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【第23話】皇帝との密談

朝の光が宮殿の廊下に差し込み、石畳に淡い影を落としていた。

グラヴィスは静かに歩を進め、皇帝の玉座の間へと向かう。


――婚礼後も変わらぬ、確かな自信のある歩き方。

その背筋は真っ直ぐで、黒衣の金刺繍が光を受けて冷たい威厳を放つ。


「グラヴィス、早かったな」

皇帝は玉座の上から、にこやかに手を振った。

「何事か? その顔つきは、ただの報告ではなさそうだな」


グラヴィスは一礼する。

「進言がございます、陛下。よろしければすぐに謁見を……」


皇帝は軽く笑う。

「娘婿であり、信頼する宰相。言いたいことは遠慮なく言え。すぐに謁見を許す」


玉座の間に静かな緊張が漂う。

グラヴィスは歩を進め、皇帝の前に立った。


「ナグラート王国との同盟は撤回し、属国化を進めるべきと考えます」

その声は低く、しかし一切の揺らぎがない。


皇帝は眉を上げる。

「いきなりだな。戦争の可能性もあるのではないか?」


「戦争となっても、我が国が勝利するのは確実です」

グラヴィスは目を細め、冷静さを帯びた瞳で皇帝を見据える。

「そして、属国化による利益は、戦争のリスクを上回ります。

鉱石、交易、そして領土の安全保障……全てにおいて優位に立てます」


皇帝は驚きつつも、胸の内に薄い笑みを浮かべた。

「なるほど……だが、お前はかつて同盟を支持していたはずだ。急に方針を変える理由は?」


グラヴィスは少し間を置き、低く告げる。

「ナグラートの王子は、手を出してはならぬものに手を出しました。

その報復でもあります」


その瞬間、皇帝はすぐに察した。

「……ジェニエットのことか?」

豪快に笑い、玉座に深くもたれかかる。

「さすがわしの娘婿よ。手堅いことを考えるな」


グラヴィスは笑わず、冷静なまま玉座を見据える。

「陛下。我が国の国益を第一に考え、指揮も私が先陣を切ります」


皇帝は鉱石豊富なナグラート王国を手中に収めることの価値を理解し、うなずいた。

「わかった。初めから属国にしたかったのだが、平和的同盟を求める意見が多く、保留していた。

お前がこちら側なら、他の者も文句は言うまい。

すぐに使者を送り、ナグラートに属国か戦争かを告げよ」


グラヴィスは一礼し、玉座の間を後にする。

歩く姿は先ほどと同じく冷たくも力強く、まるで王国そのものを背負うかのような威圧感。


――皇帝もまた、娘婿の背中を見つめながら、確かな信頼と尊敬を抱いた。

二人の密談は、こうして静かに決まったのだった。




アルフォンス王子、触れてはいけぬ線を越えてしまいました──。

次回は、属国化の知らせを受けたナグラート王国側の様子を描きます。

お楽しみに✨

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