◇番外編①◇ 新たな命 ― 小さな奇跡 ―
とうとう、ジェニエットは臨月を迎え、お腹は大きく膨らんでいた。いつ生まれてもおかしくない状況に、グラヴィスやメイドのメアリーらは慎重に見守っている。
もともと細い身体に大きなお腹がアンバランスで、なおかつお腹の中の子は元気に動き回る。つわりは少なかったが、心は少し落ち着かない。
(きっと、この子は男の子ね…!こんなに元気なら)
そう思い微笑みながらお腹をさする。その手に後ろからそっと手を重ねるグラヴィス。
「男の子でも女の子でも、どちらでもいい。元気に生まれてくれれば。そして、ジェニエットが無事なら…」
心配そうな顔をしているグラヴィスに、ジェニエットは微笑む。
「大丈夫ですわ。きっと元気な男の子…いや、きっと元気な子です。こんなに暴れん坊なのですから」
グラヴィスは微笑み、ジェニエットの前にしゃがみ込むと、お腹を両手で包み耳を当てた。
「あまり母上を困らせるなよ。無事に生まれてくれ。君は望まれて生まれてくるんだ。誰より幸せな子よ」と静かに語りかける。
ジェニエットはクスクスと笑い、お腹に手を添えつぶやいた。
「父上は本当に心配性ですね…」
その夜、二人は同じベッドで手を繋ぎながら眠った。
翌朝、いつもと違う痛みが走る。何度も間隔を置いて痛みが訪れる。
(これって…陣痛!?)
うろたえるジェニエットに気づいたグラヴィス。
「ジェニエット、大丈夫ですか!すぐに産婆を呼ばせます!」
勢いよく立ち上がり、メアリーに産婆を呼ぶよう命じる。
邸内は慌ただしくなる。痛みはどんどん短く鋭くなり、ジェニエットは呼吸も荒くなる。
(痛い…こんなに痛いなんて!怖いより、とにかく痛い!!)
「あぁ…ジェニエット…可哀想に…側にいたい…」
そう言いかけるグラヴィスを、慣れた産婆は制する。
「旦那様は外でお待ちください!」
姫らしく、お淑やかに出産する自信もなかったジェニエットは、むしろホッとする。
「もう、頭が出てきております。奥さま!もっといきんで!そう!息を吸って!はい、いきんで!」
産婆の声に従い、ジェニエットは全身の力を振り絞る。涙と汗が溢れ、乙女心などどうでもよくなるほどの痛みに耐え、最後の一いき!
そして――
「オギャー!オギャー!!」
元気な泣き声に、ジェニエットは疲れきった身体を横たえてホッと息をつく。
産婆がそっと抱き上げて言った。
「美しいお嬢様ですよ。おめでとうございます」
――女の子!?
ずっと男の子だと思っていたジェニエットは驚く。
しばらくすると、部屋のドアが開き、バタバタと足音を立てて駆け込むグラヴィス。
「ジェニエット…!無事で良かった!この子が…!」
目の前に抱かれた小さな命を見て、言葉を失った。
生まれた赤ちゃんは、ジェニエットにそっくりの銀髪に白い肌、瞳はグラヴィスと同じ琥珀色の美少女。小さな指先まで愛らしく、二人の遺伝が詰まった奇跡のような存在だ。
グラヴィスは目に涙を浮かべ、ゆっくり赤ちゃんを抱き上げる。
「なんて…可愛らしい子だ…!ジェニエットにそっくりだ…!」
赤ちゃんは小さな手でグラヴィスの指をぎゅっと握り、微かに震える小さな身体を委ねる。その温もりに、グラヴィスの胸が熱く締めつけられる。
「お前は…この手で守る!どこにも嫁にはやらん!」
声を震わせ、抱きしめる腕に全身の力を込める。赤ちゃんの小さな泣き声が、愛しさと安堵で胸をいっぱいにする。
ジェニエットは微笑み、そっと赤ちゃんの頬に触れながら言った。
「瞳はグラヴィス様と同じ琥珀色ですわ…本当に美しい…」
三人で見つめ合う瞬間、部屋の空気が柔らかく包まれる。小さな胸が、幸せで満ち溢れていくのを感じた。
赤ちゃんが小さく目を開き、グラヴィスを見上げる。まるで「父上、守って」と言っているかのように。その瞬間、グラヴィスは確信した。
――この命を、私は一生守り抜く、と。
深く抱きしめる腕の中で、小さな心臓の鼓動が自分の胸とひとつになったように感じる。
幸せの涙が、止まらない。
ジェニエットもその温もりに包まれ、心の底から思った。
――この世界に転生して、本当に良かった。
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二人と赤ちゃんのやり取りを書きながら、私自身何度もニヤニヤしてしまいました✨
もし「ここ好き!」と思ったところがあったら、ぜひブックマークや感想で教えてください。皆さまの言葉が、次の物語を書く力になっています✨
そして…なんと、また番外編も書く予定です!赤ちゃんの成長や、ちょっとした日常の幸せなひとコマをお届けできればと思っていますので、お楽しみに♪
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました!これからも三人の物語を、そっと見守っていただけたら嬉しいです。




