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 モブ令嬢は“ヒロイン”を断罪する②

続きです。

 無効化スキルの力で魔導具が粉々になった際、メリルにかけられていた魔力封じの魔法と、部屋に張り巡らされている魔力封じの結界は無効化されていた。

 そのおかげで魔道具の在処が分かったのだ。


 メリルの体から立ち上る魔力を感じ取ったイザークは、傍らにいる暗部の青年へ目配せした。


「ユーリウスを害するつもりなんか無かったわ。私はただ、彼に運命の相手は誰なのかを思い出して欲しくて、キーアイテムの香水を使っただけよ。それなのに呼吸困難になって倒れるとか、こっちの方が驚いたわ。好感度が上がってやっとモブから取り戻せると思ったのに、殺害未遂の罪で拘束されて牢へ入れられるだなんて。私の正体を探るために優しくしていただけ? 何それ、はっ! ふざけてる。ヒロインは私なのに、好きにならないどころか、モブ役がヒロインに成り代わるだなんて許せないじゃない」

「モブ役……」


 この期に及んでもまだ自分を蔑み、ユーリウスが倒れたことに微塵も罪悪感を抱かない発言をするメリルに対して、冷静でいようと抑えていたリージアの頭の中が沸騰した。


「モブ役だから許せない? ヒロイン? そんな理由でこんなことを仕出かすなんて、馬鹿げてる。そんな理由で多くの人の未来を滅茶苦茶にして、ユーリウス様を危険な目に遭わせるだなんて許せない!」


 生徒会の雑用係となったリージアへ暴力を振るった男子生徒達は皆退学処分となり、優秀な魔術師と成ったであろうマルセルは魔力を封じられ領地で軟禁状態だという。

 メリルと共に逃亡したルーファウスは、魔導具に魔力と精気を吸い取られ廃人同然となった。

 シャルロットに成り代わり、学園へ留学したメリルに嫌がらせをした女子生徒達は、謹慎処分を言い渡された後自主退学した。

 彼女達は実家へ戻り、家の恥と言われ修道院へ入るか親子ほど年の離れた相手の後妻となったと聞いている。


 多くの生徒達の人生を狂わした、ヒロインの座とハッピーエンドに拘るメリルの空色の瞳は濁った色に染まり、狂気すら感じさせる。

 幸せを望むのは、皆から愛されるヒロインに憧れるのには理解できる。

 でも、前世の知識を悪用したことと、この世界に生きる者達を見下して踏みつける行為は許せない。


 きつく握り締めたリージアの手が怒りで震える。


「神殿の奥か修道院へ幽閉されるバッドエンドを免れた、逃亡エンドで満足していなさいよ。貴女のために全てを捨てて動いてくれたルーファウス様をあんな状態にまで追い込んで「ヒロインは私」ですって? いい加減、この世界はゲームではないことを理解しなさい!!」

「うるさいうるさいうるさいっウルサイ!!」


 髪を振り乱し叫んだメリルの両手に炎が出現し、拳大の火球となりリージア目掛けて放たれる。


 バシュッ!

 火球はイザークが張った防御壁に阻まれ、リージアへ届く前に霧散した。


「ゲームでなくとも、私がこの世界のヒロインなのよ! 何で、何で上手くいかないのよ!」

「ヒロインの役はもう終わっている。今のお前は罪人でしかない」

「違うっ! 続編はまだ終わってないわっ! これからやり直せばいいのよ!」


 メリルの右手の平に魔力が集中し、鋭い氷の刃を形成する。


「リージア、アンタがいるから。アンタのせい、アンタがこの世界から居なくなればいいのよっ!!」


 出現した無数の氷の飛礫がリージアとイザークへ襲いかかる。

 イザークが飛礫を叩き落としている隙に刃を手にしたメリルは床を蹴り、リージアへ向けて大きく右手を振り上げた。


 ザシュッ!

 目の前で飛び散った血飛沫がリージアのジャケットにかかる。


「なっ!?」

「イザーク様!」


 大きく目を見開いたリージアへ、イザークは「大丈夫だ」と笑みを返す。

 氷の刃が振り下ろされる直前、リージアの前へ出て庇ったイザークの左肩を刃が掠めたのだ。


「がっ」


 氷の刃を放り出し後退しようと一歩下がったメリルは、突然白目を剥き膝から崩れ落ちていき前のめりに倒れていった。

 倒れたメリルの後ろに立ち、片手で彼女を抱き止めた暗部の覆面をした青年は溜息を吐く。


「拘束を緩め、攻撃を避けないどころか受けに行くのは、少々やりすぎではないか?」

「ガルシア先生も俺が攻撃されるまで動かなかっただろう?」


 フッと笑った暗部の青年は、かぶっていた覆面を片手で掴み脱ぎ捨てた。


「ガルシア先生?」


 覆面を外した暗部の青年の素顔を見てリージアは目を丸くした。

 暗部の格好をしたガルシアは、片腕にメリルを抱いたまま器用に彼女の腕を紐で縛り上げて床へ転がした。

 着けていた手袋を外し、倒れるメリルの上へ放る。


 壁際と扉の外に控えて、成り行きを見守っていた暗部達が昏倒して床に倒れるメリルを担ぎ上げ、魔術師長が彼女の首へ魔封じの首輪をはめていく。

 イザークとリージアへ頭を下げた魔術師長を先頭にして、メリルを担いだ暗部達は部屋を出て行った。




 扉から見える廊下から暗部達の後ろ姿が見えなくなると、リージアはジャケットのポケットから取り出したハンカチをイザークへ手渡した。


「傷は痛みますか? 無理をしないでください」

「回復魔法はいい。傷があった方がこの後やりやすい。ありがとう」


 回復魔法をかけようとしたリージアをイザークはやんわりと止める。


「メリルさんはどうしてこんな真似をしたのかな。続編のヒロインに成り代わるとか、無茶苦茶じゃない」

「メリルが身に着けていた魔道具は装備者の魔力を増幅する。姿を変える魔法は争いの種となると考えられ、今は禁じられ抹消された魔法だ。変身魔法は続編のクリア後に取得可能となるんだよ。膨大な魔力が必要なため魔道具の補助が必要なんだ。変身魔法の呪文を知っていたのは、ゲーム内容を覚えていたんだろうな。変身魔法を使ってシャルロットに成ったのはいいが、魔道具の副作用に精神が侵された」


 言葉を切ったイザークは、床に散らばった玉の破片を靴底の先で踏みにじる。


「コレは長期間身に着けていると精神に干渉されて人格が崩壊する。ゲームをやり込んだなら分かっていたと思うが、ヒロインに成るためそれどころじゃなかったのか。取り調べをしても、頭のネジがトンでしまった彼奴の耳には届かないみたいだろう。いや、違うな。あの女のネジが飛んでいたのは元からか」

「あの女は、オベリア王国王子を傷付けた。オベリアの王族を傷付けた者は、オベリアの法で裁かれなければならない、と報告しておく」


 リージアの隣へ並んだガルシアは、メリルに傷付けられたイザークの傷口を一瞥する。


「まさか、そのために傷を……」


 受け取ったハンカチで腕に付いた血を拭っていたイザークは、近付いて来る複数人の足音に気付き扉と黙ったままのガルシアを交互に見て笑う。


「これで表立ってユーリウスを害するものは無くなったな。……ずっと気にしていただろう? ユーリウスが暗殺されるバッドエンドを」

「っ、気が付いていたの?」


 この世界はゲームとは違う。

 そう思おうとしていても、続編の内容を知らず先の展開が分からないため最悪の展開は有り得るのではという、不安を常に抱いていた。

 ユーリウスが王妃の手の者によって暗殺される可能性は消えない。

 シャルロットに奪われるよりも彼が害されることが怖くて堪らなかった。


「我が国では、王家管理の魔道具を盗むのも他者に成り代わるのも重罪だが、俺を傷付けた罪は極刑に値する。光属性持ちでもオベリア王国では関係なく処罰されるさ」


 緊張の糸が切れたように、リージアの全身から力が抜けて両足が震え足元がふらつく。

 よろめいたリージアの体が傾ぐ前に隣に立つガルシアが手を伸ばして支えた。


「大丈夫か?」


 先程よりは、若干やわらかい表情と声のガルシアから問われてリージアは頷く。


(幸せになりたくて足掻いたヒロインは、結局はバッドエンドを迎えるのね。自業自得とはいえ、もっと別の方法もあったのかもしれないのに)


 婚約破棄と、ユーリウスが暗殺されるバッドエンドも回避できた安堵感と共に、リージアの胸の中には何とも言えない虚しさも広がっていった。


ガルシア先生がメリルを抱き止めた時は手袋着けて、拘束し終わったら手袋を外したのは、オンオフ分けているから。

メリルのバッドエンドはこれから……です。


誤字脱字報告ありがとうございます。見落としが多くてすみません。

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