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06.モブ令嬢は王子様とデートする

誤字脱字報告ありがとうございます。

見直していますが、無くならず申し訳ありません。



 王子妃教育を終え、王宮から王都の屋敷へ戻って来たリージアは着替えもせずにベッドへ倒れこんだ。


 王宮で粗相でもして落ち込んでいるのかと心配するメイド達へ、ユーリウスからお忍びデートに誘われたと漏らしてから後悔することになった。

 狂喜乱舞したメイド達によって、直ぐに王都の女子たちに人気の店へ流行の服とアクセサリーを配達するように手を回されてしまったのだ。

 応接間にズラリと並んだハンガーにかけられた明るい色の服と営業スマイルを浮かべた店主を見たリージアは、状況理解が追い付かず何度も目を瞬かせてしまった。


「お嬢様、こちらが王都で流行っているデザインの服です。お嬢様の髪色では、この色はどうでしょうか」

「は、はぁ」

「あら? お嬢様にはこのお色が似あうと思います」


 服と装飾品を手にした楽しそうなメイド達による、リージア着せ替え人形化は一時間以上も続いたのだった。



 そして迎えたデート当日。


 リボン付きの丸襟のワンピースを着たリージアは鏡の前に立ち、おかしなところは無いか何度も確認をしていた。動くたびにウエストのリボンがふわりと揺れる。


「こんなふわふわな格好は街中で浮かないかしら?」

「今の流行はふんわりスカートなんですよ。浮くどころか、とっても可愛らしいですわ」

「お忍びデートにピッタリです」


 普段は着飾らないリージアから「商家のお嬢さん風にして欲しい」と頼まれ、気合を入れて仕上げたメイド達は満面の笑みで答える。


「そ、そうかな? でも、化粧はもう少し地味でもいいんじゃない?」

「いいえ! これでも抑えているくらいです! 今年のアイシャドウの流行りは、緑や青といった鮮やかな色合いが多いのですよ!」

「そ、そっか、ありがとう」


 化粧を担当したメイドの迫力に負けたリージアは、これ以上は言わない方がいいと口を閉ざすしかなかった。


「失礼します。お嬢様、殿下がいらっしゃいました」


 控え目なノックの音がして、扉を開けた初老の執事がユーリウスの到着を告げる。


「お嬢様、頑張ってくださいね」

「リップはこまめに塗り直してくださいね」


 楽しそうなメイド達に見送られ、リージアは部屋を出て玄関ホールへ向かった。


 濃紺色のジャケットの下にブイネックシャツを着たユーリウスは、ポケットから取り出した懐中時計を見て時間を確認していた。

 今どきの男子が好んで着る服装でも、生まれ持った王子様の気品は隠しきれておらず、貴族令息のお忍びか良家のご子息といった風にしか見えない。

 玄関扉上部の飾り窓からの光で、ユーリウスの金色の髪がキラキラと煌めく。

 立ち尽くすリージアの気配に気付き、顔を上げたユーリウスは驚いたように目を見開いた。


「お待たせしました。あの、どうかされましたか?」

「リージ、ア?」


 名前を呟いたきりで続く言葉は出ず、動かないユーリウスに不安になったリージアの眉尻が下がっていく。


「この格好は変でしょうか? すみません直ぐに着替えを、」

「いやっ! そうではない」


 焦ったようにユーリウスはリージアの言葉を遮る。


「いつもと違う装いというのもいいなと思って、その、リージアが可愛くて、言葉が出なかっただけだ」


 言葉の最後は尻つぼみとなったユーリウスの目元が、みるみるうちに赤くなっていく。


「えっ」


 見つめ合い頬を染める二人を離れた場所から見守っていた使用人たちは、交際を始めたばかりの恋人のような二人の初々しさに笑顔となっていた。


「では、行こうか」

「はい」


 差し伸べられたユーリウスの手を取る。

 気配を消して待機していた御者が玄関扉を開いた。



 貴族の屋敷が建ち並ぶ高級住宅地から中心部へ向かう大通りを馬車で走り抜け、噴水広場前の降車スペースで馬車から降りた。

 御者に迎えの時刻を告げると、ユーリウスは噴水の向こうに見える人々で賑わう大通りを眺めた。


「リージアが普段買い物をするのはどんな店なのだ?」

「時々友達と一緒に行くのは、レディベティーの店とコットンカフェです」

「女子に人気がある雑貨屋か。いつも買い物客で賑わっているな」


 レディベティーの店は可愛い小物からスタイリッシュな小物、平民の少女が購入しやすい金額の装飾品や流行りの服まで、幅広い品を取り扱う雑貨店だ。

 因みに、ゲーム内でヒロインの各種パラメーターを上げる装飾品を購入できるのは、このレディベティーの店だった。

 人気の店とはいえ王子様が知っていたことにリージアは驚く。


「ユーリウ、ユーリも街へ買い物に行くのですか?」


 犯罪防止のため変化魔法の使用はルブラン王国では禁止されており、服を変えただけでは王子様のキラキラした雰囲気と顔の造りは誤魔化せない。

 偽名というか、「ユーリ」と呼ぶように言われたリージアは、それがゲーム内でヒロインへの好感度MAXの時にだけ教えてもらえる彼の愛称だと気付いた。


(ああああ! 制服でもなく中身はキラキラ王子様でも普通の男子服を着たユーリウス様の隣を歩くだなんて! どうしよう。一日も耐えられないかもしれない)


 内心頭を抱えて身悶えているリージアをよそに、ユーリウスは吹き抜けた風で乱れた髪を掻き上げる。


「学園が午前中だけ授業の日の午後や休みの日など、時間がある時は王宮を抜けて街へ行っていた。自分の目で街の様子を見たいしな」

「へぇー」


 ゲームでは、休日街へ出掛けたヒロインは王子様と偶然出会っていた。

 都合の良いゲーム展開ではなく、ユーリウスがお忍びで街へ来ていたからだったのか。


「リージアの好みが知りたい。雑貨屋に行くぞ」


 行こうか、ではなく行くぞと爽やかに言われてしまえば嫌とは言えなかった。


 石畳の歩道をユーリウスと並び、指を絡ませたいわゆる恋人繋ぎで歩く。

 前から歩いてくる人とぶつかりそうになれば、さり気なく引き寄せてくれる。

 ユーリウスの気遣いに胸があたたかくなっていくのを感じていた。


「此処か」


 開かれた扉からは女性客の楽しそうな声が聞こえ、大きな窓から見える店内は女性客で混雑しているのが分かる。

 女性が纏う香水と化粧品の香りでアレルギー反応を起こすようになったユーリウスの顔色が若干悪くなった。


「あの、無理して入らなくてもいいですよ」

「リージアが傍に居てくれれば、大丈夫だ。行こうか」


 パステルカラーで彩られた可愛い店内は若い女性客で混雑しており、隣にリージアがいるとはいえファンシーな小物に囲まれるユーリウスに視線が集まる。


 目が飛び出た熊という、不細工と可愛いの中間の縫いぐるみを手にして神妙な顔になっている彼は、とてもキラキラした王子様には見えず、可愛い。

 繊細な刺繍が施されたリボンの中心に四個の小花が縫い付けられた髪飾りを手にしたリージアは、普段見られないユーリウスの表情に我慢できずにやけてしまった。

 熊の置物を棚へ戻したユーリウスが振り向く。


「その髪飾り、気に入ったのなら買おう」

「髪飾り?」


 首を傾げたリージアは手元へ視線を落として、手にしているリボンの髪飾りを買うと言われたのだと理解する。

 今までは、着飾ることを避けていため眺めているに止めていたのだが今は地味女子を装う必要もなく、買うという選択肢があるのだ。


(そうか、気に入ったら買ってもいいんだ)


 肩から斜めにかけたポシェットにちゃんと財布は入れてきた。


「自分で買います」

「俺が買う。可愛い恋人に贈りたいんだ」


 少し照れ臭そうに言われた瞬間、混雑している店内から音が消えた。

 リージアの胸がキュンッと甘く疼き、胸いっぱいに甘酸っぱいものが広がる。


「……ありがとうございます」


 頷いたユーリウスは、リージアの手から髪飾りを受け取り会計へと向かった。



 店を出てから髪飾りをアップにした髪に着けてもらい、リージアは歩道沿いの店の硝子に映る自分を見る度に口元が緩んでしまう。


「どうした?」

「大したことは、その、今まで家族以外の男性から贈り物をされたことがなかったので、ユーリウス様から贈り物をされる度に嬉しくて、つい顔がにやけちゃうんです」


 満面の笑みでリージアは答える。

 僅かに目を見開いたユーリウスは、目を細めて繋いだ手の指に力をこめた。


「コットンカフェのオススメのメニューはなんだ?」

「カフェも行くのですか?」

「リージアが好きな物を、友人と出かけた時にどんな物を好んで食べているのか知りたい」


 一緒に街を歩けただけで満足だったリージアは驚き、隣を歩くユーリウスを見上げた。


 大通りから小さな庭園に面する場所にあるコットンカフェへ着き、庭園がよく見える窓際の席に座る。


「この席に座れるのはすごいラッキーですね」


 入店して直ぐに人気の席が空くとは、王子様は幸運の持ち主なのかもしれない。


(あれ? でも王子様の警備上、襲撃されやすい窓際の席に座るのは大丈夫なのかな? 店内の奥の席がいいのでは?)


 浮かんだ疑問を口にする前に、ユーリウスはメニュー表をテーブルへ置いた。


「オススメは何だ?」

「ミルクカフェオレとアイスクリームがいっぱいのったフルーツパフェが美味しいんです」

「では、それを頼もう」


 王子様を待たせるわけにはいかないと、慌ててリージアはメニュー表を広げた。


「すみません」


 頼むパフェを決めてメニュー表を閉じたリージアは片手を上げる。


「コットンフルーツパフェとチョコバナナパフェ、カフェオレを二つください」

 

 やって来たウエイトレスに注文を伝え、厨房へ入っていくウエイトレスを見送り顔を動かすとユーリウスと目が合う。目が合った瞬間、彼は微笑んだ。

 


「お待たせしました」


 注文したフルーツパフェが運ばれてくるとユーリウスは口の端を引きつらせた。


「う、でかい」


 王宮のお上品なデザートの盛り付けとは違い、ジョッキサイズのグラスにアイスクリームと季節にフルーツ、さらにはこれでもかという量の生クリームが盛られている。


「見た目は大きいけど、甘さ控えめなのでペロッと食べられるんですよ」

「この量が普通なのか?」

「そうですよ」


 バナナに生クリーム付けて、ゆっくり口へ運んだユーリウスの動きが止まる。


「食べさせてくれないか?」

「へ? 食べ?」


チョコバナナパフェのバナナを咀嚼していたリージアは、きょとんとしてユーリウスを見る。


「リージアが食べさせてくれるなら、全部食べられる気がする」


 数秒固まってから思い出した。


(そうだった。ユーリウス様は甘い物が得意ではなかったんだ。特に生クリームは、食べられなくはないけど大量に食べると気分が悪くなるから苦手だって、前世か今世か分からないけど聞いた気がする)


 苦手なのにどうしてパフェを注文したのか。

 内心で首を傾げつつ、リージアはフルーツパフェへスプーンを持つ手を伸ばした。

 生クリームと一緒に桃を掬ってユーリウスの口へと運ぶ。


「『あーん』は?」


(ええっ!? そういえば一つのアイスを分けあって食べたいとか言っていたっけ。まさか、そのためにパフェを頼んだの?)


 見た目は完璧王子様なのに中身がちょっと残念な気がして、色々な思いがぐるぐる脳裏を駆け巡った末、リージアは腹をくくった。


「ユーリ、あーんして?」


 にっこり笑いかけるとすんなり口を開く。


「美味いな」


 口へ入った生クリームと桃を飲み込み、ユーリウスはペロリと唇を舐める。


「つぎは俺の番だ」


 口角を上げたユーリウスは、リージアの頼んだチョコバナナパフェのチョコソースがかかったバナナにフォークを刺す。


「ほら口をあけて」


 目前へバナナを突き付けられて拒否など出来ない。羞恥心から顔が熱を持っていく。

 真っ赤な顔を自覚しつつ、リージアはおずおずと口を開いた。


「んっ美味しい、です」


 先ほど自分で食べたからバナナは甘酸っぱくて美味しいと分かっているはずなのに、口へ運ばれたバナナは砂糖菓子みたいに甘み以外の味がしなかった。


なんでか少女漫画ぽい内容になった。絵にしたらきっとキラキラ効果がいっぱいだ(・∀・)

離れた所にいる護衛は砂を吐いてると思う。

次話に続きます。

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