29.モブ令嬢は奇跡を目にする
リージア視点へ戻ります。
短いです。
握っていたユーリウスの浮腫んだ手が僅かに動いた気がして、リージアは閉じていた目蓋を開いて顔を上げた。
「え?」
目蓋を開いて直ぐ、異変に気が付いた。
淡い橙色の光がユーリウスの全身を包み込んでいたのだ。リージアが両手で握っていた手も淡い光に包まれていた。
魔法の気配は彼の呼吸維持の治癒魔法しか無かったはずなのに。
息をのんで見詰めていると、光は強くなっていく。
「待て」
部屋の隅で見守っていた騎士と暗部達が動こうとしたのを、シュバルツが片手を上げて制する。
橙色の光はユーリウスの手を握るリージアをも包みこむ。
一体何が起きているのかと、首を動かして周りを見渡したリージアは光源となっている物を発見し、目を見開いた。
光は意識の無いユーリウスの胸の上に置いた髪飾りから発せられていた。
正確には、無効化スキルを抑えるためにリージアが先程まで身に着けていた髪飾りにはまった魔石から、発せられていたのだ。
(そうか、この髪飾りは王家の秘宝を使った特別なものだから)
髪飾りをユーリウスから贈られた時の記憶を手繰り寄せる。
髪飾りをリージアへ手渡したユーリウスは、髪飾りの中央にはめこまれた石を人差し指で触れた。
『この髪飾りには、王家に伝わる守護の力がこもった魔石を使ったんだ』
『そんな大切な魔石を私に?』
『リージアは、大切、だから』
言葉尻は消え入りそうなくらいの小さい声になり、視線を逸らしたユーリウスの顔は耳まで赤く染まる。
王子様の恥じらう顔を見てしまったリージアも全身を真っ赤に染めたのだった。
「ユーリィ」
王族を守る守護の力が発動したのならば、奇跡を起こして欲しい。
瞳から溢れた涙が頬を伝いユーリウスの手の甲に落ちる。
「目を覚まして。お願い!」
叫びに近い懇願に呼応して魔石は光を増し、光の洪水となり部屋中に満ちる。
間近にいたリージアは、目を開けていられないほど強くなった光に耐え切れず、眉間に皺を寄せて目を細めた。
パリィーン……!
けたたましい音を響かせ魔石は粉々に砕け散り、ユーリウスの全身に降りかかった。
キィンという金属音が聞こえ、次いで室内を照らしていた室内灯が光を失う。
護衛やシュバルツも居るはずなのに、灯りが全て消えてしまった薄暗い室内は静まり返り、至近距離でシーツが擦れる音がしてリージアは全身を強張らせた。
「ユーリウス様?」
頬にあたたかいものが触れ、そっと包み込む。
「リージア」
ずっと聞きたかった声が聞こえ、新たに零れた涙で濡れた頬を自分よりも固い指先が撫でる。
「俺も好きだよ」
フッと、掠れた声で言うユーリウスが笑ったのが分かり、しゃくりあげたリージアは顔をくしゃくしゃに歪めた。
「ユーリウス様ぁ!」
「うっ」
ベッドへ倒れ込むようしてリージアが抱き着いた衝撃で、呻き声を上げたユーリウスはゲホゲホと咳き込んだ。
***
目覚めたユーリウスが侍医による診察を終えた頃、シュバルツが送った伝達魔法で事態を知らされたイザークが息を切らせてやって来た。
護衛騎士がベッドの側に椅子を置き、目覚めてからリージアの手を握って離さないユーリウスが椅子へ腰掛けるようにと促す。
「ユーリウス様は横になっていてください」
「大丈夫だ」
病み上がりのため無理はしないで欲しい、と言うリージアへ、ユーリウスは微笑むとヘッドボードを掴んで上半身を起こした。
まだ顔色が悪く体に力が入っていないのか、上半身を起こす動きでさえ大変そうで蕁麻疹の痕が薄っすら残る胸元がガウンの合わせから覗いているのに。
眉尻を下げたリージアは、手を伸ばしてヘッドボードとユーリウスの体の間にクッションを置く。
ベッドの側に置かれた椅子にシュバルツとイザークも座る。
これから深刻な話し合いが始まる雰囲気を感じ取ったリージアだが、席を外したいのに握った手を解放してくれないユーリウスのせいでこの場から離れたくとも離れられない。
繋がれた手と近すぎる距離によって居心地の悪さを味わっていた。
困惑の表情でいるリージアと目が合ったイザークは苦笑いを返す。
「自白魔法が効かない?」
倒れてからの出来事をシュバルツから説明されたユーリウスは眉を寄せた。
王国屈指の魔術師の自白魔法が一般学生に効かないなどあり得ない。
魔力無効化スキルを持つリージアなら兎も角、留学時の測定では魔力は平均値ほどだったシャルロットでは防げないはずだ。
「魔法耐性が強いのか別の要因があるのか、シャルロットに魔法をかけようとすると防がれてしまうのだ。一応まだ“第一王子に危害を加えた容疑”だからな。発言も妄想が混じったことばかりで、明日には薬師達が調合した薬を使った尋問へ切り替える。ただ逃げようと抵抗するため、多重結界と物理的な拘束で抑えている」
「成程。で、シャルロットと王妃と何らかの繋がりはあったのか? もしも、繋がりあったのならこの先ややこしくなる、だろ?」
挑発的なイザークの言い回しに、シュバルツのこめかみには青筋が浮かんだ。
王妃とシャルロットが繋がっており、ユーリウスを害するためイザベラに取り入り学園に留学したとしたら、イザベラもそうだがオベリア国王を欺いたことになる。
そうなれば国の信用問題へ発展し、誠意ある対応を求められてしまう。
シュバルツとイザークの間に見えない火花が散っているように感じ、リージアはなるべく横を見ないように俯く。
「シャルロットが王妃と繋がっている証言はまだ出てこないが、証拠などいくらでも造れる。今頃、王妃派の貴族への根回しを画策しているのだろう。王妃は笑いが止まらないだろうな。気が緩んでいる今こそ仕掛けやすい」
口角を上げたシュバルツから冷気が放たれているのか、室内の温度が、体感温度が下がった気がしてリージアは身を縮こませた。
ぎゅっ、繋いだままのユーリウスの手に力がこもる。
「王妃の対応は叔父上にお任せするとして、シャルロットについて確かめたいことがある」
横を向いたユーリウスはリージアと視線を合わせる。
「リージアも協力してくれるか?」
「は、はい。私が出来ることでしたら」
「ありがとう」
(あれ、どうしたんだろう?)
ずっと手を繋いでいたというのに、目を細めて笑うユーリウスと視線が合うと胸が高鳴って頬に熱が集中する。
見つめ合う二人へ冷めた視線を向けていたイザークは、顔にかかる髪を掻き上げ息を吐いた。
気が付いたら60話超えてました!
誤字脱字報告、感想をありがとうございます。
多忙時期に入り、不定期更新でごめんなさい。
次もなるべく早く更新出来るように頑張ります。




