*ハッピーエンドを夢見たヒロインの結末
別視点、残酷描写を匂わせています。
国王と王妃の離婚成立が公表された頃、一台の馬車と数名の騎士達が人目につかないよう王宮の裏手から出て行った。
装飾の全くない馬車は、よく観察すれば鉄格子がはめられ鉄板で強化されている護送車だと分かる。護送車は薄暗く、クッションも無く冷たく硬い座席にメリル・ウルスラは座っていた。
硬い座面に長時間座るのは尻と腰を痛めるが、魔法で強化されたワゴン内の揺れはほとんど感じられない。罪人として護送されている状況でなくて、座面にクッションがあればなかなか快適な旅になったかもしれなかった。
メリルは太い鉄格子のはめられた小窓を睨み付ける。
「どうしてよ。私がヒロインなのに、どうして上手くいかないのよ」
前回は失敗して逃亡エンドとなったが、今度は立ち振る舞いに気を付けて慎重に好感度を上げていき、ユーリウスかイザークとのハッピーエンドを迎えるつもりだった。不安定で危険で贅沢が出来ない冒険者エンドではなく、ヒロインとして素敵な攻略対象キャラから求愛されるハッピーエンドを迎えるはずだったのに。
続編のシナリオが開始する前に動き、ルーファウスが開放した魔導具を使いシャルロットに成り代わり、イザベラの侍女候補となり留学生として学園へ戻ったのに。重く冷たい手枷をかけられて、罪人として再びオベリア王国へ戻るなんて。
手枷がはめられた手を動かして胸元の空洞を触れる。
魔道具の玉がはまっていた場所、胸骨に空いたこの穴は痛みも違和感も無い。魔道具は粉々に砕け散ったのに、何故か穴は埋まってくれなかった。
「リージア、何なのよあのモブは、何で魔法が解かれたのよ」
変身魔法だけじゃない、面会室に張り巡らしてあった強力な魔力抑制結界もリージアが入室してから溶けるように消えていた。魔術師が控えていたとはいえ、あれだけの結界はそう簡単には解除するのは難しいはずだ。
彼女は、異世界転生につきものの不思議な力を持って生まれたのか。その力でモブから成りあがったのか。不思議な力を得たのがヒロインでなくモブなのが悔しい。
器用に手を動かしてメリルは親指の爪を噛む。
悔しくても、今はこの状況から逃れることが最優先だ。抱えた両膝に顔を埋めたメリルは、必死に続編のシナリオを思い出す。
(そうよ。前回だってルーファウスが助けに来てくれたじゃない。今回だって、きっと回避する方法があるはずだわ。オーギュストが駆け付けて助けにきてくれるとか)
ガタンッ
突然、護送車が止まり。膝に顔を埋めていたメリルは顔を上げる。
瞳を輝かせたメリルは座席から立ち上がった。
(もうオベリアの首都へ着いたの? 早すぎじゃない? それとも誰かが私を助けに来てくれた!?)
外から鍵を開ける音が聞こえ、重々しい音とともにワゴンの扉が開かれる。
休日の度に、騎士団の訓練場へ顔を出し差し入れを渡し、デートするまで好感度を上げておいたオーギュストが迎えに来てくれた。そう思い込んでいたメリルは、扉の向こうにいた相手を確認して笑顔のまま固まった。
ワゴンの扉を開けたのは、顔を覆面で隠したいかにも怪しい男。
男はメリルへ手を伸ばして、硬直する彼女の腕を掴んだ。
「出ろ」
「痛っ! ちょっと何なの!」
抗議の声を無視して、男はメリルをワゴンの外へ引きずり出し、突き飛ばした。
「きゃっ」
無理やり外へ出されたメリルは、突き飛ばされた勢いで地面へ尻もちをつく。
突き飛ばした男が地面へ座り込むメリルの前へ立ち、音も無くワゴンの影から現れた覆面をかぶったもう一人の男が彼女の後ろへと回る。
いつの間にか、護送車の周りから警備の騎士達の姿は消えていた。
「国境を越えた。この地ではルブランの法は通用しない。此処ならばルブランの者達は手を出せまい」
「お前のような毒婦を我が国の首都には入れられない、そう判断された」
感情のこもらない淡々とした声で男は残酷な決定をメリルへ告げる。
「な、なにを、言っているのよ、ひっ!?」
無言のまま、男達は腰に挿した大ぶりのナイフを鞘から引き抜く。
鈍い光を放つナイフを目にしたメリルの喉から引きつった声が漏れた。
魔力を封じられた状態では戦うことも、立ち上がって逃げようにも尻もちをついたまま後退しようにも、前後を塞がれていては逃げられない。
「容疑者を送致していた馬車は、国境を越えて直ぐ野盗に襲われたのだ。そのように処理される」
裁判を待たず殺害をすることも、野盗に襲われたと処理するのは誰なのか。全身を震わしてメリルは「嫌よ」と首を横に振った。
覆面の奥に見える男達の目は何の感情も浮かばず、躊躇無くナイフを振り上げる。
「私は、ヒロインなのよ! こんな、こんなエンディングは許されないのよぉ!!」
鬱蒼と茂る森の中でメリルの絶叫が響き渡り、驚いた無数の鳥達が飛び立っていった。
***
椅子に座って妹からの手紙を読んでいたイザークは、顔を上げて視線を部屋の中央へ移した。
空気が揺れ、音も無く室内へ現れた男は床へ片膝をつき頭を垂れた。
「殿下、例の者の処理は終わりました」
「そうか」
フッと嗤い、イザークは手紙を机上へ置く。
「ユーリウスを篭絡してくれたならば生かしてやったが。役に立たず、害しかもたらさない性悪ヒロインなど不用だ」
膝をついた男が差し出した血まみれの手枷を見下ろし、イザークは冷笑を浮かべた。
こうしてメリルはバッドエンドを迎えました。
誤字脱字報告ありがとうございます。
あと少し、お付き合いください。




