【第9話】皇室の食卓と微妙な空気
それからというもの、私の気持ちを知ったグラヴィスは、タガが外れたかのように熱烈なアプローチをしてくるようになった。
贈り物はもちろん、政務の合間を縫って私に会いに来る。
メアリーや護衛は、2人が誰にも邪魔されないよう周囲を見張っている。
そのおかげで、誰も来ない安全な場所で、グラヴィスと逢瀬を重ねることができた。
グラヴィスは二人きりになると私を抱きしめ、キスを交わす。
キスを交わすたびに、
「あぁ、可愛い人だ…早く私のものにしたい…」
「私の胸の鼓動が聞こえますか?私は貴方に夢中です」
「このまま閉じ込めてしまいたい…」
と以前より明らかに好意を示す。
私はその愛の言葉に毎回腰がくだけそうになる。
(物騒なことも言ってる気がするけど…でも幸せ♡ 推しにここまで愛されるなんて…もうキスだけじゃ足りない…結婚式まであと一週間…待ち切れないよぉ…)
幸せすぎる日々を噛みしめていたある日、私は父上から食事の招きを受けた。
「なんの用かしら、メアリー? 父上は普段お忙しくて、食事もゆっくりとることはないのに…」
「きっと、ジェニエット様の結婚式が近づいたからですわ。ご家族との最後の団らんをとろうとなさっているのでは?」
そう思いながら、メアリーを連れ、久しぶりに食卓へ向かった。
そこには父アルバーン皇帝、その両隣に正妃マデランと皇妃アマデル、そして皇子たちが揃っていた。家族大集合だ。
私は深く頭を下げて挨拶する。
「帝国の太陽であらせられる皇帝陛下にご挨拶申し上げます。ご健勝でなによりです。少し遅くなりました、申し訳ございません」
すると皇帝は柔らかく笑い、手を差し伸べる。
「よいよい、ジェニエットよ。頭をあげよ。私の可愛い銀月の姫よ」
普段は威厳に満ちた父上だが、私にはこんなに優しい…。心がほっと温かくなる。
---
席につくと、敵対するマデラン妃とアマデル妃が対面して座り、自然と嫌な空気が漂う。
皇帝が口を開いた。
「ジェニエットよ、噂では最近グラヴィスと仲良くやっているそうだな。あの男は私も認めた立派な男だ。安心して嫁ぐが良い」
私は頬を染め、「はい、父上…」と答える。
マデラン妃が鋭い笑みを浮かべる。
「あんなに嫌がっていたのに、いったいどういう風の吹き回しかしら?アマデル妃はよく教育なさっているのね」
アマデル妃も負けじと返す。
「まぁ、マデラン様。私にそんな非道なことはできませんわ。娘にも私同様、愛ある結婚を望んでおります。マデラン様にはわからないでしょうけれど…」
マデラン妃の顔が怒りで歪む。
「本当に、恥知らずな女ね!!」
皇帝が厳しい声を響かせる。
「やめよ!私の前で争うな!家族団らんを壊す者はここから去れ!」
二人は同時に「申し訳ございません…」と言い、ぎこちなく食事を続ける。
(何なの、この食事…全然くつろげないし、味もわからないわ…)
私は少し食事をした後、深呼吸して言った。
「父上、申し訳ございません。少し胃の調子が悪いので、ご退席をお許しください」
「そうか、後で薬師を遣わそう。久々の食事楽しかったぞ。また顔を出しなさい」
私は席を立ち、父母や皇子たちにお辞儀をして食事会をあとにした。
---
部屋に戻る途中、私はメアリーにぽつりと漏らす。
「ものすごく険悪な雰囲気だったわね。あれではお兄様達も可哀想…」
「仕方ありませんわ。マデラン妃もアマデル妃も、皇帝の寵愛を求めるライバル同士ですし、自分の皇子様方を次期皇帝にしたいのですもの」
(みんな仲良く…って、ほんとに難しいみたいね…)
私は心の中で小さく溜息をつくのだった。




