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19.モブ令嬢はヒロインと出会う

 放課後になり、当番日誌を職員室にいる担任へ届けに行く途中、渡り廊下を教室棟へ向かって歩いて来るイザークに気付いたリージアは足を止めた。

 彼の後ろを歩くのは侍従の青年だけで、放課後はいつも一緒にいるイザベラの姿は無い。


「やあ、リージア」

「イザーク様こんにちは。イザベラ様はご一緒ではないのですか?」

「今日はイザベラ一人で打ち合わせに行くそうだ」

「そういえば……」


 一緒に店舗を訪れた時、イザベラはブルックスの時間に合わせて来店予約を入れていた気がする。


(お兄様大丈夫かしら。イザベラ様に失礼な事を言っていないかな)


 眠気が強い時のブルックスは思ったことを口にする悪い癖があり、イザベラの不興を買っていないかという不安が生じる。


「一人で行くと決めたのはイザベラだ。ブルックスに何を言われても大して気にしないだろう。それよりも話したいことがある。少し、いいか?」


 考える時間を与えず、流れる動作でリージアの手を取ったイザークは教室棟のホールへ移動する。

 ホールの端、窓から眼下に中庭の片隅が見下ろせる場所まで来ると、彼は握っていた手を離した。


「あの、イザーク様? 何故このような場所に?」

「別に取って食うような真似はしない。ヒロインの存在、彼女の行動による影響が学園内に出てきているようだと、リージアに知らせたくてね。今のところ、ほとんど関わりが無い三年生には影響はないようだが、下級生の女子達の間では揉め事が起きている。ほら、あれを見ろ」


 イザークが見下ろす先、眼下の中庭では三人の女子生徒に囲まれている長い栗色の髪の女子がいた。

 距離があるため女子生徒達の顔ははっきりとは見えないが、制服のリボンの色から彼女達は一年生だと分かる。


「あの女子が?」


 三人並んで立つ、真ん中の女子に詰め寄られている栗色の髪の女子が首を横に振り、背面しか見えなかった彼女の横顔が見える。大きな空色の瞳をした可愛らしい雰囲気を持つ女子生徒だった。


「ああ、彼女が続編のヒロインだよ」


 答えるイザークから軽薄そうな笑みは消え、彼は猫の様に目を細める。


「ヒロインが妬まれて、女子に囲まれるイベントが発生したようだな」


 漫画や小説ではよくある女子に囲まれるイベント。

 ヒロインが囲まれている理由は、三人組のリーダー格だと思われる真ん中の女子に恥をかかせた、または彼女の婚約者と親しくしたか。よくあるイベントとはいえ、実際に目の前でキャットファイトされては対応に困る。


「止めないの?」


 攻撃されるヒロインを助けるのは、彼女の攻略相手となる素敵な男子の役目だろう。それ以上に、いじめの傍観者となって何もしないのは心苦しい。

 腕組みをしたイザークは、器用に片眉を上げて首を横に振った。


「わざわざ面倒ごとに巻き込まれにいく必要は無い。ヒロインがピンチの時は自分で切り抜けるか助けが入る、そういうものだろう?」


 茶化している口調なのにイザークの声は底冷えする冷たさを含んでいた。チャラついた性格に見せかけて冷静沈着に物事を分析する、おそらくこれが彼の本質なのだ。

 寒気を感じたリージアは腕を伸ばして肩を抱えた。


(あれは……?)


 今にも飛び掛からんばかりの勢いだった三人組の女子の動きが止まり、ヒロインから飛び退くように距離を取り慌て出す。彼女達の視線の先には、走ってやって来る金髪の男子生徒がいた。男子生徒のネクタイの色から、彼も彼女達と同じ一年生だった。

 三人組の真ん中の女子が一歩前へ出て彼と話をし始めた。


「ほら、助けが入っただろう?」


 男子生徒と話をしている女子生徒が慌て出し、彼の腕に触れて縋りつく仕草をする。声が聞こえないため、推測となるが女子生徒はヒロインを取り囲んでいたことを必死で弁解をしているのだろう。


「あの男子はサザン侯爵家の次男だ。話しているのは婚約者の令嬢だな」

「もしかして彼も?」


 よく見れば、侯爵令息は緑がかった金髪と整った顔立ちをしており、攻略対象と言われても納得できる。婚約者の令嬢は、金髪の毛先を綺麗に巻いて髪には大きなリボンという、悪役の肩書きが似合いそうな雰囲気を持っていた。


「そう。幼いころから恵まれた魔力と剣技の才能の持ち主で、騎士を目指している将来有望な生徒だ」

「あの令嬢が彼のルートではヒロインのライバルとなるのね」


 顔を怒りと羞恥で真っ赤に染めた令嬢は、縦ロールの髪型と派手な外見と取り巻き令嬢を左右に配置しており、典型的な悪役令嬢のように見えた。


「ライバルというか、恋愛感情を燃え上がらせるための当て馬だな。続編の悪役令嬢は、全ルートで妹のイザベラになるのだから」


 笑みを消したイザークの声は低くなり、敵意すら感じさせる冷たい視線をヒロインへ向けていた。

 その表情で気が付いてしまった。


「イザベラ様を打ち合わせに一人で行かせたのは、もしかしてイベントに関わらせないようにするため?」


 一緒に店舗を訪れた時、ブルックスが関わるだろうイベントの発生に遭遇しなかったのは、イベントが起きるのを知っていたから。学園の昼休みや放課後、イザークがイザベラの傍に居たのも意図的なものだったのだ。


「さて、どうだろうな」


 至極愉しそうにイザークは口角を上げ、眼下で繰り広げられている揉め事の中心人物、ヒロインを指差した。


「彼女は、シャルロット・スラー。オベリア国の辺境地で生まれ育った。お忍びで辺境の町を訪れて人攫いに攫われかけたイザベラを助けたことがきっかけになり、侍女見習いとして留学してきたヒロインだよ」


 婚約者と対峙した侯爵令息に庇われ、胸元に手を当てて怯えた目を令嬢に向けているヒロイン、シャルロットは一見すれば気が強く身分を笠に着る高飛車な令嬢達に攻撃される可哀そうな女の子。だが、第三者の視線でやり取りを見ると、婚約者のいる貴族令息と仲良くなるのはこういう目に遭うリスクがあると彼女も考えるべきだった、と突っ込んでしまう。


「イザベラからの手紙で、ゲームのオープニングと同じ流れで現れたヒロインの存在を知った時は笑ってしまったな。俺だったら、いくら恩人でも平民出身の女を侍女見習いとして側に置き、一緒に留学しようとは思わない。父上もよくイザベラの我儘を許したものだ。これがシナリオの強制力なのか、とね」


 イザークの口から乾いた笑いが漏れる。


「強制力って、何か気になることでもあるの?」

「リージアがユーリウスの婚約者になっているからか、俺がイザベラの性格を矯正したからか、相違点というか違和感があるんだ」

「違和感って?」


 眉を吊り上げる侯爵令息と顔色を青くして震える令嬢を交互に見て、オロオロするヒロインに変わったところは見受けられない。何が気になるのだろうかとリージアは首を傾げた。


「フッ、教えない。ユーリウスと婚約を解消して、俺の妃になってくれるのなら教えるよ」

「なっ」


 斜め上の返答にリージアは絶句する。

 声を荒げそうになるのを抑え、深呼吸してから口を開いた。


「そんなこと、するわけないでしょうっ」

「ふっ、冗談だよ。ムキになる顔も可愛いな」


 本気にとってはいけないと分かっているのに、開いた口がふさがらなかった。

 此方の反応をみて挑発してくるイザークを睨んだところで、彼の後方に見えた人物の姿にリージアは「あ」と声を出してしまった。



「何をしている」


 発せられた静かな声が周囲の空気を震わせる。

 近くにいるだけで圧力を感じさせる人物の登場に、さすがにイザークも居住まいを正した。


「……泣かせるなよ。いくらイザーク王子でも、ユーリウスを怒らせたら面倒なことになるぞ」

「シュバルツ先生」


 生誕祭の後から、出張で学園を離れていたシュバルツは怒気を隠さずイザークの背後に立つ。


「イザーク王子、貴公と話をしたい」

「はいはい、分かりました」


 面倒くさそうに息を吐いたイザークは、ポンとリージアの頭に手を置く。


「じゃあ、またな」

 

 ぱんっ

 ツカツカ足音を立ててやって来たシュバルツは、リージアの頭の乗ったイザークの手を払いのける。


「リージア、帰る前に生徒会室へ寄って行ってやれ。不機嫌なユーリウスのせいで、生徒会の役員達が困っていると連絡がきた」

「ああ、それは午後の模擬戦でユーリウスと対戦して、俺が勝ったから不機嫌なんだろう」

「ええっ、そんな理由で?」


 緊張で強張っていたリージアの体から力が抜ける。不機嫌なオーラを出すユーリウスと、なだめようとするロベルト、困っているだろう生徒会役員達の顔が目に浮かぶ。

 知らせてくれたシュバルツへお礼を伝え、リージアは足早に渡り廊下を歩き当初の目的地、職員室へ向かった。




 職員室へ向かう途中、階段を降り一階廊下へ出たリージアの目の前に突然人影が現れる。

 ぶつかる寸前で踏みとどまったが、ぶつかりかけた相手、リボンの色から一年の女子生徒が息をのんだ音が至近距離で聞こえた。


「ごめんなさい、だいじょう、ぶ?」


 笑顔で謝るリージアへ何も返さずに、体勢を整えた女子生徒は走り去っていった。


「今の子はヒロイン?」


 一瞬しか顔は見えなかったが、腰までの栗色の髪と大きな瞳をした女子生徒は、つい先程、ホールの窓から見下ろしていたヒロインと同じ容姿をしていた。


「なんなんだろう?」


(さっきまで侯爵令息に庇われていたのに、中庭から此処まで走って来るだなんて好感度上げに失敗したとか? ぶつかりかけたから私を睨んでいたのかな? それと、彼女の纏っていたあの香りは、どこかで嗅いだことがある?)


 走り去って行った方向を見詰めるリージアの頭の中を疑問符が占めていく。

 前回の事もあり、第一印象が良くないヒロインには嫌な予感しかしない。

 シナリオに関わる気など無いのに、出会ってしまった。

 せっかくイザークが警告の意味でヒロインが誰なのか教えてくれたのに、これがきっかけとなり彼女との縁が出来てしまったらどうしたらいいのか。

 思わず廊下の窓から見える空を仰いでしまった。


続編のヒロイン登場です。

目直しが甘いため、手直しするかも。

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