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禁忌倉庫の管理記録  作者: 松戸京
管理番号21~30
73/80

管理番号30番:写し鏡 ③

「……で、一体どういうことなんだ?」


 俺は意味がわからず、今一度ライナ……ではなく、管理番号30番に訊いてみた。


「言ったとおりです。私は管理番号30番……とここでは名付けられたものです。私の本体はあの鏡。鏡の前に立った人物を鏡の中の世界に閉じ込め、代わりにその人物そっくりの存在を出現させる……それが今あなたの前にいる私です」


 そう言いながら、俺と管理番号30番は管理番号30番の保管部屋の前に向かっていった。


 そして、管理番号30番は部屋の扉の前に立つと、今一度俺の方を見る。


「さて……今一度聞きますが、私はあなたの知っているライナ・グッドウィッチではないのですね?」


「え……あ、ああ。言ったとおりだ」


 しばらく黙った後で管理番号30番は不敵に微笑んだ。


「よろしい。その確固たる自信に免じて私の前に立つことを許しましょう。アナタに帰してあげますよ。本物のライナを」


 そういって、管理番号30番は扉を開ける。


 部屋の中には……相変わらず姿見があるだけであった。


「……なぁ、一つ聞いていいか?」


 俺は管理番号30番の方に顔を向けて声をかける。


「はい? なんでしょう」


「あの姿見の前に立ったら、俺もその鏡の世界に閉じ込められる、ってことはないか?」


 俺がそう言うと管理番号30番は嬉しそうに微笑む。


「ええ。そう思いますよね。ですが、大丈夫です。私は単純に知りたいのです。人間がホンモノと偽物を見分けられるか」


「……は? 見分けられるか……知りたい?」


 俺がそう言うと管理番号30番は小さく頷く。


「私が鏡の中に閉じ込めた人物……その人物の親しい人物が、私自身を偽物か、本物か……そして、アナタは見事見分けることができた。私は満足です」


 本当に満足そうにそういう管理番号30番。よく意味がわからなかったが……とにかく、ライナを助けるには姿見の前に立つしかないようである。


 俺は意を決して姿見の前に歩いていく。そして、恐る恐る姿見を見てみた。


「あ」


 思わず声を漏らしてしまった。姿見に映っているのは俺……ではなく、悲しそうにうつむいているライナだったのである。


「ライナ!」


 俺が呼びかけると、鏡の中のライナが顔をこちらに向ける。そして、今にも泣き出しそうな顔で俺を見る。


 その瞬間、鏡が光った。俺は一瞬眩しさに目を閉じる。


「……もう……遅すぎます……」


 目を開けるとそこには……不満そうにしながらも、涙を目に貯めるライナが立っていた。なぜだかわからないが、そのライナは……直感的にホンモノだと俺は理解できた。


「あ……あはは……まじで、すまん……」


 俺は頭を下げた。ライナは何も言わずに部屋の扉の方に向かっていく。


「あ、お、おい! ライナ!」


 俺は慌ててライナの方に駆け寄っていく。そして、ずっと聞きたかったことをライナに聞くことにした。


「なぁ、どうして、俺で実験しなかったんだ? もし、俺が管理番号30番を偽物だと見抜けなかったら、どうするつもりだったんだよ?」


 考えてみれば当然の質問だった。すると、ライナはジト目で恨めしそうに俺のことを見る。


「……管理番号30番は、鏡の中に取り込む人物を選択します。聞いたのではないのですか? ホンモノと偽物を見分けられるか……それを知りたいと」


 ライナの言う通りだった。ということは……管理番号30番の性質を知っているライナでは、特殊性は発揮されない、ということか。


「……それに」


「それに?」


 俺がそう聞くとライナは少し恥ずかしそうにしながら俺を見る。


「アナタならば……すぐにホンモノの私かどうかを見抜くことができると思ったので。まさかこんなにも時間がかかったのは想定外でしたが」


 そう不満げに言って、ライナはそのまま部屋から出ていってしまったのだった。

点検結果:管理者報告

管理番号30番の危険度判定:重度

理由:本物か偽物かを判断できなければ永久に鏡の中なにもない世界に閉じ込められる可能性がある。(鏡の中の世界は未知の原因により、精神が非常に不安定になる)今後、管理番号30番を使用した点検行為は可能な限り行わないこととする。

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