32.モブ令嬢と王子様は初めて○○する
イチャイチャしてます。
元王妃を始めとした王妃宮に仕える多数の女官達は捕縛され、王宮内は一時騒然となる。だが、事前に知らされていた大臣達の冷静な対応により、直ぐに騒ぎは収束した。
国庫の横領、人身売買、違法薬物使用容疑で捕らえられた元王妃は、罪を侵した高位貴族や王族が幽閉される北の塔へ一時的に収監された。
彼女の実家も違法薬物入手に関与したとされ、今後何らかの処罰を受けることになるだろう。
シャルロットに成りすましていたメリルは、明朝にはオベリア王家所蔵の魔導具を盗み出し、王子を傷付けた罪で数日以内にオベリア王国へ送られることになる。
メリルに手を貸したルーファウスは、彼の様子から逃亡の恐れもなく両親の懇願により実家へと返されることとなった。
今後、ルーファウスの意識が戻り心身共に元の状態へ戻れるかは、王宮の魔術師達でも分からないという。
元王妃断罪後の流れは、国王とシュバルツによってあらかじめ準備されていたとはいえ、役目を終えたリージアが用意された部屋で呆然としているうちに時間は過ぎていった。
目的の部屋の前まで来ると、リージアは此処までワゴンを押してくれた使用人にお礼を伝えて深呼吸をした。
リージアへ一礼した護衛騎士が数回扉をノックし、部屋の中に控えていた侍従から主の入室許可が伝えられる。
「失礼します」
「リージア!?」
夕食を乗せたワゴンを押す使用人とともに入室したリージアに気付き、驚きのあまりユーリウスは掛け布団を蹴り飛ばしてベッドから飛び起きた。
ベッドから降りようとするユーリウスを止めて、ヘッドボードと背中の間にクッションを置いて凭れ掛からせる。
メイド用エプロンを着け、髪をピンで纏めたリージアを見てはユーリウスは目を輝かせた。
ベッドの側まで移動させたワゴンに乗せた皿の蓋を取れば、美味しそうな香りが部屋中へ広がる。
「食欲があまり無いと聞いたので、特別に作ってもらいました」
アナフィラキシーショック症状を起こしたユーリウスはまだ本調子ではなく、彼のために特別に夕食を用意してもらったのだ。
勿論、無理をしようとするユーリウスの看病を頼まれたのもあったのだが、彼の看病はリージアの意志でもあった。
「お粥です」
「ありがとう。あつっ」
ワゴンの天板には保温用の魔石が敷かれており、料理は作り立て同然の温度を保っていた。
勢いよくスプーンに口を付けてユーリウスは思った以上の熱さに呻く。
「ごめんなさい、熱かったですか?」
スプーンで一掬いしたお粥を、リージアはふぅふぅと息を吹きかけて冷ます。
息を吹きかけて冷ましたお粥を口元へ運ばれる度、ユーリウスは嬉しそうに口を開く。
つい数分前までは、部屋へ押し込められていることに対して苛立ち不機嫌の塊だった王子が嘘のように上機嫌になり、締まりのない顔でお粥を食べさせてもらっている姿は微笑ましく面白い。
なるべく見ないようにと、背を向けていた護衛はやり取りを見聞きして肩を震わす侍従に気付いて彼の襟首を掴む。
「ぐえっ?」
「見るんじゃない」
目を白黒させる侍従の襟首を掴み、喚く口を押えて半ば引き摺って部屋から出ていった。
少しだけ開いた扉の隙間から見えてしまった仲睦まじい二人の様子に、護衛騎士はゆるみそうになる頬に力を込め、何も見ていないと心の中で繰り返した。
お粥とスープを全て食べ終わったユーリウスは、ポットから白湯をカップへ注ぐリージアへ手を伸ばす。
「この後、歯磨きは手伝ってくれないのか?」
「えっ? 歯磨きはその、自分で磨いてください」
白湯を注いだカップをユーリウスへ手渡し、リージアは赤く染まった頬を隠す様に横を向いた。
「それにしても、リージアを見張り役で置いて行くとは」
ワゴンを部屋の隅へ動かそうとリージアが側を離れたタイミングで呟く。
侍医や長年仕えている侍従から安静指示を伝えるよりも効果があるとして、シュバルツがリージアにユーリウスの看病を依頼したのは訊かなくても推測できた。
叔父の思い通りになるのは気に喰わない。とはいえ、惚れた弱みというやつでリージアからの“お願い”にユーリウスは逆らえない。
リージアが悲しそうな顔を見る度、嬉しそうに笑う度、胸が締め付けられるように苦しくなる。
「退屈かもしれませんが、侍医から乱れた魔力回路を回復させるためにはあと一日安静にしていて欲しいと言われました。ユーリウス様、出来る限りお側にいますから無理はしないでくださいね」
手招きするユーリウスの側へ戻り、ベッドの横に置かれた椅子に座って彼の顔を見下ろしたリージアは「うっ」と言葉に詰まった。
「出来る限り、だけか? 今日はずっと一緒に居てくれないのか?」
上目遣いで自分を見詰めてくるユーリウスはまるで、目を潤ませる子犬のように見えてきてリージアはコクリと唾を飲み込んだ。
完璧王子様と子犬ではギャップが大き過ぎて胸が高鳴る。子犬なユーリウスに負けて、甘やかしてしまいそうになる心を奮い立たせる。
「う、その、今後のこともありますし、婚約者と言えど未婚の男女がずっと一緒は駄目です。その、お手伝いならします、けど」
理由を探しながら答えた言葉の最後の方は、消え入りそうな声になってしまった。
一月後には生徒会長として最後の仕事、生徒会役員選挙が控えている。
王家のスキャンダルは学園生活にあまり影響しないとはいえ、第一王子の公務には少なからず影響を与えるだろう。
生徒会も公務も表立って手伝えないリージアが出来ることといったら、元雑用係として行事と引継ぎ資料の整理をしておくこととユーリウスの体内からアレルゲンを除去しストレスを軽減することくらい。
隣室の机上には生徒会長と公務の書類が束になって置かれていた。
「今回ばかりは、国王と王妃の離婚を民たちは面白可笑しく騒ぎ立てるな。元々、華やかな行事以外は表に出て来ず贅沢三昧な王妃よりも、慈善活動や災害支援を国王代理として行っている叔母上の方が民からの人気は高いため、批判や離婚反対の声は出ないと思うが記者たちに追い回されるな。暫くは周囲が騒がしくて無理だろうが、落ち着いたら」
一旦言葉を切ったユーリウスは、リージアの手を右手で握り互いの指を絡ませて所謂恋人繋ぎをする。
「落ち着いたら?」
指を絡ませてくる彼の意図が分からず、リージアは首を傾げる。
「二人だけで、デートしよう」
「……はいっ」
目元を赤く染めたユーリウスの表情は真剣そのもので、嬉しさのあまりリージアは満面の笑みを浮かべた。
「はぁ」
「どうしました?」
繋いだ左手はそのままで、ユーリウスは赤く染まった顔を右手で覆い隠す。
「これはこれで、苦しいな。あぁ、早く卒業したい」
「えっ、苦しいのですか? 大変っ! もう喋らないで眠ってください」
苦し気に息を吐くユーリウスはやはり体調が悪いのかと、慌ててリージアは椅子から立ち上がった。
捲れた掛け布団の端を持ち、ユーリウスの肩へ手を置き勢いよく彼の上半身を押し倒す。
「リージアッ!?」
仰向けで倒れる際、ユーリウスの手が咄嗟にリージアの二の腕を掴む。
バランスを崩したリージアは、よろめき「あっ」という声を上げて彼の上に倒れ込んでしまった。
「ご、ごめんなさいぃ」
鎖骨付近に強か打ちつけて痛む鼻を押さえ、体を起こそうとしたリージアの後頭部へ手が添えられる。
力強い手に抱き寄せられて、僅かに浮かした上半身は再び隙間なく密着してしまった。
ちゅっ
目を見開いたリージアの唇に、温かくて柔らかくて少しかさついたモノが触れ、次いで食んでいく。
驚きのあまりユーリウスの胸へ手をついて逃れようとするが、抱き締める腕の力は強まるばかり。
呼吸のタイミングが分からず、苦しくなってユーリウスの胸を数回押せばようやく腕の力は弱まった。
ぷはっと息を吐きながらリージアは顔を離す。
触れ合っていた唇はちゅっ、とリップ音を立てて離れていった。
息を荒げて上半身を起こしたリージアと首まで赤く染めたユーリウスの視線が合う。
ユーリウスの瞳に映り込むリージアの顔も茹でタコの様に真っ赤に染まっていた。
離れたはずの彼の唇の温もりと感触は、しっかりと残っていて思わず唇に触れる。
「リージア、好きだよ」
「私も、ユーリウス様が、好きです」
すんなりと“好き”という言葉が出て来て、好きだと言ったリージア自身も驚いた。
“好き”という感情は、甘い疼きとなってがリージアの全身にじんわりと広がっていく。
(キス、しちゃった。私、ユーリウス様のことが本当に好き、なんだ。どうしようもないくらい、好き)
「これで、ぐっすり眠れそうだ」
微笑んだユーリウスは、指を絡ませて繋いだままだったリージアの指先へ口付ける。
指の一本一本にユーリウスが口付ける度に、胸の奥がきゅうっと切なく甘く疼いていく。
「ユーリウス様が眠るまでお側にいます」
部屋の照明を落とし、頭を撫でているうちに規則正しい寝息が聞こえてくる。
ユーリウスが寝入った後も、指先と唇に残る甘い感触は暫くの間消えてくれず、彼からしてきた口付けを思い出してリージアは何度も身悶えることとなった。
タイトルの○○は、初めてのキス、でした(*´∀`*)
いつも誤字脱字報告ありがとうございます。
まであと数話、お付き合いくださいませ。




