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【第20話】刃の代わりに下す決定

あの日の顛末を語り終えると、グラヴィスは静かに私を見つめ、淡い笑みを浮かべた。


「そうだったのですね。話してくださり、ありがとうございます。」


穏やかな声色のまま、彼は続けた。


「今すぐヤツを――殺しましょう」


その言葉に、私は耳を疑った。

(えっ!? 殺す!?)


慌てて彼の腕を掴む。声が震える。


「ちょっ、ちょっと待ってください! そんな事でバレたら大罪です!」


グラヴィスは冷静に答える。


「心配無用です。私は考えなしに動く者ではありません。それに――ナグラートの王子如きが貴方様に触れ、畏れ多くも関係を求めたのです。死に値する罪です。」


胸の鼓動が早まる。

(このままじゃ、夢と同じ結果になっちゃう…!)


顔から血の気が引き、涙があふれた。


「お願いです、そんな事でグラヴィス様を失いたくないの。やめてください……」


その泣き声に、グラヴィスはふっと息をつき、


「はぁ。ジェニエットがそこまで言うのなら、殺すのはやめます」と静かに言った。


安心が胸を満たし、肩の力が抜けかけた瞬間、彼は続ける。


「ただし、許すつもりはありません。ヤツは一線を越えた。別の方法で叩きのめします。」


戸惑って問い返すと、グラヴィスは唇の端をわずかに上げた。


「はい。ナグラート王国とは同盟ではなく、属国にします。私が皇帝陛下に進言すれば、領土交渉は即座に動くでしょう。貴方に手を出した者が、ただでは済まないと世界に知らしめてやります。以前、私が皇帝の相談役として動いた際、条約の一部を改めさせた実績があります。今回も同様に仕掛ければ、同盟の序列を変えることは可能です」


その言葉に身震いする。

(……そんなこと、本当にできるの?)


彼は私の戸惑いを見て、低く笑う。


「私はただ殴るだけではない。貴方の名誉を守るために、相手を社会的にも政治的にも追い込み、屈服させてみせましょう」


思わず胸の中で小さく呟く。

(あん♡……悪い笑顔、好き♡――)


己の内心に呆れつつも、その表情に惹かれている自分を否定できない。

冷酷さと保護本能が同居する笑みは、恐ろしくも甘かった。


彼は私の頬に手を当て、じっと確かめるように見つめた。


「安心してください、ジェニエット。貴方に危害を加えた者は、私の前で必ず報いを受けます。私が望むのは貴方の安寧だけです。しばらくは暗殺者が見つかるまで、皇帝との謁見を延期すると言って泳がせておきましょう。知らぬ間にヤツは破滅します」


私はうなずき、彼の胸に顔を埋めた。外では夜風が吹き、窓辺のろうそくが静かに揺れる。刃が向けられているような重苦しさも、計略の匂いも、今は遠い出来事のように思えた。


グラヴィスの手が私の背を撫でる。掌は温かく、力強い。胸の中で小さな決意が芽生える――どんな嵐が来ようとも、彼の側にいる、と。



---


その頃アルフォンス王子は、ジェニエットが自分のために命をかけたことに感動していた。


「こんな人が……俺のそばに……」と胸を高鳴らせ、運命の人だと思い込む。

もちろん、彼女が本当に心を寄せている相手がグラヴィスだとは夢にも思わず、見当違いの期待に胸を躍らせていた。



---

ジェニエットの命をかけた行動で、グラヴィスとの信頼関係がさらに強まりました。

次回はアルフォンス王子視点で、彼の勘違いラブが描かれます✨

どうぞお楽しみに!

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