四十話『……はえ?』
翌朝、すっきりとした気分で目が覚めた俺は、隣で寝ているアルを起こす。
「む、もう朝か。では急ぎ準備をして向かうとしよう」
目が覚めてすぐに、ベッドから起き上がるアル。そしてそのまま着替えて準備を整える。
俺も一度部屋に戻って身支度を済ませ、アルと朝食を済ませた後に会場へ向かう。
試合が始まる前に、魔導具を箱から取り出して左腕に装着する。
「それが、ユウリ様の仰っていた魔導具ですか?」
「今日、動作試験で初披露目です。魔法陣を五つ搭載した画期的な魔導具ですよ」
それに気づいたサーシャが、興味津々に俺の魔導具を見ながら声を掛けてきてくれたので、少し自慢げに見せながらそう説明する。
「へー、それがユウリの言ってたやつか。けど、魔法は五つしか使えないんだな」
「理想とはちょっと違うね」
ルークとルナの二人も興味を示し、近寄ってきて間近で見ながら口々に感想を述べる。
「確かに妥協した部分はありますが、それでも求める性能水準は十二分に満たしています」
「ま、なんにせよ。それが目的で此処に来たって言ってたし、手に入ってよかったな」
「ええ、とはいえ最終確認はこれからなので、喜ぶにはまだ少し早いです。というわけで、今回は先鋒を頂きますね。次鋒がルナ、中堅にルークで副大将にアル、大将にサーシャでいいですか?」
周囲にそう聞くが特に反対意見は出なかった為、その組み合わせでやることに。本戦からは、全員一戦と決まっているため、皆順番についてはどうでもいいようだ。
「じゃあ、行ってきます」
左腕に装着した魔導具にチラチラと目を向けながら、意気揚々と決闘場の上に登る。強者との戦いよりも、魔導具を始めて実戦で使える事の方が嬉しさは大きい。
「なんだ、俺の相手はあの三人じゃないのか」
対戦相手は剣士。剣一本を腰に下げ、それ以外余計な装備を付けていない。ライラット以外は皆、魔導具を使った戦いを繰り広げていたが、剣一本だけとは余程腕に自信があるのだろう。
「戦いたければ、後で頼んでみるといいですよ」
ルナ辺りに頼めば快く相手になってくれるだろう。最もそれは、猛獣に喧嘩を売る行為と同義だけど。
「両者共に準備はいいな? ……それでは、これより三ヵ国同盟主催決闘大会、本戦を執り行う。それでは、試合開始!」
試合開始の合図と共に、俺は身体強化の魔法陣を押し込み発動させる。
相手も身体強化を使ったのか、剣を鞘から抜きすさまじい速さで距離を詰めてくる。
冷静に防御魔法『ライトシールド』の魔法陣を押し込み、相手の攻撃に合わせて薬指でトリガーを引いて目の前に障壁を展開させる。
「堅っ!?」
相手の剣の一撃を受けてもライトシールドには傷一つ付いてはいない。防御力は十分、ならば次は攻撃力だ。防御魔法を解除し、初級魔法『ライトボール』の魔法陣を押し込み相手に向けて中指のトリガーを引く。
「っ!?」
至近距離からの発砲にも関わらず、目を見張る反射神経でそれを回避する相手。
魔導具から放たれたライトボールは、そのまま観客席下の壁に向かって真っすぐと飛んでいき、そのまま壁にぶつかり大きな音と共に破裂すると、石で出来た壁をやすやすと砕く。
「……はえ?」
予想以上の威力に唖然とする。本気で魔法を使った時と同等の威力が出ている。
どうしてこうなった。魔法陣は既存の物を小さくしただけなので、原因は俺の魔力にあるとしか考えられない。
避けてくれた対戦相手に感謝しなくてはならない。当たって居れば怪我では済まなかっただろう。魔族のような相手でもない限り、攻撃は自分でやるとしよう。
「……嘘だろ」
対戦相手も後ろの壁に目を向け、表情が青ざめ引きつっている。観客も、口を大きく開けて何が起こったのか理解しきれていないようだ。
その威力を見て、たまらず審判も一時試合を中断し、俺に対して攻撃に魔導具の使用をやめるように言ってくる。
「すみませんでした」
審判と対戦相手に謝罪し、攻撃には魔導具を使わないと誓い、試合は仕切り直しとなる。
「さっきはビビったが、もう同じ手はないってわかったからな。あれさえ無けりゃ怖くはないぜ」
再び、剣を構えて突っ込んでくる相手。先ほどと同じように、相手の攻撃に合わせて前面に防御魔法を展開するが、それを見てから剣を振り下ろす手を止め、地面を蹴り真横に回り込んでくる。流石に本戦に残るだけあって、二度も同じ手が通用するほど甘くはないらしい。
「攻撃はダメといわれましたが、それ以外はダメとは言われていませんよ?」
とはいえ、動きがルナのように単純で読みやすい。しかも彼女のように単純さを補ってあまりある速さも力もない為、落ち着いて次の一手を打つことが出来る。
回り込んでくる間に拘束魔法『ライトチェーン』の魔法陣をスクリプト押し込み、小指のトリガーを引く。魔法陣から飛び出した光の鎖が開いての腕に絡みつき、動きを制限させる。
「くそっ、このっ」
相手は出鱈目に暴れて、拘束を解こうともがくが、普通の魔法以上の強度があるそれからは、身体強化をしていようとも逃れられることはできない。
「これで一通り、動作確認はできましたね」
少し予想以上だったものもあるが、むしろ制限なしに本気と同等の魔法が使えるのは助かる。デチューンする必要はないだろうし、魔導具はこれで完成として良いだろう。中級魔法を試していないが、それは禁止されて試せない。となれば、俺にこれ以上続ける理由はない。
「棄権していただけませんか?」
動けない相手に一方的に魔法を撃ち込む事はしたくない。傍から見ても勝負はついているだろうし、相手に棄権するように促す。
「……断る」
「そうですか、ではこれでどうでしょうか?」
空中に無数のライトボールを展開させ、もう一度棄権の意思がないか尋ねる。
単なる脅しで、棄権しなくとも全て撃ち込むつもりはない。
「わかった棄権する」
初級魔法とはいえ、一度に大量に受ければ無事ではすまない。それに、先ほどの威力も目の当たりにしているからか、相手は引きつった表情で棄権を宣言する。
「えげつない」
「可哀想」
「流石はユウリ様」
闘技場から降り、四人の所に戻ると口々にそう言われる。
「怪我するよりは良いじゃないですか」
「相手にも誇りってもんがあるだろ」
「うぅ……そう言われると、悪い事をしてしまいましたかね」
無傷で済むならそれに越したことはないだろうと考えていたが、ルークにそう言われ確かにと納得してしまう。相手は本気で向かってきていたのだし、それに応えるべきだった。
魔導具の動作確認で頭が一杯だったからか、相手への配慮を欠いてしまった事は反省しなければならない。
「そうだよ、ちゃんと真正面から全部破らないと!」
それはそれで如何なものかとも思うが。
「いや、それはそれで傷つくだろ」
「そう? むしろ燃えない?」
「いや、それお前だけだと思うぞ。つかスゲー精神構造だな」
発現がとことん戦闘民族なルナに、もはや呆れを通り越して感心の念すら抱くルーク。
「まぁ、見ててよ、私が本当の戦いをユウリに見せてあげる!」
そう言って決闘場に向かい、ものの見事なまでに相手を打ち破り怪我一つ負う事無く戻って来るルナ。
「いえーい、大勝利ー!」
「……あれが本当の戦いですか?」
「あれは、戦いですらないぞ」
「対戦相手に同情する」
「というか、相手泣いておるのだが」
先程の言っていた通り、相手が打って来る一手一手、不意打ちも搦手も、全て力技で粉砕し、拳を一撃相手の腹に叩きこんで終わらせる。相手からすれば絶望以外のなにも残らないだろう。こればかりは、運が悪かったとしか言いようがない。
「全力で挑んでくる相手には、全力で応えるのが礼儀……って、ユウリママが言ってた」
「まさかの身内が関わっていたという衝撃の事実」
そう言えば、俺が欲しければ自分を倒せとかルナを焚きつけていたし、ひょっとしてルナの戦闘民族な性格の根源はリュカにあるのではないだろうか? 知りたくなかったその事実。
「よし、んじゃ俺で試合を終わらせてやるか」
ルークはそう言いながら、剣を肩に担ぎ準備運動をしながら決闘場に向かって行く。
相手は同年代とは思えない程の大柄な体型、そしてこれまでに見ない程の重装備。大量に魔導具を装着し、ちょっとしたパワードスーツのようにも見える。
開幕、相手は空へ逃げるや否や、複数装備した魔導具を生かし、雨のように魔法を降り注がせる。予選でサーシャ相手したティシュトルと同じ戦法ではあるが、あの時と比べると圧倒的に降り注ぐ魔法の量が違う。
それに対して、ルークはどう対処するのかと思えば特になにか手を打つわけでもなく、急所に来た魔法のみ剣で払い、それ以外は全てその身に受けている。
相手の魔力切れ狙いなのだろうが、ルークの受けるダメージの蓄積が心配だ。
だが、それを他所に、相手の高度が徐々に下がって来る。どうやら魔力が少なくなり十分な浮力を得られなくなってきたのだろう。
そのまま浮いていてはやがて魔力切れとなり、重装備のまま地上に叩きつけられてしまう為、相手は弾幕を張ったままルークから距離を取りつつゆっくりと加工していく。
「やっとガス欠か」
その瞬間を逃さず、一気に距離を詰めるルーク。魔法を受けようがおかまいなしに、最短距離で相手の元まで走る。相手は慌てて再び空中へ逃げようとするも、すでに遅くルークに足を掴められ、そのまま地上に引き戻される。
そして剣で一撃。魔導具の隙間を狙った一撃が綺麗に入る。しかしながら、相手もタフでそれだけでは気を失う事は無く、なんのこれしきと言わんばかりに魔導具で反撃する。
「アースシールド」
ゼロ距離から弾幕を貼られて、ルークはたまらず防御魔法で身を守りながら後ろに跳んで距離をあける。
一度で決める事はできなかったが、先の一撃は確実に効いている。現に相手は片膝をついたまま立ち上がる事ができないでいる。このまま休ませて回復されてしまう前に、もう一度距離を詰めてトドメをさしたい所だろうが、出鱈目に放たれる魔法により、容易に近づく事ができない。
「さて、ルークはどうしますかね」
「真正面から突っ込むに一票」
「あ、やっぱり?」
ルークは大きく息を吸い込むと腕で正面をガードしつつ、ルナの予想通り雄叫びを上げながら弾幕の中へと突っ込んでいく。
怪我は覚悟で肉を切らせて骨を断つ、ルークの悪い癖だ。ルナの攻撃を毎日のように喰らっていたからか、タフさのあるルークだからこその戦い方ではあるけど。
魔法を喰らっても怯むことなく突き進むルークに対して、相手はルークに受けた一撃が効いており動くことができない。
「勝負ありだな」
横で小さくサーシャがそう呟く。そしてそれと同時に、トドメの一撃を入れたルークの勝利が決まった。
「なんとか勝ったぜ」
傷だらけで帰ってきたルークは一言そう言うと、ドカッと椅子に腰を降ろして一息つく。
「ルークはまた無茶な事して、治しますからこっち来てください」
「この程度へーきへーき」
「えい」
傷口を指先で軽く押す。
「いててて! 何するんだよ!」
「ほら、平気じゃない」
「傷口押したら誰でも痛がるわ!」
「いつでも僕が側に居て、こうして怪我を治してあげられるとは限らないのですからね」
「わーってるよ」
そう忠告しても返って来るのは適当な返事で、まったく聞き入れてくれる様子はない。
ルークの治療を終わらせると、俺は小さく溜息をつく。
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