二話
本日二話目
やって来たのはグラウンド。見渡すと運動部がそれぞれの持ち場で練習している。そこかしこから掛け声や笛の音が聞こえてきて、見ているだけで心と体に熱いものが伝播する。文化部に入っているからといって運動が嫌いなわけではないので、憧れるものがある。それに負けないくらいクイ研にも情熱はあって、それは今でも絶やしていない。
「タクト」
鹿沼先輩が俺に指示や命令をする時は俺の名前だけを口にする。その声のトーンやテンポ、状況を読んで鹿沼先輩の求めていることを察しなければならない。わからなかった場合は少しずつ具体的な内容をヒントのように言うのだが、それが多くなるほどに機嫌が悪くなる。その時の視線は「本当に使えないブタ野郎ね。少し考えればわかるでしょ?もしかして脳みそ詰まってないの?だったら頭に注射器ぶっさして蟹みそでも注入した方がマシになるんじゃない?それかAIを脳に埋め込むしか方法はないんじゃない?」と罵倒されている気分になる。※あくまで想像のお話です。
「はいはい。えーっと…この学校に露出狂の目撃者は聞いた話だと4人いまして、その内の一人、二年生の飛島ウサギさんが陸上部に在籍してます。今の時間だと部活動をしているはず……あ、いましたね。行きましょう」
広いグラウンドで探すのが手間だと思っていたが、同じ学年で顔も知っていたし、ちょうど休憩時間に入ったようで引き上げているところをすぐに見つけることができた。
「飛島さん、ちょっといいかな」
陸上部で固まって休憩されると話しかけ辛いのですぐに声をかけた。
「えっと…太刀川君…だっけ?どうしたの?」
話したことはなかったが名前を知っていてくれているのは嬉しいことだ。
「俺の名前知ってたんだ」
「だってあのお騒がせクイ研の部員でしょ?有名じゃん」
名が知れているのはクイ研の悪評のおかげでした。お礼は言いません。
「で、何の用?」と言う飛島さんは息を切らしている。貴重な休憩時間に申し訳ないので、水分を補給しながら聞いてもらう。
「飛島さんが最近露出狂に遭遇したって聞いたからさ、ちょっとその話を聞きたくて」
露出狂という単語を出した途端に露骨に嫌そうな顔をした。それもそのはず、被害にあったことなど思い出したくもないだろうし、今まで接点がなかった人物が聞きに来るとなると面白がっているように思うだろう。
「なに?あんたも野次馬的な感じで面白がってるの?」
「そういうわけじゃなくて。ちょっと調べたいことがあってさ」
「クイ研のあなたが何を調べるっていうの?意味わかんない」
ほらー…。こうなるのわかってたじゃん…。ていうか汚物を見るような眼つきやめてくれませんか?
説得しようにも突っぱねられる。このままじゃ聞き出すどころか、俺の悪い噂が広まってしまう。そうなれば俺の学園生活は……the end.
何とかあの手この手で聞き出そうとするも状況は悪くなる一方。諦めようかなと心が折れかけた時、
「ごめんなさい。うちのタクトが失礼したみたいね」
後ろからやって来たのは鹿沼先輩だった。その口調は俺が知っているものと違っていたが。あと遅くないですか?けっこう前から俺困ってましたよね?
鹿沼先輩の顔を見た飛島さんは「え?嘘?本物?」と口元を手で覆いながら目を見開いている。そのリアクションはファンであることを証明している。この学校の生徒なんだから偽物のわけないだろ。何なんですかその芸能人みたいな扱いは。
鹿沼先輩が事情を説明するとさっきの態度とは打って変わって喜んで協力してくれた。俺も同じことを話したのに…。
鹿沼先輩の登場で事なきを得た俺たちはしっかりとお礼を言ってから、グラウンドを後にした。運動部の横を通るたびに「鹿沼さんだ」「綺麗…」と視線を集めていても本人は全く動じていなかった。慣れているのだろうが、羨ましい限りだ。
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