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にんにく令嬢と王子様

短いです。

本編の後、仲良しの二人です。

 顔半分を覆うマスクをつけたリージアは、朝から一言も声を発せずにメモ帳を使った筆談で意思を伝えていた。


 昼食に食堂へ行こうと誘う友人達に、食欲が無いからみんなで行ってとメモ帳に書き、心配する友人達を笑顔で見送る。

 話せないことがこれほど大変だなんてと、リージアは周囲の様子を確認してから空き教室へと入った。

 マスクを外し、ポケットに入れていたビスケットを一口齧り、水筒のお茶で流し込む。

 本音は友人達と食堂へ行きたかった。行きたかったけれど、行けない。


(あと少し、あと少ししたら放課後よ。早く帰ってお兄様に薬を貰わなきゃ! ユーリウス様には申し訳ないけれど、会うのは明日の朝にしてもらおう)


 ビスケットを全て食べ終えたリージアは、持っていたメモ帳にユーリウスへの伝言を書く。


(風邪をひいてしまい、喉の痛みと声がれで声が出ません。ユーリウス様にうつしたくはないので、今日は会えません。……よしっ!)


 伝言を書いた紙を護衛からユーリウスに渡して貰おうと、リージアは消臭機能付きの特性マスクを装備して部屋の外へ向った。




 ✱✱✱




「リージア。風邪をひいて声が出ないと聞いた。その、大丈夫か?」


 放課後、一人になったタイミングで教室へやって来たユーリウスと距離をとり、マスクを片手で押さえたリージアはコクリと頷く。


「風邪は誰かにうつせば早く治ると聞いた。早く治るように、俺にうつせばいい」


 真剣な顔で大真面目に言うユーリウスは、ジャケットを脱ぎシャツの第一釦を外して腕まくりをする。


(ええ? まさか、ユーリウス様は腕の中へ飛びこんでこいと、言いたいの? 風邪をひいたから会えないって伝言したのに)


 広げたユーリウスの腕の中へ飛びこまず、マスクを押さえたリージアは後退っていく。


「治るまで触れられないのなら、俺に風邪をうつせ」


 とんっ、背中に机が当たりこれ以上は後退出来なくなり、リージアは両手を前に突き出した。


「まって、ち、違います! 風邪じゃなくて、そのっ」


 登校してから初めて発した声は掠れていて、マスクの下の素肌に熱がこもっていく。


「昨夜、実家から大量の香辛料とニンニクが送られてきまして、お兄様とニンニク料理を食べたら、食べ過ぎてしまって……その、口臭が」


 言葉を切ったリージアは続きを言えず、視線を教室中に彷徨わせた。


「ニンニク?」

「口の臭いが、凄いことになって、だから、マスクをして誤魔化していたのです」


 マスクをしていた理由が、ニンニク臭を誤魔化すためだなんて。

 告白し終わったリージアは、羞恥のあまり耳まで真っ赤に染めた。


「俺はニンニク臭なんか気にしない」

「でもっ」


 机に阻まれて逃げ場のないリージアの肩に腕を回し、ユーリウスは涙目になる彼女と密着して臭いを嗅いでみる。

 化粧の匂いや香水のきつい匂いに比べ、ニンニクの臭いなど大したことは無かった。


「俺はニンニク臭より、リージアに避けられる方がキツイ。ニンニクでも好きだよ」


 口を開きかけたリージアの言葉ごと塞ぐように、ユーリウスは彼女の唇に口付けを落とした。


「はっ、ユーリ……」

「送られてきたニンニクはまだ残っているのか?」

「え、ええ。まだいっぱいあります」


 何故か、今年はニンニクが豊作だったらしい。大量に送られてきたニンニクは、昨夜の夕飯だけでは消費できなかった。


「では、この後食べに行ってもいいか?」

「え?」


 ニンニクを食べたいということかと、リージアは目を瞬かせた。


「リージアと一緒にニンニク臭くなれば、臭いなど気にならないだろ。明日は学園も休みだしな」


 爽やかな王子様の笑顔を向けられて、リージアは頷きかけて慌てて首を横に振る。


「駄目! ニンニク臭いユーリウス様は駄目ですー!」


 本人はニンニク臭が良くても、ニンニク臭い王子様の側にいる者達は良くない。

 

 どうにか思い止まらせようとするリージアを見て、「可愛い」とユーリウスは彼女を抱き締めるのだった。


恋心はニンニクよりも強いのです!

時々、短い話を更新するかもしれません。

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