表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/43

【第22話】禁断の侵入者

翌朝。

グラヴィスは皇帝への進言に備え、静かに支度を整えていた。

私はベッドから、その姿を見つめる。


(あぁ……今日も推しが生きてる♡

黒の装いに金の刺繍が映えて、ただ立っているだけで絵になるなんて……!)


ぼんやり見惚れていたら、ふと彼の切れ長の瞳がこちらを向いた。

優しく微笑まれて、心臓が一瞬止まりそうになる。


「……どうしました? 顔が赤いですよ」

「い、いえっ! なんでも……!」


微笑んだまま、彼は私の傍に腰を下ろす。

「怪我人が無理をしてはいけません。今日からは安静ですよ」

そう言い、額に軽く唇を落とした。


思わず潤んだ瞳で見つめると、グラヴィスが喉の奥で笑った。

「……そんな顔をされたら、出かけられなくなります」


「じゃあ、行かなくていいです」

「困らせないでください」


唇が重なる。

一瞬なのに、世界が止まったようだった。


「夜には戻ります。あの男――王子には、決して会わぬように」

「はい。……早く帰ってきてくださいね」


彼は苦笑を漏らしながら、そっと私を抱きしめた。

「あなたという人は……。どうしてそんなに可愛いのです」


胸の奥まで甘く痺れる余韻を残して、彼は城へと向かった。



---


昼を少し過ぎたころ、メアリーが部屋に入ってきた。

「ジェニエット様。アルフォンス王子が、お見舞いに来られました」

「……また?」

「ですが、旦那様のご命令通りお断りしました。少しご立腹でしたが、お帰りになりました」


(まぁ自分のせいで怪我したんだからお見舞いには来るわよね。でも何度もしつこい!)

そう思いながら、どっと疲れが出てベッドに横たわる。


――いつのまにか、眠っていた。


けれど、ふと気配を感じて目を開けた瞬間、私は息を呑んだ。


「……!」


そこには、衛兵の姿をしたアルフォンス王子がいた。

目が合うと、彼は慌てて口元に指を当てた。


「声を出さないでください。お願いです」

「な、何を――」


言いかけた唇を、彼の手が塞ぐ。

恐怖で体が震える。


「驚かせてすみません。ただ、あなたの無事を確かめたくて……。誰も取り合ってくれないんです。あなたの怪我を案じているのは、私だけで……」


その瞳は熱に濡れ、言葉とは裏腹に異様に近い。


(は? 距離感! 近い! めっちゃ怖いんだけど!?)


「王子、離してください!」

必死に押し返す私の手を、彼はそっと掴んだ。


「ほんの一瞬でいい。貴女の温もりを感じさせてください……」


ゆっくりと顔が近づく。

あと少しで唇が触れそうになった――その瞬間。


私は思いきり手で顔を押し返した。

アルフォンスが顔をしかめる。


「この無礼者! 何をしているのですか!」


アルフォンスは苦痛に顔を歪めながらも、笑みを崩さない。

「……気の強い子猫ちゃんだな。そこも魅力的だ」


「近寄らないで! 今すぐ出て行って!」


ちょうどそのとき、廊下から衛兵の足音が響いた。

「ジェニエット様!? 何かありましたか!?」


アルフォンスは舌打ちをして、窓のほうへ駆ける。

「また、会いに来ます」

そのままカーテンを払って飛び出していった。



---


すぐにメアリーが駆け込んでくる。

「ジェニエット様! 一体何が――!?」

「……衛兵の格好をした不審者が入ってきたのよ」

「なんですって!?」


怯えるメアリーに声を抑えて問う。

「どうして、こんな簡単に侵入できたの?」


現れた衛兵が青ざめながら報告した。

「警備をしていた者が新人で、交代だと信じてしまったようで……」


上官が怒鳴るように頭を下げる。

「申し訳ありません! どんな処分でも――」


「いいわ、命までは取らない。でも、次はないと思って」

「感謝いたします!」


メアリーが震える声で訊ねた。

「……それで、どなたでしたの? その“不審者”とは。見覚えは?」

私は静かに答える。

「アルフォンス王子。間違いないわ」


「な……なんてことを……! すぐに旦那様に――!」

「待って。今は駄目」


ゆっくりと首を振る。

「もし今知らせたら、あの人……グラヴィスはきっと殺してしまう。王子も、衛兵も、関係なく。そんなことになったらすぐに戦争よ」


メアリーは息をのむ。

私は拳をぎゅっと握りしめた。

「彼が帰るまで待ちましょう……」


そして、眠れぬ夜を迎えるのだった。



---その頃、城ではグラヴィスと皇帝がナグラート王国の属国政策について密談していた——



次回、二人の密談をお楽しみに。

面白いと思ったら感想、評価お願いします✨

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ