36
ついに戦が始まる。
開戦は海戦。
隣国もこちらも領土を戦火で染めたくないのは同じ。また互いの国が離れすぎているのもあり、補給線の問題を考えると出来うる限り海上で決着をつけたいというのが双方の本音である事は間違いない。
勝算は五分五分。いや、こちらが不利かもしれない。
開国以来戦などしたことのない国と、年中海賊やら諸外国と渡り合ってきた国。どちらのほうに分があるかは考えるまでも無い事だ。
「祭宮」
筋肉質な体から発せられたとは思えないような柔らかな声が俺を呼ぶ。
子供の頃からこの兄の後をついて、追いかけて育ってきた。傲慢で意地悪なところのある兄貴に比べ、兄上は落ち着いていて俺に対しては優しかったから。
開戦を間近に、やっと兄上と会う時間をとることが許された。
昔から変わらない声で俺を呼ぶ兄上と視線を合わせると、兄上は真顔で俺を見る。
「妃の事、頼むよ」
目を伏せ、兄上に対してゆっくりと頷き返す。
「畏まりました。義姉上の事はお任せ下さい」
戦が始まれば、隣国の姫君である義姉上のお立場は苦しいものになるだろう。勝っても負けても、王宮内で居心地の悪い日々を過ごすに違いない。
結婚してから今まで一度も懐妊しておらず嫡子を儲けていないということだけでも、王宮内での評判は芳しくない。
その原因の大半は兄上が年の半分は王都以外にいることであると思うのだが、何故か世間は義姉上に厳しい。
カイを持つ三兄弟の中で唯一正妃を持つのが兄上だけに、王族や貴族たちの期待を一身に受けているという現状も義姉上のお立場を苦しいものにしているのだろう。
そこにこの戦。
敵国の姫君である義姉上は、敵視されたり蔑視されたりする事が増えるだろう。
何故なら王が兄貴だから。
本当は兄貴が義姉上を娶りたかったという話を伝え聞いた事がある。
しかし一国の姫君の結婚相手としては、兄貴の母は身分が低かった。兄上の母は外国から嫁いできた正妃。一国の姫君を娶るには、やはり正妃の産んだ子である兄上が相応しいという事になり、未だに兄王の正妃の座は不在。
これで戦の状況が思い通りにならなければ、兄王が義姉上に冷たく当たる事は容易に考えられる。兄上もそのように考えたのだろう。
「しかしまさかお前に頼む日が来るとはね」
兄上は苦笑を浮かべ、先程よりも穏やかな顔で俺を見つめる。それは弟の成長を見守る兄のものだ。
「お前は変わった。いつまでも甘ちゃん王子のままかと思っていたが、腹の据わった顔をするようになったな。何がお前を変えたんだ? やはり陛下の血の粛清を間近で見たからか?」
全く「耳」や「目」に配慮する事のない発言にぎょっとしてしまうが、兄上は平静を保ったまま軍艦の中の豪奢な椅子で笑みを浮かべている。
ここには兄王の手の者は入ることは難しいだろうが、それでも全く周囲を配慮しない発言に驚かされる。
父が王だった時代には、このように兄貴に対して容赦の無い発言をしていたが。
答を言い澱んでいるのを感じたのであろう兄上は、くすりと笑みを漏らす。
「ここにはお前や俺を嵌めようとする者はいない。そのように気を張らなくても大丈夫だ」
確かに居並ぶ近衛たちは兄上直下の者ばかり。生え抜きといっても良い男たちが兄上を裏切る事はないだろう。
だがそれでも、俺は兄上に対してここで心中を漏らすことを止める。
兄上にとって絶対の信頼をおけるものであったとしても、俺にとっては同義ではない。
「俺は覚悟の足らない者ですが、ほんの少しだけ覚悟を決めただけです」
「……というと?」
「水竜のご神託から推測できる未来に対し、今から出来うる限りの手を尽くしておこうと思っただけですよ」
世界が朱に染まる時。
ある者は歓喜の、ある者は悲しみの涙を浮かべるだろう。
朱に大河が染まる時、大地は沈黙し、眠りへといざなわれるだろう。
彼女から聞いた、兄王に伝えたご神託。
彼女がしていたように、ゆっくりと一語一語を噛むように大切にしながら、重みを感じさせる口調で伝える。
聞いていた兄上を始め居並ぶ近衛たちの顔色はみるみる青褪めていく。
俺の背後で控えている「祭宮の両翼」たちの表情は窺うことは出来ない。しかし既にルデアはこの文言の検証を行っているのだから、目の前の近衛たちのような新鮮な驚きは無いだろう。
「祭宮に出来る事は限られています。俺がしなくてはならないことも。それでも何もせずに見ているだけでいる事は出来ません」
それもまた一つの真実。
恐らく戦はこの国にとってあまり良い結果をもたらさないだろう。神託は「世界が朱に染まる」と述べている。即ちそれは国が血で染まる可能性を示唆していると言っても過言ではない。
その時に俺は何もせずにいることは出来ない。
祭宮だから血に触れることは出来ない。戦に参加する事は出来ない。行政権も無い。
それでも俺だからこそ出来る事に手を尽くさなくてはならないだろう。王族の一人として。権力を預かる者の一人として。
「民を思い、民を支え、民の為を考える。それこそが建国王の御言宣。一王族としてそれを厳守するのみです」
肘掛に肘を置いて片手で顎を支えた兄上は、何かを考えるかのように黙り込んだままでいる。
先日内務大臣にも言ったことだが、兄貴や兄上に比べたら愚鈍であると自他共に認めている。兄上の聡明さに俺は適わない。一を言えば十を知る兄上にこれ以上の言葉は必要ないだろう。
「一つ聞くが」
「はい」
「お前はこれが負け戦になると思っているのだな」
「いいえ」
答えは考えるまでも無く決まっている。
負けるとは思っていない。そして負けさせる気も無い。
「勝ち負けではなく、民にとって苦しい状況が起こるのだと神託から感じました。水竜は近年備蓄を増やすように言い続けておりました。その辺りも加味しますと」
「なるほどな」
ふうっと深く息を吐き出し、兄上は居並ぶ近衛たちの顔を見る。
兄上の側近たちは俺もよく知っている。軍にいた頃はギーやルデアと共に鍛えられた事もある。
そして皆、有力貴族の子息たちだ。
俺に付けられた遊び相手と同じように、兄上の周囲にも幼き頃から時間を共有している者たちがいる。俺の周囲がそうであるように、兄上の周囲もまた王宮内で牽制を振るう上位貴族の子息たちだ。
「このご神託は安易に漏らしてもいいものなのか?」
「いいえ。本来は王のみに伝えるものですが、恐らく戦に関わる事かと思いますので閣下にもお知らせ致しました」
「それはすまなかったね、ありがとう。他言無用ということだから」
前半は俺に、後半は近衛たちに伝えられる。
忠実な兄の僕たちは恐らくご神託があったということを全く匂わせることなく、来るべき「その時」に備える為に各家に伝えるだろう。
少しでも事前に手立てが増えれば、それに越した事は無い。
「朱に大河が染まる時、か。陸戦の用意も必要だな」
ふうっと息を吐き出した兄上は間近にいる近衛に視線を送る。その近衛はこくりと頷き返すだけだ。
「犠牲は少ない方がいい。そして負けるわけにはいかない。難しい戦だ」
「申し訳ございません。何のお力になれず」
「そのように気に病む事は無い。お前は祭宮。この国の精神を支えるのがお前の仕事だ。国を守る事は俺に任せろ」
それは心からの言葉なのだろう。兄上の俺を見る目は穏やかだ。
実際に俺が軍に所属していたとしても、どれだけ兄の力になれたかは判らない。それでも少しでもこの難局を切り抜ける手伝いがしたかった。知略も戦力も兄上には劣るのはわかっていても。
気に病む事は無いと兄上に言われてもなお燻る思い。
役立たずだという思い。
何も出来ずに見ていることしか出来ないやるせなさ。
そしてこれから来るであろう国難を知っているのに回避する努力さえ出来ない無力さ。
「兄上」
公的な場であるにも関わらず、俺は兄上と呼んだ。将軍閣下と呼ばず。
兄上は少し眉を潜め、公人としてあるまじき態度をとる俺を諌めるような顔をするが、敢えて気が付かないふりをする。
「もう、止められないのでしょうか」
何をか言わず、何をと問われる事も無い。
近衛たちは苦虫を潰したような顔をしている。何を今更とでも言いたげに。
実際そうだ。
本当に止める気があったのならば、この話が出た時でなくてはならなかった。明日にでも戦を始めようというこの時になって言い出す事ではないのは重々承知している。
「相変わらずお前は甘い」
一刀両断する兄上の声に感情の色は無い。視線は他者を圧倒して気後れさせるだけの十分な迫力を持っている。
国王と将軍の弟でありカイを持つ者の発言として相応しくないものであることを、俺自身十二分に理解している。だが、どうしても納得できなかった。
軍の長である兄上は正確に全軍の戦力を把握している。通常の兵では足りず、新たに徴兵して戦力の増強を図っている。兵のみならず、漁船さえも徴収しているのが現状だ。そこまで人も物も不足している。
客観的に見て、戦をする事はこの国にとって好ましくない結果を齎す事が目に見えている。それでも何故戦をするのか。どうして兄王を止めなかったのか。
「甘いのは重々承知しております。しかし何故」
「皆まで言うな。ここにいる誰もが思っている。そして断腸の思いで兵を戦地に送るのだ」
そうだ。何も考えていないはずがないではないか。きっと俺以上に兄上を始めとする軍の人間はこの戦の無益さを理解しているのだ。
俺が口に出したのはあくまでも感情論でしかない。しかも愚かすぎるものだ。
「申し訳ございませんでした」
謝罪を述べる俺に兄上はふっと笑みを漏らす。
「陛下の傍におりながら、その感覚を持ちえていたことに安心したよ」
「兄上」
再びそう呼ぶのを今度は咎めるような顔をせずに受け止め、兄上は軍艦の外の景色に目を向ける。
小さく切り取られた窓から見えるのは「花の王都」と呼ばれる、かつて建国王が作り上げた美しき都。そしてそこに君臨するのは兄王。
「頼んだよ」
短い言葉に全てを籠めた兄上に対し、頷き返してその信頼に応えると約束を交わした。
「祭宮っ」
王宮に戻るやいなや、兄王からの呼び出しが掛かる。
兄上に会いに行った格好のまま玉座の間に侍ると、イライラとした様子で玉座の肘掛を指でコツコツと叩き続ける兄王が俺を呼ぶ。
玉座から遠く入り口の傍にいたが、足早に玉座の傍に歩み寄り礼をすると、兄王はふんっと鼻で俺のことを笑う。
「どこに行っておった」
「将軍閣下が戦にお出になるという事でしたので、出立に先立ち、ご挨拶をしてまいりました」
「そのようなものわざわざしなくとも良い。先日の観艦式で軍への壮行は終わっておる。お前がわざわざ出向く事がどれだけ醜聞になるか考えたのか」
将軍の出立に際して挨拶に伺うのが醜聞か? 随分と大げさな。
しかし口答えをしても面倒が増えるだけで、今回はその面倒に兄上を巻き込んでしまうことになる。
「申し訳ございません。私の船が将軍閣下のお役に立てているのかどうかもこの目で確かめたかったので、つい出向いてしまいました」
船に実際に足を踏み入れて通されたのは操舵室そばの会議室。
俺が使用していた私室には鍵を幾重にも掛けて誰も立ち入る事を禁じていた。そこまでして俺を血の穢れから遠ざけようとしているのを感じた。
それがいずれ俺に船を返すからだと言外に言われているような気がする。そして兄上は決して船を血で汚さぬと約束してくれた。それがどんなに難しい事なのか俺にだってわかる。
そして負けるかもしれないという戦に挑み、負けることを許されないプレッシャー。
兄上の背にこそ、俺は覚悟を感じざるを得なかった。目の前のもう一人の兄貴よりも、ずっとずっと。
「ふんっ。相変わらず奴に懐いているわけか」
そうか、兄上に嫉妬しているのか。俺を手の内におさめたはずなのに兄上に会いに行ったりしたから。
この短期間で大分依存度が上がってきたようだ。傍にいた忠臣たちが信じられなくなってきたのもあるのかもしれないな。
内務大臣に手渡された薬の効き目は上々のようで、苛々として己の正当性ばかりを語り、権力への強い執着ばかり見せる内務大臣に嫌気がさしてきたようだ。
ほんの少し本音を吐露しやすくなる薬なのだが、あの薬を飲むとどうやら少々攻撃性があがり建前を上手く使えなくなるようだ。
内務大臣の口から出るのは俺を罵るような言葉ばかり。よっぽど俺の態度が癇に障ったようだ。以前からよく絡んできたし、俺が目障りだったのだろう。
しかし今の俺はほんの少しだけ兄貴の信頼を得ている。
決して「逆らわない」という事によって得た信頼だから、砂上の楼閣でしかないのだが。
だが王太子に指名されたのにも関わらず俺や兄上のほうが王に相応しいと揶揄され、王になってからも存在を軽んじられてきた兄王には、逆らわない俺の態度は今までの周囲の態度とは趣を異にするものだったのだろう。
苦言を呈する事もしない。論じる事もしない。かといって誉めそやすような事もしない。おだて上げようという見え見えな態度も取らない。
ただ忠実に頭を下げるだけ。それは大層お気に召したようだ。
どれだけ人間不信だったんだよ。兄貴。
人に恵まれなかったんだな。
傍にいて思った。この人がこんな態度になってしまったのは、権力欲まみれの周囲にも一因があるのかもしれないと。
誰よりも強いと顕示しなくては思ってしまったのは、己ではなく王冠だけを見る取り巻きたちへの失望からきているのかもしれない。
だからといって同情なんてしないけどな。
「戦場に赴く将軍閣下への挨拶を一度きちんとしておきたく、本日ご挨拶に伺いました。その事が陛下に不快感を与えるとは思ってもおらず、浅慮でした事、お詫び申し上げます」
あくまでも臣下の者として詫びの言葉を述べて礼をすると、呆れたような溜息が頭上に降り注ぐ。
玉座に文字通り踏ん反り返った兄王はつまらなそうな顔をしている。まるで興味を失ったとでも言わんばかりに。
「そう言われては何も言えんな」
ふんっと凡そ王らしくない悪態をついたかのような態度で俺を見下ろした兄は、人差し指だけで手招きして俺を呼ぶ。掌で呼ぶのも億劫といった様子で。
数歩だけ玉座に近付き、その前で膝を折る。
「いかがなさいましたか」
「夕餉に付き合え。奥で用意しておく」
兄王と食事を共にするなどもう何年も無い事だ。しかも奥だと。
背後に控えているであろうギーとルデアを振り返りたい気持ちが湧いてきたが、ぐっと堪えて頭を下げる。
「ありがとうございます。では後程窺います」
「うむ」
何か用件があったのではないようだ。単純に俺が兄上を見舞ったのが気に入らなかったのか。それで食事、ね。
くくっと笑みが浮かびそうになったのを堪えるが、自然と口角が上がってしまう。こんなにあっさり罠に嵌まってくれるとは。
それをどう捉えたのか、兄王は満足そうな笑みを浮かべる。
自分が騙されているとも知らずに。
「どうでした」
祭宮の私室に戻るとギーが王族の平服という軽装で俺を出迎える。
「ルデアは」
「あまりこちらに頻繁に窺うと入らぬ警戒を抱かれるのではということで、後で俺から説明する事になっています」
確かに私室に入れるのは王族や最上位の貴族である公爵家のもののみ。公爵家が王族の私室に入ることが許されているのは、今は王族として名を連ねていなくてもかつては王族であったり王族と姻戚関係にあるからだ。ルデアの地位は伯爵。よほどの事がない限り、こちらに立ち入る事は出来無い。
「なるほどね」
ルデアの気遣いに納得を示すと、ギーが勝手知ったるという態度で酒瓶の並ぶ棚を開け、酒とグラスを取り出す。
今日のギーはどうやら葡萄酒の気分だったようだ。
基本アルコールが入っていればなんでも飲むというギーなのだが、その日によって飲みたい酒が変わるようで、その時により手に取る酒が変わる。
テーブルの上に置かれた葡萄酒のラベルを見ると、見覚えのある村の名が印字されている。彼女の生家がある村の名だった。
この場面でそれを出してくるとは。
苦笑が浮かぶが、ギーは全く気にする事もなく器用に葡萄酒のコルクを開ける。
「食事はいかがでした。今のご様子から察するに毒は盛られていなかったようで安心しました」
「わからないよ。遅効性かもしれないから」
笑いながら言うと、ギーはははっと笑い声を上げる。
「そんなもの、入手するの不可能に決まっているでしょう」
「だな。それを手に入れる為にはギルドを通さなくてはならないしな」
くくっと笑い声を上げる俺にギーが肩を竦める。
「本当に意地が悪くなって、真人間に戻れるか心配ですよ、俺は」
真人間か。
今の俺と以前の俺。どっちが本当の俺なのだろう。
今は今で楽しくてしようがない。以前のように鬱屈とした気持ちは無い。
早々に兄王を失脚させ、兄上を玉座に据えて戦を終わらせる。
今まで目的らしき目的を持って動いた事の無かった俺の中に明確な目標があるせいだろうか。
兄貴の残虐さと兄上の冷酷さ。全く同じものが俺の中にもあるのだろう。残念ながら俺は思慮深くも無く情味もなく、そして覚悟も無いのだが。
「ま、目的を完遂すれば後は兄上任せなわけだから」
「……最後まで責任持ちましょうよ」
暗に言われているのは玉座に座れという事だろう。だが、俺にはそのつもりは一切無い。
「嫌だね。俺は運命に従って生きるんだから」
「いつから運命論者になったのです。あなたそういうの大嫌いだったでしょうに」
本気で呆れているギーには俺の暗喩が伝わっているのだろう。
--そこで運命にあうでしょう。
俺に関する一つのご神託。俺の運命の歯車は水竜が動かしているのか、はたまた水竜の巫女が動かしているのか。
けれどそのどちらでもない。今突き動かしているのは多分、独占欲。絶対に譲ってなるものかという強い意思。
「いいんだ。たった一人の女に狂わされる人生って詩的でいいだろ?」
「あまり売れそうなネタじゃないですけれどね。で、どうだったんですか王は」
きちんと本題に戻したギーに奥であったことを伝える。
全くもって収穫の無い食事会といったところだったが、兄王も父上も上機嫌でいた。ここに兄上が揃えばと思ったが、恐らくそれは永久に来ないだろう。
兄王は俺を嫌っている。だがそれ以上に誰よりも兄上の事を憎悪しているのだから。
このとき俺は兄王を手中におさめつつある事に手ごたえを感じ満足していた。だから兄上にあのような事が降りかかるなど思いもしていなかった。
そして未だ「闇」を掌握しきっていない現実を甘受しすぎていた。時が来れば全て掌握できるからと、暢気に構えすぎていた。
そういう意味ではどこまでも俺は甘ちゃんだ。




