管理番号24番:選り好みするデュラハン ②
「……まじかよ」
俺は完全に困ってしまった。文字とおり、手も足も出ない。というか、首から下がない。
動くことも出来ず、目を周囲に動かすことしかできない。
「おいおい……ら、ライナぁ!」
思わず助けを求めてしまう。すると、部屋の扉が開き、ライナが姿を表す。
「え」
思わずライナも驚いてしまったらしい。そんな声を漏らした後でゆっくりと俺の方に近づいてくる。
「え……これ、どうするの?」
ライナも俺がどうして生きているのか、どうして喋れているのかわからないようである。困惑した様子で俺のことを見ている。
「……管理番号1番。その……痛みとかは、ないのですか?」
「え? あ、ああ……痛くはないな」
「そうですか。では、身体の感覚は?」
「ないよ……身体はさっき乗っ取られちまったし……」
俺がそう言うとライナは暫く俺のことを見ていたが、ふと、身をかがめたかと思うと、俺の頭部に触れてきた。そして、そのまま俺の頭部を持ち上げたのである。
「確かに、失血もしていません。未知の方法で、完全に頭部だけ分離していますね」
「そんなことよりさぁ……アイツはなんなんだよ?」
俺はライナに弄り回されながらも、文句を言う。
「管理番号24番は、触れた相手の頭部と自分の頭部を入れ替える危険存在です。そして、実際今、管理番号1番がその特殊性の被害に合っています」
「そんなことはわかっているって! 俺の身体は……どうなっちゃっているんだよ!?」
俺は流石に泣きそうだった。もしかしてこのままずっとこの頭部だけの存在でいなければいけないのか? そう考えると死にたくなってくる。
……ダメだ。首から下がない状況では死ぬのも一苦労である。
「そうですね……管理番号1番。アナタは自分の身体は好きですか?」
と、不意にライナがそんな変なことを聞いてきた。
「……はぁ? 何言って……好きも何も、俺の身体は俺の身体でしょ?」
「ええ。ですが、もし、他人の身体と自分の身体を入れ替えることができるとしたら……例えば、私の身体と入れ替えることができると言われたら、どうします?」
そう言われて俺は少し戸惑った。ライナの身体と入れ替える……ちょっといやらしい感じがした。
「あ、いや……そう言われると……自分の身体でいい」
「そうですよね? つまり……自分以外の身体というのは、どうあっても馴染まないということなのです」
ライナの言っていることは未だにわからなかったが、俺が混乱している、その時だった。
部屋の扉が開いた。
「いやぁ……すまんすまん。やはりダメだ」
部屋の中に入ってきたのは……管理番号24番だった。
「管理番号24番。どうでしたか?」
ライナが話しかけると、管理番号24番は困り顔で答える。
「うむ……やはり馴染まないな。最初は良いかと思ったのだが……ダメだ」
そう言ってから、ライナの手の中にある俺の頭部の方に向かって管理番号24番は視線を向ける。
「すまなかったな。青年よ、この肉体は返そう」
管理番号24番が俺の頭部に触れる……その時だった。
一瞬眼の前が暗くなったかと思うと、俺の頭部は先程よりも高い位置にあった。
「戻りましたか、管理番号1番」
ライナの言葉で俺はすぐに確認する。手の感覚がある、足の感覚がある……というか、首から下の肉体が存在していた。
「も……戻った……」
俺は思わず安堵してしまった。
「ふむ……仕方ない。やれやれ、いつになったら、我が肉体にふさわしい身体は現れるのだろうか……」
いつのまにか頭部だけになった管理番号24番は悩ましげにそう呟く。
「そうですね。早く見つかるといいですね」
相変わらず感情を一切感じさせない言葉でライナはそう言った。
「それで、管理番号1番。今一度訊ねますが……自分の身体は好きですか?」
ライナは俺の方に顔を向けてそう訊ねる。
「……ああ、大好きだ」
俺は苦笑いしながら、ライナにそう返答したのだった。
点検結果:管理者報告
管理番号24番の危険度判定:中度
理由:管理番号24番の特殊性は非常に危険であるが、管理番号24番自身が他人の身体が馴染まないと確信しているらしく、特殊性の発揮は一時的なものであると考えられる。なお、管理番号24番が納得する肉体は管理万能24番自身の肉体以外存在しないんで、今後は他の危険存在を使った点検行為は禁止するものとする。




