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転生王女の私はタロットで生き延びます~護衛騎士様が過保護すぎて困ります~  作者: 有木珠乃
第4章 『節制』・広がる噂

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第18話 身分違い

 ミサが近衛騎士団長にアピールをしに行ってから、数日後。

 どうなったのかは分からないけれど、私の部屋にいる時間が減ったことだけは確かだった。それが上手くいっている証拠だと確信が持てずとも、私を世話をしている間のミサを見れば一目瞭然。見るたびに、一喜一憂しているからだ。


 お陰で私は今、カイルを連れて、再び中庭に来ていた。


「そんな顔をしないで。もうここで倒れることはないから」


 中庭に誘った時も、来る道中も、カイルはずっと苦い顔をしていた。あの時の出来事は、それほど衝撃的なものだったことが分かる。それでも強く止めなかったのは、息抜きがしたい、という願望を察してくれたからだろう。


 私は安心させるように、蔦の絡まったアーチの前で両手を広げた。さらにくるっと一回転までしてみせたのだが、やはり慣れないことをするべきではなかった。


「っ!」


 ヒールが舗装された道の僅かな隙間に挟まったのだ。バランスを失いかけた瞬間、カイルが駆け寄り、事なきを得た。


 僅かな距離といえば距離なのだが、勢いよく抱きしめられたからか、心臓が激しく脈打つ。それとともに聞こえてくる激しい鼓動。カイルの胸に顔を埋めているせいもあって、ダイレクトに伝わって来た。


「ありがとう、カイル」


 恥ずかしさのあまり、顔を上げられずにいると、今度は頭上からゆっくりと熱い息がかかった。思わず体が跳ねるが、カイルは気がつかないのか、さらに腕に力を込める。


 いくらここが中庭で、あまり人が来ない場所だからって、これはさすがに……!


「ほんの少し出ただけでこれとは……心臓がいくつあっても足りません」

「ご、ごめんなさい。今後はもっと気をつけるわ。だから、ね」


 そろそろ離してもらえないかしら、と言おうとした瞬間、突然、体が浮いた。


「いえ、俺の言葉を真に受けないでください。そんなことをしたら、一歩もご自分の足で歩けなくなりますよ」

「えっ、それは……どういう意味?」

「移動がすべて、これになってしまいますから」


 これって、横抱きのこと?


 カイルは私が驚いている隙に、前に座ったことのあるベンチに腰を下ろした。勿論、そのままではない。ちゃんと隣に降ろしてくれたのだが……距離が近くて困ってしまう。


 これもまた、私がやらかさないか、心配なんだろうと思うけど……ちょっと過保護すぎない!?


「えーっと、そうだ。ミサと近衛騎士団長の様子はどうなの? カイルは知っているのよね」


 気恥ずかしくて、咄嗟に話題を提供して、空気を換えることにした。とはいえ、恋バナだから、さほど変化したようには感じなかった。


 だって仕方がないでしょう! これくらいしか、共通の話題がないんだから!


「そうですね。本人たちはギクシャクしていますが、傍から見ていると、いい雰囲気に見えます」

「つまり、上手くいっている、ということ?」

「はい」

「でもギクシャクって?」


 いい雰囲気、とも言っていたのに、おかしくない?


「それは純粋に、身分の差が関係しているからです」

「身分?」


 そういえば私、ミサとカイルの身分を知らない。王宮での役職は王女付の侍女と護衛騎士だけど、ここは貴族社会。平民が王女の身の回りを世話するなんて、あり得なかった。


「あっ、もしかしてご存知ありませんでしたか?」

「ミサは私の記憶が戻った、と思っているみたいだけど、実際は違うから。二人の身分を知らないの。勿論、近衛騎士団長のもね」

「そうでしたか……」

「ごめんなさい。カイルも、なんだか期待していたみたいだったけど」

「いいえ。今のリュシアナ様も、以前と変わらぬ魅力がありますから」

「そ、そう? ありがとう」


 じゃなくて、何? 私、口説かれているの? それはそれで、嬉しいんだけど……いやいやそうじゃなくて!!


「ミサと近衛騎士団長って、そんなに身分差があるの?」

「……二人は同じ上級貴族ですから、本来身分差はありません。ミサ殿は伯爵令嬢ですし、近衛騎士団長は侯爵ですから」

「でも、カイルは身分がって言っていなかった?」

「はい。ミサ殿は幼い頃から王宮勤めをしているため、伯爵令嬢であっても、陛下やユーリウス殿下の信頼が篤いんです。だから近衛騎士団長も、惹かれたのかと」


 なるほど。リュシアナの侍女になれたのは、そういう経緯があったからなのね。もしかしたら、小さい頃からリュシアナの面倒を見てきたのかもしれない。

 私にとってもミサは、姉のような存在だから、リュシアナもきっと。


「だったら、何も問題がないと思うけど」

「いいえ。その、俺の口から言うのは気が引けるのですが、ミサ殿は庶子なのです。だから王宮勤めをすることで、ご実家であるエルシオ伯爵家が身分を保証しているだけで、実際は……」


 書類上では認めているけれど、エルシオ伯爵家内でミサは伯爵令嬢とは認めていない。ちょっと面倒だけど、そういうことかぁ。


「それなら尚更、近衛騎士団長がミサを迎え入れればいいのではなくて? ギクシャクする必要なんてないと思うわ」

「俺もそう思います。でも、なかなか難しいようですよ」

「どういうこと?」

「ミサ殿のアプローチの仕方がマズかった、というだけです」


 カイルの話によれば、ミサは近衛騎士団長にアプローチをする、と断言したものの、勇気が出ず、友達を巻き込んだのだそうだ。それにより、アプローチをかける前に、近衛騎士団長の耳に入ってしまい、逆に受ける立場になったという。

 さらに恋愛に奥手な二人、ということも相まって、周りが温かく見守っているのだとか。


「それでギクシャク……あまり身分は関係なかったと思うけど?」

「王宮勤めでありながら、恋愛下手なのは、そこが原因かと」


 何かしら。無理やりそういうことにしているように見えるんだけど。身分差、というと私もカイルと……いやいや、まだそういう関係じゃないし。って、まだって何よ!


「……皆、羨ましがっています」

「え?」

「クラリーチェ殿下の結婚も相まって、この王宮では今、あちこちで次こそは自分が、という熱気に包まれているんですよ」


 あぁ、だからカイルも影響を受けてしまったのね。ミサのことが羨ましい、と。でもカイルにお相手なんて……もしかして、いや。まだそうと決まったわけではないわ。


 だって、それこそ身分差があるでしょう? カイルの身分は知らないけれど……。

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