第７６話　行動Ｄ

「そ、そんなっ！　私は未だキスしていないのにっ！」

「いや、さっきも言ったけど、僕は闇魔法が効いてないんだけど」

「それは知ってましたけどー、せっかくのチャンスじゃないですかっ！」

　知ってたの！？　いや、シャルロットだし、マリーと違って少しも慌てていなかったから、効いていないのが分かっていたとしても不思議じゃないけど。

　というか、何のチャンスなのっ！？

「な、何故、俺の魔法が効かないんだっ！？　ならば支配系ではなく……闇魔法スリープ！　カーディを眠らせろっ！　……効かないだと！？　闇魔法コンヒューズ！　カーディを混乱させろっ！　……闇魔法パラライズ！　カーディを麻痺させろっ！」

　男が次々に闇魔法を使用するが、どういう訳か僕には何の変化もない。

　そうこうしている内に、マリーが攻撃魔法を放ち、レナさんがそれを防いだところで、

「はい、ストップ。これ以上、お兄ちゃんに何かする気なら、クリスは躊躇なく刺すからね？」

　男に接近したクリスが鉄の短剣を突き付ける。

「何故だ……一つだけ教えてくれ。どうして俺の魔法が通じなかったんだ」

「何故って言われても、僕だって知らないけど」

「これは……この魔法は義父……ぐっ！　レナ！？　どうして、お前が俺を攻撃出来るんだ……？」

　何かを言おうとしていた男が、突然レナさんに蹴られ、吹き飛ばされた。

　あれ……？　レナさんはあの男に――ベルナルド伯爵の息子の命令で仕方なく従っていたんじゃないの！？

　実際、あの男だってそう思っていたみたいで、物凄く驚いているし。

「実施条件を満たした為、行動Ｄを実行します」

　突然レナさんが変な事を言ったかと思うと、僕に向かって突っ込んできた！

「カーティスさん！　右へ跳んでくださいっ！」

　シャルロットに言われて、そのまま右へ飛び込むと、

――ッ！

　先程まで僕が居た場所を、凄い速さでレナさんが通り過ぎる。

「先程マリーの攻撃を防いでいた風の魔法を自身に纏わせ、異様に速く動ける様になっています。あの動き易そうな露出の多い変な服といい、おそらくこれが彼女の戦闘スタイルかと」

「フリーズ・ランス！」

　マリーが氷の槍を生み出してレナさんに放つと、これまでとは違い風の盾を生み出さずに、跳んで軽々と避けた。

　その際に、短いスカートからチラチラと白い何かが……くっ！　これが罠かっ！

「カーティスさん！　脚なんて、あとで幾らでも見せてあげますから、集中してくださいっ！」

　してるよっ！　……と言いたかったけど、そんな余裕もなく、広範囲に拡散する氷の弾を放つ。

　だけどこれには、

「レビテーション」

　レナさんが空中を蹴り、二段ジャンプで避けられてしまった。

　空中で向きを変えたり出来る上に、こんなに素早いなんて、どうすればっ！？

　気付けば、再び空中で跳んだレナさんが僕の傍に降り立ち、

「お兄ちゃんに近付くなーっ！」

　獣人モードのクリスがレナさんを蹴り飛ばした。

　そうか。スピードなら、獣人族のクリスも負けてないんだ。

　少し希望が見えた所で、

「ウインド・カッター」

　レナさんが攻撃魔法を放ってきた！

　スピードだけじゃないんだ！　風魔法しか使えないけど、その風魔法をめちゃくちゃ使いこなしてるんだ！

「クリスっ！」

　クリスのすぐ前に、氷の塊を生み出す弾を放ち、レナさんの魔法を受け止める。

　攻撃魔法の威力は弱めなのか？　氷の塊はビクともしていないから……これならいけるか！？

「マリー！　土の魔法を……」

「えぇ、今ので察したわ！　任せて！」

　僕の言いたい事を分かったというマリーが、地面に手を着き……突然レナさんの足元が大きく崩れ落ちる！

　……思っていたのと違った！　というか、僕が考えていた事はマリーに伝わってない！

　けど、これはこれでやろうとしていた事は出来そうなので、再び氷の弾を放ち、レナさんが落とし穴から出てくる前に分厚い氷で蓋をする。

　更に、マリーが僕の氷の上に土魔法で蓋をして……とりあえず、レナさんを封じる事に成功した。

　だが、その直後、

「ふむ。やはり義息とレナでは力不足であったか」

　どこかで聞いた事のある声が聞こえてきた。