに所属したのは悪手だと暗に伝えている。
「あー、くっちゃべっていたらなんか飲みたくなったわ。おう、コーヒーか? コーヒーで良いな?」
アーティは爽やかな笑みを見せ、颯爽と立ち去る。
「コーヒーだなんて……私はあの苦い飲みものが苦手です」
「それならば心配ありませんよ?」
「なぜですか?」
「あの方がああ言って離れた時、戻ってきた試しがありません」
「それは一体……」
あたかも奢るような素振りを見せながら、結局は買わずに戻っても来ないという意味不明さ。
リリアには理解できなかった。
「それよりも、リリアさん。貴方にお話があります」
「私は試合で疲弊しています、もう帰りたい気持ちが強いです」
「手短に話しますので」
「そうですか」
「今回貴方に話しておきたかったことは、二つ。一つは貴方の世界について。もう一つはジスさんの今後についてです」
「私の世界とは? それと、ジスですか?」
「リリアさんの暮らす世界は、R・クァール・コミューン内に存在します。ただ、貴方がR・リリアだと分かってしまえば根本から話が変わります。貴方の暮らす世界は、貴方が統治する世界。つまりは、R・リリア・コミューンとなります」
「………」
話している内容は、なんとなく分かる。
分かるには分かるが、理解はしたくない。
自分には統治など到底不可能。
自らの父親であるエアルドフ国王を差し置いて、次期国王として王国を納めようなどと考えていた頃のリリアはもういない。
「できない、とは言わせません」
そういう認識になっているだろうと、クァールは見抜いている。
「貴方がR一族であり、なおかつ凄まじい能力を有している時点で。もし、できないのであるならば私と貴方の共同運営としましょう。なにごとも少しずつで良いのです、私とともに世界運営を勉強しましょう」
「ちょっと待ってください。そんなに簡単に決められてしまいましても……」
「貴方は今、時間が惜しいのでは? 急いても仕方ありませんので、この話は今後また煮詰めていきましょう」
「えっ、ええ」
流石に展開が早過ぎて、リリアは少し混乱してきた。
「それと、ジスさんについてです。魔界には今後変革が訪れるでしょう。次回会う際はジスさんともお会いしたい、よろしいですね?」
「次回ですか……?」
「勿論、急なお願いですから無理に時間を作って頂く必要はありません。リリアさんのお暇な時で構いませんよ」
クァールは空間転移を発動させ、手元に一枚の名刺を出現させる。
「ジスさんとも予定が合いましたら、この番号に連絡を頂けると助かります」
「分かりまし……」
「もしも本日より一週間が過ぎましたら、私の方からご挨拶にお伺いしますのでよろしくお願いしますね」
リリアが言い終わる前に、普通にクァールは期限を設けた。
「では、リリアさん。今後また」
軽く頬笑みかけてから、クァールは去っていった。
「なんとなく……分かった気がします」
少し話をしただけで、クァールが若干避けられている理由が分かった気がした。
対“被害者”以外の時。
クァールは自分の世界でモノを語ることが多い。
これはR一族特有の“らしさ”でもある。
自分は気をつけよう。
そう、リリアは思うのだった。
「………」
とりあえずさっさと帰ろうと、リリアは思う。
一度、リリアは少し離れた位置にある受付の方を見る。
リリアが受付内にいた頃のごった返しとは異なり、受付対応をしたい人がカウンタ―前に二人だけいた。
その二人をガン無視し、クレイシアが受付から身を乗り出しながらリリアを眺めている。
リリアと目が合ったクレイシアはわずかに頬笑み、そっと手を振る。
どうやらリリアと話をしたがっていた者たちとは全員会えたらしい。
軽く礼をし、リリアは空間転移を発動した。
目的地はエアルドフ王国の自室。




