【第28話】 罰の行方と、甘すぎる懲罰♡
翌日――。
あの恐ろしい一夜を乗り越え、私はようやく宰相邸へと帰還した。
無事な姿を見たメアリーは、駆け寄りながら大粒の涙をこぼす。
「ジェニエットざまぁぁぁ〜〜!ご無事でよがっだぁぁぁっ!」
その勢いに思わず笑いそうになり、私は手を伸ばす。
「心配かけたわね、メア――」
けれど、その言葉を遮るようにグラヴィスが一歩前に出た。
静かに、けれど底冷えする声で言い放つ。
「……お前たち、今回の失態。到底、許されると思うな。
ジェニエットが無事だったから良かったものの、もし何かあったなら――その場で死罪だ。」
その言葉に、廊下にいたメアリーも衛兵たちも凍りついた。
震える声で「申し訳ございません!」と頭を下げる彼らを見て、私は思わず叫んだ。
「グラヴィス様!メアリーたちは悪くありません!どうかお許しを……!」
けれど、いつもなら私の言葉に耳を傾けてくれる彼が、今日は違った。
鋭い瞳のまま、冷たく命を告げる。
「――皆、百叩きの刑に処す。」
「そ、そんな……!いくらなんでも、それではメアリーが死んでしまいます!」
必死に訴える私の声も、届かない。胸がきゅうっと締めつけられ、涙が滲む。
(どうすれば……どうしたら、止められるの……!?)
そのとき、私はひとつの賭けに出た。
「グラヴィス様!そんなことをなさったら……私、グラヴィス様のこと、嫌いになっちゃいます!」
ぴたりと時が止まる。
グラヴィスの肩がびくりと震え、信じられないものを見るような顔でこちらを見つめた。
「……わ、私を……嫌いに……?」
その表情があまりにもショックそうで、少し罪悪感が胸をくすぐる。
けれど、ここで引くわけにはいかない。私はさらに畳みかけた。
「そんなことしたら、もうキスもしてあげません!
それに――抱っこも、させてあげません!」
一瞬の沈黙のあと。
グラヴィスは青ざめた顔をゆっくりと上げ、かすれた声でつぶやいた。
「……ジェニエットに、キスも……抱っこも……できない……?」
そのあまりの動揺ぶりに、思わず吹き出しそうになってしまう。
(効果てきめん……!でも、ちょっと可哀想かも?)
私はそっと彼に近づき、上目遣いで微笑んだ。
「では、メアリーたちの罰は……取り消しで、いいですよね?」
グラヴィスはしばし沈黙したあと、深いため息をついた。
そして、少し頬を染めながら言う。
「……わかりました。ですが、規律のためにも多少の罰は必要です。
――3日間、夕食を抜きにします。」
「夕食抜き、ですか……?」
思わず拍子抜けする私をよそに、メアリーたちは地面に額をつけて感謝した。
「寛大なるご処分、誠にありがとうございます!
ジェニエット様、本当に申し訳ございません!」
(……まぁ、これが精いっぱいの妥協案かしら……)
私はグラヴィスの方を向き、ふわりと笑う。
「ありがとうございます、グラヴィス様。――大好きです♡」
そう言って、彼の頬に軽くキスをした。
その瞬間、グラヴィスの顔が真っ赤に染まる。
「……ぐぬぅ……っ。……貴方という人は……可愛すぎます!」
次の瞬間、彼は私の足裏に腕を差し入れ、軽々と抱き上げた。
その腕の中は、暖かくて、安心できて、どこか甘やかに香る。
「ちょっ、グラヴィス様!? みんな見てます……!」
「構いません。誰にも渡したくない。」
低く囁く声が耳元を撫で、心臓が跳ねた。
そのまま、彼の胸の鼓動に包まれて――部屋へと連れ去られてしまった。
思わず彼の胸に顔をうずめると、グラヴィスは優しく抱きしめ返してくれる。
その腕の中で、私はこの甘すぎる一日がずっと続けばいいのに――と願った。
その日の夕方まで、私たちは部屋から出て来なかったのだった――




