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一族の楔  作者: AGEHA
第三章 人対魔力体
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本音

「クレイシアさんは凄いよね。じゃあ、リリアちゃん次は僕の話を聞いて……」


先程から普通にスルーされていたシスイ。


若干、強引な流れでリリアの手を掴む。


「さっきからなんなのですか? 貴方は失礼な方ですね」


イラっとした感じで、シスイの手を振り払う。


「リリア、シスイ君の話を聞いてあげて」


ほのかに頬笑み、クレイシアは語る。


「その人、R・ノールコロシアムの支配人だし」


「それなら仕方がありませんね……」


意外にもリリアは納得する。


リリアはクレイシアを信頼していた。


「リリアちゃん、僕は以前も自己紹介した通り、R・シスイだよ」


「とうに存じておりますが?」


「リリアちゃんは僕の妹に値する存在なんだ」


「意味が分かりません」


「僕の母親は、R・ノールだ。君も母親が同じなんだろう? 今の君の魔力なら、それが分かる」


「それがなにか?」


「それがって……」


シスイがリリアを身内だと見抜いた通り。


今のリリアもシスイの魔力の根源が、R・ノールのものだと分かる。


確かにノールが母親である以上、シスイはリリアの兄。


そんなことなど、リリアは最初から興味がなかった。


なによりも最初の出会いで、シスイが冷たかったのも気に入らない。


そのおかげか、リリアはシスイが嫌い。


「受付の対応に興味があるみたいだね」


少し動揺したが、シスイは話題を変える。


「受付の対応は、コロシアム運営の一つでもあるの。リリアちゃんは僕たちの家族だ、僕と一緒にR・ノールコロシアムを経営しようよ」


「………」


興味がないわけではないが、全く取り合わない。


「だったら、この世界について興味はない?」


「……この世界とは?」


どういう話の振り方だ?とリリアは思う。


「分からないの、ここだよ」


自然な感じで、シスイは床の方を指差す。


床の方へ視線を移すが、リリアには意味が分からない。


「以前、リリアちゃんにも教えたはずだよ。この高層マンションを管理しているのは僕と母さんなんだ」


これでも、リリアには意味が分からない。


高層マンション=世界のような言い草。


「まさかそんな非科学的な……」


そう口にした瞬間、リリアの中で合点が行った。


自らの存在そのものが、ノールの創り上げた世界の外殻なのだから。


魔力邂逅となった者は、その桁外れの魔力量から人知を超え、世界をも創り上げられる。


つまりそれは、ワールドクリエイターである。


「なぜ、この高層マンションに入るための玄関がないのか、考えたことがなかったかい?」


「あります……」


「R・ノールコロシアムの隣にある高層マンションだとは説明しているけど、実際は違うの。向こうは普通に玄関があるからね」


シスイはリビングの窓側を指差す。


「このマンションから見える景色に疑問はない?」


「疑問?」


じっと、リリアは窓の外を眺める。


遥か遠くの彼方まで見える程の高い位置に、この部屋があるのが分かる。


「実はね、どの部屋も共通にこの同じ眺めなんだよ」


ここで、リリアは理解した。


あの高層マンションは実際に玄関がなかった。


空間転移のみが、マンション室内に入る手段。


それは、ここが実際に世界の一つだからだ。


高層マンションなどではなく、同じ方向に向けられた部屋がいくつも横並びに存在する世界。


それがこの世界の事実。


「通常なら、こうして世界を創り上げられる事実を教えたりしない。でも、今なら分かる。リリアちゃんの中に、あるんだろう? 母さんが創り上げた世界が。そして、そこに母さんがいるんだろう?」


「ええ、その通りです」


「リリアちゃん、どうかその場所に連れて行ってほしい」


「それなら……私の身体にふれて、空間転移をすればいいと思います」


リリア自身がそもそもの根源であるため、実際に行き来できるかは知らない。


「きっとそれで上手くいくよ」


リリアの肩に、シスイは手を置く。


「同じ魔力が引き継がれているんだ。きっと、母さんのもとへ空間転移できる」


次の瞬間。


一瞬で、シスイの姿はリリアの前から消えた。


「あっ」


リリアは周囲を見渡す。


「無事にシスイは、ノールの世界に行けたようね」


「そうなのですか……」


「戻ってくるまで、私と受付をしない?」


「それも良いかもしれませんね」


二人はR・ノールコロシアムの受付へと戻る。


臨時で対応をしていた係員と交代し、再びクレイシア主体で受付業務が行われた。


クレイシアの隣には当たり前のように、コロシアムランキング7位のリリアが受付にいる。


リリア見たさに受付前には人だかりができた。


「私が殿堂入りして、受付の業務を始めた時もこんな感じだったの」


クレイシアは懐かしそうに語る。


「流行り廃りとは、よく言ったもの。私が元々ランキング6位だと話す人はもう誰もいない」


あまり感情が窺え知れないクレイシアにも、少しだけ寂しさが窺えた。


「いずれ、リリアも普通の人になるわ」


「私はその方が良いですね」


「ああ、そういえば貴方は桜沢グループ入りしたみたいね。そこなら人気は衰えないかも」


「そうでした、私には今やりたいことがありますので」


「あそこは止めておいた方が。魔力体は誰もあそこには所属していないの」


「なぜ、それが分かるのですか?」


「桜沢グループの発想の根源が狂っているから、かな? あれを見れば、魔力体は誰もが馬鹿馬鹿しくなって辞める」


「それはどういう……」


「リリアも桜沢グループのおかしさを体験してみれば良いんじゃないのかな」


「確かにそうですね」


「ああ、来た来た。あの人」


クレイシアはコロシアムのエントランスを指差す。


数人の柄の悪そうな若い男性たちを伴って歩いている黒の上下スウェット姿の男性。


茶髪で温和そうな顔つき、緋色の瞳をした聖帝会№2のアーティだった。


今日も変わらず、ポケットに手を突っ込み、肩で風を切る歩き方をしていた。


「あの人がリリアに会いたかった人」


「あの方は……」


リリアはアーティに見覚えがあった。


以前、リバースへの加入時にノールの黒塗りの屋敷を訪ねた際。


リバースの拠点となるノールの自室にその日に訪れたメンバーの中にアーティがいた。


あの日と同じ、くたびれた黒の上下スウェット姿で。


「あの方は他に着る衣装がないのでしょうか? あれでは、みすぼらしく感じます」


「衣装は意外とあるみたい。聖帝会の祭典の時や、様々な式典に呼ばれた際は豪華絢爛な衣装やドレスコードに則った服装をしている」


自然とした感じで、クレイシアは語る。


「詳しいのですね」


「自分を偽っているから。演技派で面白いわ、あの子」


クレイシアは受付カウンター傍にいる、リリア見たさに集まった観客たちを無視してとある方向を指差す。


「あの方向の隅に、ベンチの並ぶ休憩場がある。そこに座り、待っていなさい。向こうは貴方を認識している」


「しかし、この状況では……」


クレイシアの指差す方向へリリアは視線を移す。


普通に受付カウンター傍には観客たちがごった返しているので、その向こう側になにがあるのか全く見えない。


観客たちは、ふいにリリアが視線を向けたことで嬉しそうにしているが、手を伸ばしたり触れようとはしない。


例え近くに来れても、それ以上は細心の注意を払わなくてはならない恐るべき相手だとの認識が広がっている。


「ベンチに座っているなど、この人だかりでは」


「私のように自らを魔力のオーラで包み込むと良いわ。一定のランクの者たち以外に気づかれにくくなる。例えば、ここに来れる者は実際に受付での対応を欲している者たちとかね」


「あれ、つまりは……」


なんとなく、リリアは思う。


そういうことをしているから、元コロシアムランキング6位であるクレイシアが観客たちに認識してもらえないのではと。


「そのような方法があるのでしたら、人の多いコロシアム内では便利そうですね。ありがとう、クレイシア」


「礼なんて良いの、同じ師を持つリリアを私は信頼しているから」


「もしよろしければ、たまにはクレイシアもオーラを抑えてみませんか? では、クレイシア。また来るわ」


言われた通りに、自らの魔力のオーラをリリアは身にまとっていく。


この時点でリリアを認識できるのは、一定のレベルの能力者のみ。


「あれ、リリア?」


カウンター傍にいた観客たちは周囲を見渡す。


まだ、リリアは受付の椅子に座っているのにその場にはもういないとでも言える反応。


「なるほど、このような魔力操作もできるのですね……」


感心しつつ、リリアはカウンターを飛び越え、観客たちのいない場所に着地。


クレイシアが指差した方向へ向かっていく。


「………」


その様子が、クレイシアにはとても新鮮に映った。


静かに魔力のオーラを抑えていく。


「あれ、クレイシアだ!」


すぐに、カウンター越しにいた観客がクレイシアに気づく。


「今までどこにいたんだ!」


クレイシアがランキング戦から引退してから、すでに数年が経過している。


それからはR・ノールコロシアムに仇名す輩を打ち倒す時にだけ認識できるようにしていたせいか、長い間気づけなかった。


過去も現在も自分には変わらぬ人気がある。


これさえ分かれば、クレイシアはもう良かった。


これが嫌だったから、魔力のオーラで自らを認識させないようにしたのだから。


「また会えるわ」


綺麗な笑顔を見せ、一言だけクレイシアは語る。


その後、他の観客たちにはクレイシアが次第に認識できなくなった。


目の前にいるのに、受付の椅子に腰かける女性はクレイシアだと思われない。

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